第68話 竜殺花(2)


 いとしの女神様の話によると【空の時代】より――この陥没穴シンクホールの地形は――『竜人族ドラン』たちが好んでとしていた場所らしい。


 ゆえに『竜のかご』と呼ばれていたようだ。

 遺跡から伸びている植物の根。


 そこに咲いている赤い花にも、見覚えがあったらしく、


「『竜人族ドラン』たちのに、よく咲いていました」


 と教えてくれる。

 ただ【空の時代】の植物はもっと大きく、花の香りも強かったという。


「恐らく、魔力の関係じゃないか?」


 と俺は推測する。魔結晶だけでは成長の源エネルギーとして、足りなかったのだろう。

 肥料を与えれば、野菜は大きく育つ。


 魔力が成長のかてとなるのなら当然とうぜん、肥料としての役割もになっているハズだ。

 だが、農業の場合は『大きい野菜を作ればいい』というモノでもない。


 規格に合わない野菜は、農協に買い取ってもらえないからだ。

 買い取ってもらうには規格に合った野菜を作らなければならない。


 農協を通さずに『直接、自分で売った方がいい』という見方もあるだろうが、農家も高齢化している。それに不作の場合は勿論もちろん、豊作の場合もリスクがあった。


 作り過ぎると値段が安くなってしまう。

 そのため『目先の利益よりも安定した収入を選ぶ』というのは当然の流れだ。


 手数料マージンは取られるが、農協はすべて買い取ってくれる。

 問題は、それだけだと食べていけない農家があることだろう。


 自分たちのような苦労はさせたくないと、子供には公務員をすすめる。

 農家は減る一方だ。


 更に政府による減反政策。

 日本の食料自給率は、今やカロリーベースで38%だ。


 令和になって『原油高』『円安』『テロの拡大』とリスクがね上がった。

 シーレーンを封鎖されてしまった場合、輸入穀物に依存している日本の畜産はどうなるのだろうか?


 壊滅して、餓死者が出ないことをいのろう。

 もしかして、それに対しての回答がコオロギなのだろうか?


(いや、単に昆虫食が流行はやっていただけか……)


 二〇二〇年からレジ袋の有料化がスタートし、エコバッグに変わったが『海洋環境の保全に効果があった』とは言い難い状況だ。


 ペットボトルや漁網などの人工物による漂着ゴミの割合が『多くを占めている』と聞く。緩効性肥料におけるプラスチック被膜殻も問題だろう。


 海外ではレジ袋を禁止にしたら、かえってプラスチックゴミが増えたらしい。


流石さすが、いい大学を出ている人間が考えることは違うな……)


 俺は遺跡で倒れている――いや、眠っている――蜥蜴人リザードマンたちを運びながら思案する。人数は全部で三十人。


 女性や子供の姿がないことから、拠点は別の場所にもあるのだろう。

 俺に『内緒にしている』ということは――


(完全に信用されているワケではないらしい……)


 先程から、遺跡を出たり入ったりの繰り返しだ。その遺跡を侵食しているのは――巨大といっても――植物なので、攻撃されることはない。


 だが、花粉の影響は蜥蜴人リザードマンの他に、動物や昆虫にもおよんでいた。

 『竜人族ドラン』たちは、この花の香りで眠りにいていたらしい。


 確かに、安眠の効果はバツグンだ。

 エーテリアは――ポンッ☆――と手を打ち、


「なるほど、あの頃は魔力が世界中にあふれていました♪」


 と納得のご様子である。俺としては――そんな風に返されても――その時代に居なかったのでよく分からない。


「おばあちゃんだから、思い出すのに時間がかかってしまいました♪」


 テヘッ☆――エーテリアはペロリと舌を出す。

 女神ジョークだろうか?


 見た目が中学生の女神に対し、年齢に意味があるのかは分からないが、随分ずいぶん可愛かわいいお婆ちゃんである。


「今は昔に比べて、魔力が少ないのか?」


 俺の疑問に対し、


「ええ、人間たちが増えたのも理由ですが……」


 魔物モンスターが増えたことが一番の原因ですね――エーテリアは残念そうに答えた。

 なるほど、この世界に生きる上で魔力は重要らしい。


 【古の時代】に誕生した種族は――『妖精族ルーナ』と『精霊族ソリス』だけだった――というのは、そういう理屈のようだ。


 また、魔物モンスターは魔結晶を有する。その存在自体が世界から魔力を奪うことなら、魔物モンスターは間違いなく世界の敵だろう。


 俺たちが魔物モンスターに対し、本能的に嫌悪感を抱く理由は――おそってくるという理由だけではなく――そこにあるのかもしれない。


 運び出した蜥蜴人リザードマンがこれで全員か、ミリアムに確認してもらいたかったのだが――彼女たちが戻って来るまで――まだ少し時間がかかるようだ。


 魔力がなければ、植物はこれ以上、成長することはない。

 効果も『人間族リーン』にはないようだ。


 俺は植物の根から生えている花を採取し〈鑑定〉してみる。

 だが、詳しい事は分からなかった。


 地球では畑仕事の真似事まねごとを行っていたので、なんだかくやしい。

 考えた結果、神話についての知識を技能スキルで習得することにした。


(今後も必要になる可能性があるしな……)


 俺は再度〈鑑定〉を行う。すると『竜殺花』クリムゾンカルネージと名前が表示される。

 あまりにも不吉な名称に、俺の動きがまった。


 一方で、背後からメッセージ画面をのぞき込んでいたエーテリアは、


「まあ、そうだったんですね」


 と驚嘆きょうたん(?)の声を上げる。

 おどろいてはいるのだろうが、どうにも緊張感に欠ける声音だ。


 いたってマイペースな様子だが――


(この花の存在が【空の時代】を終わらせた原因の一つなんじゃないのか?)


 俺はゾッとする。

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