第70話 竜殺花(4)


 『樹炎鉱』を使うことで『竜殺花』クリムゾンカルネージを燃やすことが出来るのだが、その際、毒の煙が発生する。


 下手をすると、この陥没穴シンクホールを拠点として使うのは難しくなってしまうだろう。

 『死の谷デスバレー』の周辺から動植物がいなくなってしまった原因と同じだ。


 しかし、今後の展開を考えると急ぐ必要があった。俺はグガルとダタンへ、遺跡から運び出した蜥蜴人リザードマンたちを移動するように指示する。


 力仕事に向かないミリアムには、火をおこしてもらった。グガルとダタンが協力して、眠っている仲間を運ぶ中、俺は武器を戦斧バトルアクスへと持ち替える。


 まずは遺跡から伸びた植物の根以外の部分を斧で切断するためだ。『樹炎鉱』を使えば一掃できるのだろうが、それだけ多くの毒煙が発生してしまう。


 そのため『可能な限り、植物を切除しておくべきだ』と考えた。

 生木は燃えにくいが、ミリアムが用意してくれた焚火たきびへとくべる。


 眠りの効果があったのは花粉だけのようだ。

 燃やした際の煙や灰には、問題がなかった。


 咲いている赤い花も、出来るだけって〈アイテムボックス〉へと収納する。

 少しは大気に舞っている花粉の量も減るだろう。


 運び出した蜥蜴人リザードマンの内、何人なんにんかが目を覚ましたようだ。

 まだフラフラしている。真面まともに歩ける状態には見えない。


 ミリアムたちに状況を説明してもらったのだが『樹炎鉱』の使用には「反対だ」と言われてしまう。


(当然、そうなるだろう……)


 グガルとダタンは若い世代であるため、彼らとは考え方が異なるようだ。

 まあ、一番の理由は、発案者である俺が子供だからだろう。


 ミリアムたちとは違い、彼らは俺の能力をの当たりしたワケではない。

 『人間族リーン』の子供の言うことなど『信用できない』と思うのは当たり前だ。


 それに先祖代々守ってきた土地でもある。先代より意志をぎ、大人である蜥蜴人リザードマンたちは、遺跡に火をけるような行為こういに抵抗があるのだろう。


 また、発生する毒により、周囲の生態系にも悪影響を与える。

 だからこそ【白闇ノクス】は『竜殺花』クリムゾンカルネージの開花場所に、ここを選んだ。


 ただ、彼らにとって残念だったのは、俺が急いでいた事だ。

 代案がない人間ほど、権威をかざす。


「若い奴らは苦労をすることを知らない。すぐに安易な方法をとろうとする……」


 オレが若い頃は――とくだらない言い訳が始まりそうだ。

 使うべきは知識であり、現状維持は悪手でしかない。


 彼らは『竜殺花』クリムゾンカルネージの成長を手助けしているだけだ。

 正直、今まで戦ってきた魔物モンスターと比べると、蜥蜴人リザードマンなど文字通り、大きな蜥蜴とかげだ。


 時間がしかったので一番体格のいい、強そうなヤツを〈シールドバッシュ〉で吹っ飛ばす。蜥蜴とかげというより恐竜アンキロサウルスに近い形状をしている。


 てっきり頑丈がんじょうだと思ったのだが、陥没穴シンクホールはしまで飛んでいってしまった。

 どうやら、手加減に失敗したらしい。遣り過ぎてしまったが――


(たぶん大丈夫だろう……)


 職能クラス持ちのようだが――『人間族リーン』より強い――といった程度らしい。

 まあ、巨大スライムや巨大サンドワームを倒せる俺が異常なのだろう。


 残りの連中にも、かかってくるよう挑発し、速度スピード攪乱かくらんする。

 背後に回り込んでり倒す。対応はゴブリンと一緒だ。


 盗賊といっても、俺の移動速度スピードに反応できるヤツはいないらしい。

 体調が万全ではない事もあり、全員伸びてしまった。


 実力差を知っていたためか、ミリアムたちが額に手を当て、やれやれと首を左右に振る。


 取りえず、エーテリアに【白闇ノクス】と関係がありそうな蜥蜴人リザードマンが居ないかを確認してもらった。


 エーテリアも完全に把握はあくできるワケではないようだ。

 分かっていれば、遺跡から運び出した際に気が付いただろう。


 彼女の話によると――


「思念のようなモノが残っていますね」


 という事だった。憑依ひょういしていた場合は分かりにくいらしい。

 ただ、エーテリアが手をかざしていたのは、地面の方だ。


(第三者である何者なにものかがひそんでいたのかもしれない……)


 俺の見立てでは――ここで『竜殺花』クリムゾンカルネージ繁殖はんしょくさせ、東の地へ影響を与えるつもりだろう――と考えていた。


 地球と同じく星が自転しているのであれば、西から東へと大気は移動する。

 例えば『竜殺花』クリムゾンカルネージとアンデッドを組み合わせた場合、相当に危険だろう。


 足となる馬や地走鳥ロックバードが使えないのであれば、人や荷物を運べない。

 つまり、逃げることに制限が掛かる。


 また、籠城戦ろうじょうせんを行おうにも、水と食糧には限りがあるだろう。

 一方でアンデッドには休息の必要がない。


 街や村が消えるのは時間の問題だ。

 暴れられても面倒なので、蜥蜴人リザードマンたちには、このまま眠っていてもう事にする。


 俺は採取さいしゅした花を蜥蜴人リザードマンたちの顔に乗せた。

 焚火たきびの番をグガルとダタンに任せ、ミリアムと遺跡の中へ入る。


 早速『樹炎鉱』を使うのだが、適切な量が分からない。まずは各部屋を回り、少量の『樹炎鉱』を『竜殺花』クリムゾンカルネージへと埋め込んでみる。


 すると、見る見るうちに黒ずみ、炭化して行く。『樹炎鉱』を埋め込んだ周囲が赤く光っていたが、炎が燃え上がることはなかった。


 少量でも、かなりの範囲に効果があるようだ。

 だが、毒の煙が発生するため、一度に炭化させるのは危険だろう。


 スライムの時と同様、少しずつ対応することにした。

 休憩を入れ、外への影響も確認する。


 黒煙は上へとのぼるが、風向きによっては地上に影響が出るだろう。

 すぐに終わらせるつもりだったが――


(これは時間が掛かりそうだ……)

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