第69話 竜殺花(3)


 確か【空の時代】――『天人族アダマ』の暴走に対し――『竜人族ドラン』はなにもしようとはしなかった。


 そのため【水の時代】となり『竜人族ドラン』は『翼を失った』と伝えられている。

 この花――『竜殺花』クリムゾンカルネージ――の効果により『竜人族ドラン』が眠らされていたのだとしたら?


 『なにもしなかった』のではなく『なにも出来なかった』という可能性の方が高い。

 【白闇ノクス】は大昔から、人類を滅ぼすために手をくしていたようだ。


随分ずいぶん粘着ねんちゃくされたモノだな……)


 人間の寿命で考えるのなら、途轍とてつもない年月だが【白闇ノクス】にとっては違うのだろう。その存在意義は人類の破滅にあるらしい。


真面まともに策をつぶしていてはあちかないな……」


 こちらにも策が必要だ――そんな俺の言葉にエーテリアは首をかしげる。

 まあ、彼女たち神々にとっては数多あまたある世界の内の一つ。


 その中での出来事でしかない。基本は『その世界に住む人間たちの手によって解決されるべき』という立場スタンスであるため、考え方の基点きてんが違うのだろう。


「目標の設定は【終末の予言】の阻止そし。これは絶対条件だ」


 人類が滅んでしまっては、文字通りゲームオーバーとなる。

 考えるのは、そこにいたるための手段プロセスだ。


「結局は拠点が必要になるか」


 現状、俺一人で出来ることは限られている。

 まずは仲間を集めつつ、状況の把握につとめなければいけない。


 そのためには人々が集まるための拠点が必要で、生活するための基盤といえるような場所が必要だ。つまり、砂漠の都市『アレナリース』となる。


 俺の持つ知識では『王国の名前でもある』と記憶されているが、砂漠と化し、暮らす人々が居なくなってしまった。


 国としての体裁ていさいを保っているのかはあやしい。また【終末の予言】によると、アレナリースは魔物モンスターの軍勢が押し寄せる場所でもあった。


 人々が残っているのだとすれば、戦う意思のある人間たちか、行き場を失った人々だけだろう。


 少しでも、滅びにあらがおうとする意志のある人間が集まっているのであれば――


(反撃に転じるのなら、アレナリースが最善ベストか……)


 イスカたちも、王都であるアレナリースを目指して移動している。出発を待つように頼んではいるが、食糧が少ない現状では、オアシスにとどまることも難しい。


 今日あたり、出発しているのかもしれない。

 早めに合流したい所だが『竜殺花』クリムゾンカルネージの問題を放置しておくのは悪手だろう。


 今までの経緯からも分かる通り、事件はつながっている。

 後回しにすると、被害は拡大すると見ていい。


 人類にとってはアレナリースの壊滅を防ぐことが【終末の予言】の阻止そしつながる。

 また、エーテリアが準備してくれた【神器】を手に入れなければならない。


 結局は最初の予定通りに、動くことになるようだ。

 アレナリースの状況も分からないので、ミヒルたちのことも心配である。


「ここでの事件を早く、終わらせよう」


 俺がつぶやくと同時に、ミリアムたちが戻ってきたようだ。

 手を振っていたので、俺も振り返す。


 地走鳥ロックバードも一緒だったが、様子がおかしい。

 遺跡の近くまで来ると、立ちまって動こうとしないようだ。


(近づくのを嫌がっている……)


 いや、花粉を警戒しているらしい。

 確か鳥には、空気をめる役割を持つ、気嚢きのうがあったハズだ。


 地走鳥ロックバードが花粉の影響を受けにくいのは、肺に空気をめておけるからだろうか?

 『炭鉱のカナリア』という言葉もある。


 花粉に対して、蜥蜴人リザードマンよりも敏感びんかんなのかもしれない。

 また『鱗人族メロウ』は『竜人族ドラン』から派生した種族だ。


 蜥蜴人リザードマンたちが極端に『竜殺花』クリムゾンカルネージの花粉に弱い体質という可能性もある。

 ミリアムたちが手綱たづなから手を放すと、何処どこかへ走り去ってしまった。


 遠くへは行っていないと思うが、近くに安全な場所があるのだろうか?

 ミリアムは「仕方がない」といった様子で肩をすくめる。


 俺はグガルとダタンの二人に声をかけ、遺跡から運び出した蜥蜴人リザードマンたちが全員そろっているか、確認をとってもらう。


 また『竜殺花』クリムゾンカルネージの存在は危険だ。

 排除するようにミリアムへ提案する。


 このまま『放置する』という手もあるが、その場合『竜殺花』クリムゾンカルネージの花粉の影響は広範囲に及ぶだろう。


 なるべく、早い内に終わらせておきたい。

 使うのは『樹炎鉱』だ。こうなる事を予想して、持って来ていた。


 ただ、植物を駆除するのには向いているが、毒の影響が残る。『死の谷デスバレー』の地形から推測するに、巨大な『竜殺花』クリムゾンカルネージを焼き払った跡かもしれない。


 集落のあった場所が陥没穴シンクホールで、そこから根が伸びていた――と考えるのなら、あの地形が出来たことにも納得がいく。


 『竜殺花』クリムゾンカルネージの根は地中へとどいている。何処どこまで伸びているのか分からない以上、確実に排除するには、ここで『樹炎鉱』を使うべきだ。


 しかし、蜥蜴人リザードマンたちにとっては、ここは聖地でもあり、守護すべき場所でもあった。ミリアムは悩んだ末に、許可を出してくれる。


 後ろで聞いていたグガルとダタンはなにも言わなかったので『了承した』と考えていいのだろう。


 確認も終わったようだ。遺跡から全員、無事に運び出せた。

 皆、屈強な男性なので、ミリアムが運ぶには無理がある。


 蜥蜴人リザードマンであるグガルとダタンでは、花粉を吸ってしまい、救助の途中とちゅうで眠ってしまっただろう。


 どういう経緯で俺を選んだのかは分からないが、ミリアムの判断は正しかったといえる。


(ただの子供だと思っていたが、なにかあるのかもしれない……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る