第60話 頭目の娘(2)


 どうやら、三人組は砂漠から、ずっと俺を追ってきたらしい。

 そういえば『マリシャスの首飾り』という装飾品アイテムを預かっていたのだった。


(『頭目のあかし』って説明があったな……)


 余程、大切なモノのようだ。

 俺が持っていても面倒な事にしかならないだろう。


 さっさと返すことした。俺は首飾りを外す。

 少女の方は俺を警戒しているのか、一定の距離を保ちたいらしい。


(まあ、俺の速度スピードを考えれば当然か……)


 空気を読んだ結果、俺は首飾りを放り投げる。

 放物線を描くソレを――少女は手を伸ばし――受け取った。


 ホッと安堵あんどの溜息をく少女。俺はその様子を確認すると、


「お互いに無事で良かったな……」


 じゃあな――そう言って、軽く手を振る。

 まあ、これで『終わるワケではない』というのは分かっていた。案の定――


「ま、待て!」


 少女に呼びめられてしまう。『マリシャスの首飾り』の情報から『相手は砂漠を縄張りにする盗賊だ』と推測できる。


 堅気かたぎの人間としては、あまり関わりたくはない。


(いや、今は冒険者か?)


 生憎あいにく『冒険者ギルド』へは登録できていなかった。

 仕方のない事だが、つまるところ――


(現在は『無職のオッサン』か……)


 急にヤル気がなくなってしまうのだから、困ったモノだ。

 むしろ、今は女神であるエーテリアの世話になっている。


 この事から考えると『ヒモ』と言えない事もない。


(『女神のヒモ』……)


 どうやら、深く考えるのはめた方が良さそうだ。

 まだ、あせる時間ではない――そう自分に言い聞かせる。


 呼びめられたので、仕方なく俺は振り返る。

 すると少女は、外套フードを外した。


 月明かりに照らされた少女の肌。

 それは予想に反して、褐色かっしょくではなかった。


 色白の肌――どうやら、この地の人間ではないらしい。

 両脇にひかえていた二人組が俺を警戒し、槍を構える。


 だが、少女は手で合図をし、その構えをかせた。

 どうやら、争う気はないようだ。


なにをしていた?」


 という少女の問いに、


「谷底で見付けた。供養をしてやりたい……」


 墓地はないか?――そう言って、俺は馬車に軽く手で触れる。

 俺の問いに少女は、黙って暗闇をゆびした。


 どうやら、土地勘を持っているらしい。よく見ると道が存在するようだ。

 今では『死の谷デスバレー』などと呼ばれてはいるが、昔は人の往来も盛んだったのだろう。


 俺は馬車を持ち上げると、彼女の指差した方向へ走った。

 三人組はおどろいていたようだが、逃げるのには丁度いい。


 エーテリアが魔法で照らしてくれるため、迷うことなく目的地へと走ることが出来た。恐らく、以前は地上にも村があったのかもしれない。


 下の集落の連中も共同で使っていた場所なのだろう。

 石で作られたひつぎが、規則正しく並べられている。


 埋葬まいそうする方法を統一すべきか?――とも考えたが、俺に石の棺桶かんおけを作る技術はない。それに雨曝あまざらしだったため、ところどころ朽ちているようだった。


 墓守もいないようなので、盗掘にあった形跡が見られる。


(アンデッドが出たりしないだろうか?)


 俺はエーテリアに視線を向けたが、彼女はいつも通り、のほほんとしていた。

 しかし、なにを思ったのか、手のひらをポンと叩く。


 すると次の瞬間には外套マントを取り出していた。

 いったい、何処どこ仕舞しまっていたのだろうか?


 エーテリアはソレを羽織はおり、クルリと回ってみせた。

 どうやら、俺が『寒いのではないか?』と心配したと思ったらしい。


「似合っている」


 俺がつぶやくと、エーテリアは満足そうに微笑ほほえむ。

 この様子なら、アンデッドの心配はいらないのだろう。


 きちんと供養されている――と見て良さそうだ。

 俺は墓地の近くに穴を掘って、三人の遺体を埋めることにした。


 手向たむける花はないが、それらしく石を置けば、墓のように見えるだろう。

 スコップで穴を掘っていると、


「お、追い付いた」


 と盗賊の少女。まだ用があるらしい。

 走ってきたのか、両膝に手を突き、ハァハァと息を切らせている。


 俺はスコップで穴を掘りながら、


「サンドワームなら倒した……」


 谷底に死骸しがいがある、確認するか?――と問う。

 すると「いや、いい」そう言って首を左右に振った。


(まあ、見たいモノでもないか……)


 当然の反応だ。この場合、不審に思うべきは『俺がサンドワームを倒したことをうたがわない点』だろうか?


 俺なら『それくらい出来る』もしくは『出来ても不思議ではない』と思われているらしい。


「水と食糧なら分けてやる」


 俺の台詞セリフに三人組はそろって、お腹を押さえたが、すぐに首を左右に振った。

 腹は減っているらしいが、食糧が目的ではないらしい。


 少女は俺の実力を知っていて、様子をうかがっている。


(もしかして、引き抜きヘッドハンティングだろうか?)

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