第55話 砂漠の盗賊(2)


「後で返す」


 俺はそれだけ言うと手繰たくるようにペンダントを受け取り、〈スカイウォーク〉を使ってカイトシールドの進行方向を変えた。


 向かうのは『死の谷デスバレー』だが、問題はサンドワームがついてくるかである。

 俺が三人組から離れるとサンドウォームも向きを変えたようだ。


 これで一安心――と思っている場合ではない。

 今度はサンドウォームが俺に狙いを定めた。


 鎌首をもたげたかと思うと大きな口を開け、俺目掛けて突っ込んでくる。ペンダントを落とさないように首に掛けると、俺はタイミングを合わせて方向転換を行った。


 ズッドォオオオーン!――と後方からすさまじい衝撃を受ける。

 回避に成功したものの『紙一重』といった所だ。


 俺はその衝撃で前方へ押し出されるように空を舞う。空中でバランスを取りつつ、一旦、カイトシールドを〈アイテムホルダー〉へ収納。


 砂地に着地していては、サンドワームが行う次の攻撃に対処できない。

 そのため〈スカイウォーク〉で空中を走って逃げる。


 ただし、あまり距離を取ってもいけない。

 サンドワームが追撃をあきらめてしまうからだ。


 ステータス画面を呼び出すと『マリシャスの首飾くびかざり』とある。

 あまり考えずに身につけてしまったが――


(呪われていたらどうしようか?)


 と急に不安になってしまった。

 まあ、エーテリアに頼めば解呪してくれるだろう。


 三人組の無事を確認しつつ、俺は離れた場所に着地する。ペンダントの説明には『熱砂の盗賊団』『頭目の証』などというキーワードが目に付く。


(今は考えないことにしよう……)


 それよりも、サンドワームが地面に頭を突っ込んだままの状態なのが気になる。

 恐らく、地面を掘り進んでいるのだろう。


 つまり、次は下からの攻撃となる。地面からの振動を感知するために、俺は〈ワイドウォーク〉を使用して、砂の上を走っていた。


 カイトシールドと〈ワイドウォーク〉そして〈スカイウォーク〉を上手く切り替えて使わなければいけない。


 念のため、ジグザグに走行するとサンドワームが引っ掛かったようだ。

 先程まで俺が走っていた場所から頭を出す。


 地面の揺れ具合から、どのタイミングで顔を出すのか、分かりやすくて助かる。

 次は再び鎌首をもたげたので、俺はカイトシールドを出現させた。


 前方へ一気に飛び出すと同時に、サンドワームの攻撃をかわす。

 次は下からの攻撃に備えればいい。


 一見、順調かに思えたが、次第に景色が変わっていった。

 近くに砂丘さきゅうが見当たらない。どうやら、砂の量が減っているようだ。


(砂漠の終わりも近いのか……)


 遠くには情報通り、岩場が見える。俺はサンドワームの地中からの攻撃をカイトシールドで滑走しながら回避した。


 また同時に、技能スキル〈キャリーウォーク〉を習得した。

 重い荷物を運びながらでも、普通に歩けるようになる技能スキルだ。


 ここまで来ておいて、追ってくるのをあきらめてもらっても困る。

 俺はカイトシールドを収納すると〈アイテムホルダー〉から魔結晶を取り出した。


 ただの魔結晶ではない。

 スライムを倒した時に入手した巨大な魔結晶だ。


 サッカーボール位あるため、脇に抱えて走るのだが、それだと――どうしても身体からだかたむいてしまって――早く走れない。


 〈キャリーウォーク〉のお陰で『楽々運ぶことが出来る』というワケだ。


(もう少し重くても問題ないな……)


 一方でサンドワームは、より一層ヤル気を出す。

 まるで水を得た魚のように急に加速した。


 砂にもぐれず、自分の体が地面へ激突するのもお構いなしだ。

 むしろ、ぶつかることで反動を利用し、せまってくる勢いが増している。


 ミミズの体はほとんどが腸で『骨はない』と聞く。

 サンドワームの巨体がゴムのようにはずんでいるようだ。


不味まずいな……)


 計算外の速さだ。折角、岩場まで逃げ込んだというのに、これでは追い込まれたのは俺の方である。


 仕方なくスライムから入手した魔結晶を放り投げた。

 俺は素早く、岩影へと身を隠す。


 〈スローイング〉の技能スキルの効果で弾丸のように魔結晶が飛んでいったが、サンドワームは迷わず追い掛けていった。


流石さすがにあの魔結晶を食われると……)


 さらに巨大化することは明らかだ。俺は魔結晶を見失わないように〈スカイウォーク〉を発動し、上空へと移動する。


 次にショートスピアを取り出す。

 丁度、サンドワームが谷を目掛け突っ込んで行く。


 好都合だ。サンドワームが大口を開け、魔結晶に食らいつこうとするギリギリのタイミングを計り、俺はショートスピアを投擲とうてき


 勿体もったいない気もするが魔結晶を粉砕した――いや、明後日の方向へ飛んでいった。

 ショートスピアが砕け散ったので、どうやら寿命だったらしい。


(後は……)


 俺は戦斧へ武器を持ち替える。地球でミノタウロスを倒した時に入手したようだ。

 子供の姿である俺には巨大な斧のため、上手くはあつかえない。


 しかし、先程習得した〈キャリーウォーク〉の効果により、なんなく操れるようになっていた。


(もしかして……)


 俺は地上へ着地すると一旦、斧を置き、岩を持ち上げるとサンドワーム目掛けて「どっせい!」と声を上げ、投擲とうてきした。


 目的だった魔結晶の突然の消失に、流石さすがのサンドワームも戸惑っていたのだろう。

 目は無いハズだが、谷底をのぞき込むような動作をする。


 そして一度、あきらめたのか、頭を上げた瞬間だった。

 剛速球ごうそっきゅうとなった岩が頭部へと直的する。


 やはり、骨は存在しないようだ。

 ボスッ!――とメリ込んだよう音と当時にサンドワームが谷底へと落ちて行く。


 バランスが取れなかったのだろう。

 頭部に引きられるように、ズルズルと体が落ちていった。


 谷底にはガスが溜まっている可能性もあるが、これは好機だろう。

 俺は再び戦斧を手にするとサンドワームを追い、谷底へと飛び込む。


 使用する技能スキル勿論もちろん〈アクセルターン〉だ。

 暗くてよく見えないハズだったが、今は『暗視』を持っている。


 あの巨体を見失うハズなどない。俺自身も地面へ激突する可能性があったが〈スカイウォーク〉で空中をり、落下速度を加速。


 社畜にとって『飛び降り自殺』をしたくなる事など、日常茶飯事である。

 俺に恐怖などない。


 サンドワームが地面へ激突した瞬間に合わせ、俺は技能スキル〈アクセルターン〉を発動した。

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