第65話 竜の揺り籠(3)


「よしよし」


 とミリアム。地走鳥ロックバードの頭から首筋にかけてでる。

 色は様々さまざまなようだが、砂漠ということもあり、ラクダ色が多い。


 しかし、彼女になついている個体の色は白だった。羽の色が白いだけで、色素が不足している『アルビノ』というワケではないようだ。


 『白色変種リューシズム』だろうか? シロクマやギンギツネ、ハクチョウのように、棲息せいそく環境によっては保護色にもなり得る。


めずらしい個体なら、増やしてブランド化すれば……)


 盗賊たちの再就職先として、地走鳥ロックバード牧場を候補に考えていた。自然界では弱点となる白色も『この地域にしかない特産品』とすることで強みとなる。


 岩場では目立ってしまうため、外敵に狙われそうだが、人に飼われている分には問題ないのだろう。形状はダチョウに近い。


 しかし、頭は大きく、首や足も太かった。

 体高は2mを優に超え、翼は主に、バランスを取るために使っているようだ。


 時折、翼を広げることで風を受けめていた。

 基本的に、あまり鳴くことはないようで、においもキツくはない。


 全速力で走らせると時速70Kmは出るようだ。

 俺が騎乗すると時速120Kmはいけるだろう。


(状況によっては、切り札にもなる速さだな……)


 まだ、ふらつくミリアムを支え、俺は地走鳥ロックバードへ乗る手伝いをする。

 彼女は騎乗すると俺に手を差し伸べ、一緒に乗るようにうながしたが、


「走った方が早い」


 と言って断った。勿論もちろん、乗り心地には興味があったが――


(一緒に乗ると、地走鳥ロックバード移動速度スピードが加速しそうだ……)


 馬車の時もそうだったが、俺の技能スキルは周囲に影響を与える。

 今のミリアムには負担が大きいだろう。


 無効化は可能だが――いざという時のことを考えると――常に使える状態にした方がいい。周囲に与える影響に関しては、少し慎重になった方が良さそうだ。


 遠慮することはないのに――とミリアム。ほほふくらませ、少しねている。

 周囲に『人間族リーン』はなかったのだろう。


 俺に興味があるようだ。

 悪い事をした気持ちになるが、遊びで来たワケではない。


 ミリアムは手綱たづなを握ると、地走鳥ロックバードの首を優しくでた。

 すると地走鳥ロックバードは上を向き、身体を小刻みにふるえさせる。


 そして、次の瞬間には正面を見据みすえ、一気に岩場を駆け上った。

 まるで一段飛ばしで階段を上がっているかのように軽やかだ。


 実際、足場など、あってないようなモノ。

 するどい爪が、それを可能にするのだろう。


 ボーッと見上げていても仕方がないので、俺も急いで後を追った。

 今更だが、そんな俺の様子を見て、ミリアムはおどろいている。


 【根源】が失われた『人間族リーン』からすると、未知の能力なのだろう。

 なにもないハズの空中を走り、地走鳥ロックバードよりも早いのだから、当然の反応だ。


 ミリアムを乗せた地走鳥ロックバードは岩から岩へと飛び移る。


(やはり、岩場の上を進むのか……)


 訓練された地走鳥ロックバードが居なければ『盗賊のアジト』へ辿たどり着くのはむずかしいらしい。

 俺はミリアムの後を追い、岩山となった場所で追いつく。


 ここからは飛び移る必要はないらしい。

 遺跡は見えているのだが、高低差があるようで近づけない。


 岩山を走り、回り道をするのは、下りる場所がないからだろう。

 どうやら、クレーターのような場所のようだ。


 『死の谷デスバレー』のように、崖となって切り立っていることから、陥没穴シンクホールといった方が近いのかもしれない。


 『盗賊のアジト』とおぼしき遺跡は、その窪地くぼちにある。

 その形状から、深部には雨水がまりやすいのだろう。


 外からはゴツゴツと大岩が集まっている場所にしか見えなかったが、それを乗り越えると『緑豊かな地が存在する』というワケだ。


 天然の要塞ようさいであると同時に、出入りには制限があるため、牢獄ろうごくとも取れる。

 三人だけで、大勢の人間を運ぶには骨が折れるだろう。


 俺に助けを求めたことにも合点がいった。

 悪いな――とミリアム。


「本当なら、景色を堪能してもらいたい所だけど……」


 ここから降りる――そう言って、崖を下った。

 俺は防塵眼鏡ゴーグルマスクの位置をなおすと、彼女の後に続く。


 通常なら――なんらかの理由で地下水がなくなり、地下に大きな空洞が出来た。

 そのため、上にあった地面が落ちてしまい穴が出来た。


 もしくは――地下を支えていたのは、水に溶けやすい岩石だった。

 雨水により侵食され、いつしか地下に空洞が広がり、陥没かんぼつした。


(その辺りを想定するのだろう……)


 だが、ここは異世界だ。

 地下に巨大ななにかが封印されていた。


 この陥没穴シンクホールは『ソレを解放した跡』という可能性も十分にある。

 警戒するに越したことはない。


 下へ降りると、緑が増えたことで景色が一変した。

 陥没した地形にあるため、日当たりがいいとは言えない。


 だが、深部と思われる中央へ行くほど、緑の数が増えているようだ。

 ここは地下であるため、すぐに日陰となる。養分が足りないのだろう。


 崖の周辺には食虫植物の姿が多く見られた。

 写真に撮って、SNSに毎日投稿すれば、フォロワー千人も夢でない。


 希少種のようなので、貴族へ売れば、ひと財産築けただろうか?

 こんな状況でなければ『プラントハンター』という職業も悪くはない。


(盗賊たちの再就職は、どうにかなりそうだ……)

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