第63話 竜の揺り籠(1)


 ミリアムの頼みはいたって単純シンプルだった。

 具合の悪くなった仲間を安全な場所へと移動させたいらしい。


 それを『手伝って欲しい』というのだ。

 彼女たちだけでは、仲間を運ぶことが出来ないのだろう。


(確かに、俺向きの依頼ではある……)


 だが、彼らに行く場所はあるのだろうか? こういってはなんだが、盗賊稼業は行き場を失った連中が徒党を組むことで成り立つ組織だ。


 他の土地へ辿たどり着けば『受け入れられる』というモノではない。

 かといって【終末の予言】の日も近づいている。


 周辺の街は魔物モンスターによって無人と化し、巨大サンドワームが出現したこともあり、砂漠から商人たちの往来はなくなってしまったハズだ。


 自然と盗賊稼業は廃業となるだろう。職業といっていいのかは微妙びみょうなところだが、今の彼女たちは無職に等しい。


 なにか新しい職を彼女たちへ斡旋あっせんする必要がある。

 思い付かないワケではないが――


(いつも通り『俺が頑張るしかない』ようだ……)


 だから『流石さすがはユイトさん! なにか思い付いたのですね♪』という期待を込めた眼差まなざしで見詰みつめるのはめて欲しい。


 エーテリアは空中をただよいながら、笑顔を浮かべている。

 俺の考えていることを百パーセント理解しているワケではないハズだ。


 だが、どうにもかんが鋭い。

 ブラック企業にいたためか、俺は他人から期待されることにれてはいない。


 よって、あまり過大評価をしないで欲しいのだが、ある意味――可愛かわいいは最大の防御――安易に否定するものむずかしかった。


 計画プランはあるのだが、まずは俺自身が盗賊たちから信頼を得る必要がある。

 これは仕事でも一緒だ。


「出発は少し待ってくれ……」


 『死の谷デスバレー』でサンドワームの死骸の消失を確認しなければならない。食器類を片付けると、馬車の廃材から砂漠を渡るためのソリを作るように三人へ指示する。


 道具を渡し、俺は一人、谷底へと向かった。

 切り立った崖のような場所を垂直に歩いて行く。


 これが最短ルートだろう。

 毒ガスに備え、防塵眼鏡ゴーグルマスクを身に着ける。


 サンドワームの死骸しがい跡形あとかたもなく消えてなくなっていた。

 俺は魔結晶を手に入れる。


 現状、使い道はおとりくらいしか思いつかないのだが、強力な魔物モンスターを生み出す原因にもなるので、捨てるワケにもいかない。


 少し思う所があり、昨夜見付けた坑道へと向かう。

 エーテリアに【光】魔法で照らしてもらい、息をめ、中へと入る。


 それっぽい石をいくつか拾ってから、急いで脱出した。

 毒によるダメージを少し受けたらしい。


 ステータスに異常は見付からなかったが、念のため、エーテリアに浄化魔法を使ってもらう。俺は〈アイテムボックス〉を確認する。


 『水銀鉱石』などの鉱物毒もあるので「もしかして?」と思ったが当たりのようだ。『死の谷デスバレー』と呼ばれるようになったのは、鉱石が原因らしい。


 毒ガスではなく、毒性のある鉱物を掘り出してしまい、そうとは知らずに周辺へと捨てていたのだろう。『樹炎鉱』と表示されている。


 ウランみたく有害な放射線を出すタイプだったらお手上げだったが、どうやら違ったらしく、安心する。


 説明によると、植物が『樹炎鉱』を取り込むと、燃え上がり炭化するらしい。

 その際、生成される煙と炭が動物にとって毒となるようだ。


 つまり『樹炎鉱』が、この『死の谷デスバレー』で採れる限り、植物は育たず『人はおろか動物も寄りつかない』というワケだ。


 キノコが生えている場所やコケが生えている岩は安全なのだろう。

 タネが分かれば、後は簡単だ。


 俺は火箸ひばしを使って、周辺に落ちていた『樹炎鉱』を適当に集める。

 念のため、集落のあった場所に〈ワープ〉のポイントを設置しておく。


 便利ではあるが、何処どこにでも設置できるワケではないらしい。

 人々から認知されている必要があるようだ。


 街やダンジョンなど、固有名称で呼ばれている場所でなければならないのだろう。

 人の持つ『言葉の力』というモノだろうか?


 興味があるので、もう少し谷底を調べたい所なのだが――


(ミリアムたちが心配すると行けない……)


 俺は急ぎ、地上へと戻る。

 ミリアムたちは、いつでも旅立てるように準備を済ませ、待機していた。


 早く仲間のもとへと戻りたいらしい。

 逆に言えば『それだけ俺に期待している』という事なのだろう。


 他の盗賊たちからも信頼を得られるように頑張らなければいけない。


「サンドワームは消滅していた……」


 もう砂漠に出現することはない――俺の言葉に三人は安堵あんどする。


「遅かったみたいだけど……」


 なにをしていたの?――とミリアム。

 俺をうたがっているのではなく、心配していたようだ。


 グガルとダタンの二人は蜥蜴人リザードマンなので表情は読めないが、それほど、気にした様子は見られない。


「すまない、秘密兵器を準備していた」


 俺は謝りつつ、植物の件は如何どうにかなりそうだとほのめかす。

 ただ、ミリアムには伝わらなかったのか、首をかしげられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る