第57話 魔物に占領された街(2)


 少し考えた結果、エーテリアには浄化をってもらう事にした。

 当然、くさいのは勘弁なのだが、魔物モンスターってこない状況は有難い。


 俺は利用させてもらうことにした。


(まずはダークウルフが逃げていった方角を追ってみるか……)


 すでに自分の鼻はにおいで麻痺まひしてしまったようだ。

 魔物モンスターから襲撃しゅげきを受けないのなら、このままでいいだろう。


 折角せっかく嗅覚きゅうかくを犠牲にしたのだから、もう少し活用すべきだ。

 周辺を探索した結果、かべに囲われた街を発見する。


 街道かいどうが正門へと伸びているが、向こうからは丸見えなので、近づかない方がいいだろう。スライムの時と同様に、街に魔物モンスターが入り込み、占拠せんきょされているに違いない。


 街の周辺には『結界草バリアリーフ』に代わって、薄気味悪い紫色の植物が茂っていた。


(『結界草バリアリーフ』をらす植物か……)


 読み通りの展開だが、喜べる状況ではない。

 魔物モンスターを集めて、より強力な魔物モンスターを作り出すのが敵の手口である。


 恐らく神殿には、スライムに匹敵するような魔物モンスターが存在しているのだろう。

 このまま街の外から観察していても、現状が好転することはなさそうだ。


 ただ、正門から入るのは馬鹿げている。

 俺は周辺の草をってたばねると、両手に持つ。


 簡易な擬装カモフラージュだが――


(取りえずは、これで十分だろう……)


 街を囲う壁の側面へと素早く回り込む。

 罠や結界のたぐいはないようだ。


 俺は周囲を警戒けいかいしつつ、壁をけ上がった。

 確かイスカは――


(街の名前を『オルガラント』と言っていた気がする……)


 自分たちが生まれ育った街が魔物モンスターあふれ返った姿を見たら、どう思うのだろうか? 故郷を追いやられた人々の姿を思い出すと怒りがいてきた。


 俺が魔物モンスターを退治しつつ、神殿を目指したのは、そんな事を考えてしまったからだ。屋根伝いに進めば、戦闘をけられたのかもしれない。


 俺がやっていることは『少しでも魔物モンスターが減ればいい』という独善的な行為こういでしかない。冷静になって考えれば、然程さほど意味がないことは分かったハズだ。


 出現した魔物モンスターの種類はダークウルフにジャイアントスコーピオン。

 ゴブリンの姿はないようだ。すでに食べられてしまった後なのかもしれない。


 ――ガルルルル!


 うなり声を上げて飛び掛かってくるダークウルフ。

 コイツらを倒すのはサーベルで問題ない。


 壁と障害物を使い、相手の連携と機動力を阻害して斬りつける。

 俺に近づいた瞬間、悪臭に戸惑とまどうため、積極的な攻撃はしてこない。


 まあ、それ以前に移動速度スピードは俺の方が早いので、背後を取れば簡単に斬ることが出来た。問題はジャイアントスコーピオンだ。


 昨日〈シールドバッシュ〉ではじいたが、盾の方がダメになってしまった。

 硬い装甲のため、簡単には倒せないだろう。


 戦斧を使って撃破してみたが、技能スキルを使用しないと一撃で倒すことはむずかしいようだ。


なにか別の方法を考える必要があるな……)


 『サソリの尻尾』という道具アイテムを手に入れたので、後で毒矢として使ってみよう。

 ダークウルフの毛皮も防具として活用できそうだ。


 神殿へ向かう途中で、俺はダークフルフを15体、ジャイアントスコーピオンを3体、始末した。


 サンドワームのにおいで魔物モンスターが逃げてくれなかったら、もっと面倒なことになっていただろう。


 いつもの慎重さを欠いている事は理解していたが、どうにもイライラが収まらない。魔物モンスターを倒したくてウズウズしていた。


 また、そんな魔物モンスターとの遭遇そうぐう無作為ランダムだ。

 目的があって配置されているワケではないらしい。


 むしろ、人の侵入を警戒していないようだ。

 神殿への道はほぼ直線なのだが、警備が厳重げんじゅうというワケではない。


 俺の移動速度スピードがあれば問題なく、神殿へと辿たどり着く事が出来た。


(神殿は街の目立つ場所に建てる規則ルールでもあるのだろうか?)


 いや、神殿があったから『人が集まり街が出来た』と考える方が自然な気がする。

 この街の神殿は中央の大通りから見える位置に存在した。


 リディエスの街の神殿とは異なり、造りはシンプルなようだ。

 あの構造から推測するに、病院としても機能していたのだろう。


 この街の神殿は廊下が広く、床もしっかりしている。

 なにか大きなモノを運んでいたのかもしれない。


 柱が立ち並び、特に部屋は見当たらなかった。

 頑丈な造りだ――と俺が感心していると、


「ユイトさん!」


 目の前にエーテリアの顔があった。

 様子から察するに、先程から何度なんども俺に呼び掛けていたらしい。


 俺はおどろき、立ち止まる。

 すると彼女は安堵あんど溜息ためいきいてから、両手で俺の頬にれる。


 どうやら、彼女からは俺に触れることが出来るらしい。


ひどい顔をしています」


 とエーテリア。怒っているとも、悲しそうとも取れる複雑な表情だ。

 こういう時は取りえず、謝っておけばいいのだろうか?


 いや、ここは会社ではない。その場をしのぐためだけの対応はめておこう。

 相変わらず、吸い込まれそうなくらい綺麗な、青く澄んだ大きな瞳。


 そんな彼女の目を見ていると、自然と心が落ち着いた。


(そう、俺はもう一人ではない……)

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