第61話 頭目の娘(3)


焚火たきびでもして、待っていてくれ」


 俺はまきを渡すと、遺体をめるための穴掘りを優先させる。

 レベルが上がっている所為せいか、スコップが軽い。


 想定していたよりも、簡単スムーズに終わった。

 周囲には動植物の姿はないようだ。


 念のため、野犬に掘り返されないように、少し深めに掘ってみたのだが、必要なかったのかもしれない。


 穴は三人分――俺が盗賊の三人組へ視線を向けると――少女たちはビクッと反応し、後方へと後退あとずさった。俺に『められる』とでも思ったのだろうか?


 どうやら、おびえさせてしまったらしい。

 俺は馬車から遺体を運ぶ。まずは兵士だ。


 装備を回収してから、埋葬まいそうする。

 古びている上、汚れも目立つ。このまま使うのは難しいだろう。


 ショートスピアが壊れてしまったので、ハルバートを発見できたのは嬉しいが――


(これも、このままでは使えないか……)


 さびびを落とし、刃をぐ必要がある。

 谷底にあったので、毒の影響を受けているのかもしれない。


 鎧や兜とせて、洗浄が必要だろう。

 もう一人の兵士の遺体も同様に処理する。


 最後に女性の遺体だが――流石さすがに遺体とはいえ――服を脱がせるのには抵抗がある。礼服ドレスは着せたままにしておこう。


 ただ、女性が身に着けている髪飾りと指輪、それに首飾りは値打ちがありそうだ。谷底から運んだ運賃と埋葬の代金としてもらっておくことにする。


 もしかすると――彼女たちが何者なにものなのか?――その手掛かりになるかもしれない。

 三人をそれぞれ、穴の中に寝かせ、土をかぶせる。


 形を整え、そこに適当な石を乗せた。


(墓っぽくはなっただろうか?)


 次は馬車を移動させる。元々、壊れてはいた。

 少し離れた場所に移動させようと持ち上げた途端とたん、バラバラに崩れてしまう。


 まるで役目を終えたかのようだ。仕方なく『端材はざいまきにでもしよう』そう思い、使えそうなモノを選んでいると立派な木箱が出てきた。


 早速、取り出し、中を確認する。

 エーテリアの魔法で照らしてもらうと、礼服ドレスであることが分かった。


 馬車の中で亡くなっていた女性の物なのだろう。

 状態もいいので、このままでも売れそうだ。


 現状、使い道は思い付かなかったが、折角なので、もらっておくことにする。


なにやら、物をってばかりの気もするが……)


 砂漠にある都市の問題を解決したら、彼女たちの由来ルーツを探してみるのも、ありかもしれない。


 だが、それよりも、今は化けて出て来る事を心配した方がいいのだろうか?

 アンデッドがいるのなら、ゴーストもいるのだろう。たたられてはかなわない。


 エーテリアの話だと、彷徨さまよっている魂や道具にかけられた呪いのたぐいはないようだ。

 うの昔に成仏したのだろう。


 残る問題は盗賊たちとなるワケだが――


(その前に食事にしよう……)


 念のため、エーテリアに浄化魔法を使ってもらい、周囲を清めてもらう。

 この土地の宗教は分からなかったが、目をつぶり、手を合わせておく。


 母の葬儀そうぎを思い出してしまったため、今更ながら、少し悲しくなる。


「待たせたな」


 と言いつつ、俺は盗賊たちに料理を振舞ふるまうことにした。

 水と食糧はあるが、いつもの硬いパンと野菜のスープだ。


 空腹と疲労がまっていたのだろう。

 砂漠で助けた子供たちと同じように夢中で食事をすると、眠そうな顔になる。


 俺は苦笑すると地走鳥ロックバードについて質問した。

 どうやら『死の谷デスバレー』には近づこうとしないようだ。


 途中で帰したらしい。鳩と同じで帰巣本能があるのだろう。

 食事を終えた後、互いに自己紹介をする。


「ユイトというのか、アタイは『ミリアム』だ」


 パチパチとまきが燃え、焚火たきびに照らされながら、少女は名前を教えてくれた。

 一見、少年のようだが整った容姿をしている。


 髪も短く、目付きは鋭い。外套マントの間から使い込まれた短剣ダガーが見えた。

 それなりに、腕には自信があるようだ。


 こんな子供が――と思わなくもないが、状況をかんがみるに、戦わなくては生き残れなかったのだろう。


 それよりも俺がおどろいたのは連れの二人の正体だ。

 人間ではない。この世界では『鱗人族メロウ』と呼ばれている種族だ。


 蜥蜴人リザードマンなのだが、俺が想定していたのは湿地帯にむ緑色の連中だった。

 しかし、彼らは橙色オレンジに近い黄色いうろこを持っていた。


 砂漠へと適応した結果だろうか?

 名前を『グガル』『ダタン』と名乗ったが、まったく区別がつかない。


 どうにも、俺に頼み事があるようだが、疲れているのだろう。

 かなり眠そうだ。話しは明日、改めて聞くことにした。


 見張りは俺がするので、眠るように伝える。本来なら、エーテリアに結界を張ってもらえば安全なのだが、彼女たちの前ではめておこう。


 助けてもらった上に食事まで、ご馳走ちそうになったことで、俺に対する警戒をゆるめたらしい。


 疲労も溜まっていた事から、三人組はすぐに眠りについてしまった。

 この分なら、朝まで起きることはないだろう。


 エーテリアに頼み、結界を張ってもらった。

 ミリアムたちより早く起きるのであれば、5時間は眠れそうだ。


 横になると熟睡じゅくすいしてしまうので、座りながら眠りにつく。

 鍛冶場で手に入れた火箸ひばしが早速、役に立った。


 燃えている薪を一本拾い、平らな石の上に置く。

 だいたい燃え尽きるまで2時間といった所だろう。


 壊れた馬車の金具があったので、それを二本、斜めに地面へ突き刺す。

 その上に薪を重ね、最後に石を置いた。


 滑り台のようなモノだ。一番下の薪が燃え尽きれば、次の薪が燃える。

 そして、最後に石が落ちてきて、音がするハズだ。


 企業につとめていたので、睡眠時間をある程度は制御コントールできた。寝る前に水を多めに飲む、窓帷カーテンを開けておく事で日光を利用するなど、狙った時間に起きるのは得意だ。


 また「5時間しか寝られない」ではなく「5時間も寝られる」と自分に言い聞かせることであたかも『十分に睡眠をとった』と思い込む。


 本来の社畜なら徹夜は当たり前。

 こんな事は誰にでも出来る、初歩の初歩でしかない。

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