第54話 砂漠の盗賊(1)


(しかし、バスケといえば……)


 俺の時代は『3on3』スリーオンスリーと呼んでいたが、今は『3x3』スリーエックススリーらしい。この前まで『3x3』スリーバイスリーと呼んでいた気がするのだが、時代の移り変わりは早いようだ。


(オッサンにはついて行けないな……)


 三人制のバスケはストリートのイメージだったが、今は国際バスケットボール連盟が国際競技連盟として推進しているスポーツ競技らしい。


 神奈川県の湘南地区を舞台にしたバスケット漫画も流行っていたので、子供の頃はバスケをしている連中が結構いた。


 まあ、身長が伸びるとも言われていたので――


(そっちが理由メインなのかもしれないな……)


 どうやら『モテたい』というのは、なにかを始める原動力として、かなりの割合をめるようだ。


(同様の理由で、ビジュアルバンドも流行っていたな……)


 顔が良くないとギターやボーカルを遣らせてもらえないらしく、梅吉が愚痴ぐちっていたのを思い出す。


 結果的に俺の地元では、バスケもバンドも流行はやらなかった。

 冬は雪も降る。


 また、アスファルトの上でバスケをすると――当然ながら屋外用のボールを使用しないと――すぐにボールが痛んでしまう。


 学生はバイトを禁止されているので、そうそうボールを買えるモノでもない。

 コートの数も限られている。『体育館でするスポーツ』という事なのだろう。


 加えて、税収がなければ市も体育館を維持できない。

 基本的にスポーツは、人口の少ない地方には向いていないようだ。


 どこかのお金持ちが土地を買って、最新設備を備えた学校を建て、プロの選手を講師として招くのであれば、話は変わるのかもしれないが――


(悲しい事だが、これが格差社会である……)


 何故なぜ、こんな事を考えてしまったのかというと――獲物を追い掛ける際の――サンドワームの動きをかわしながら前へ出る俺の動作が、バスケを連想させたからである。


 十代の身体というのも関係しているのかもしれない。

 立体的な動きもなんなくこなせる。


(まあ、俺の時代は『スポーツは格闘技』だったからな……)


 身体をくねらせ、決まった動きをするサンドワームよりも、一緒にサッカーやバスケをする同級生や上級生の方が危険だ。


 すぐに服をつかみ、体当たりをしてくる。ミスをすれば罵声ばせいが飛ぶし、スポーツなんだから『怪我けがをして当たり前だ』という風潮だった。


 やはりスポーツ経験者は『勝ちたい』というよりも『自分が活躍したい』だけなのだろう。今の時代、怪我は選手生命にかかわる。


 怪我をかばった動きをすると変なくせもついてしまうだろう。

 昔は無理をして頑張る『オレ、カッコイイ!』な時代だった。


 流石さすがに柔道は『投げ技禁止』で体格差のある相手と組まされることはなかったが、すでに事故がいくつも起きていたのだろう。


 ゼロ年代にも男子中学生が、柔道部の練習中に意識不明の重体におちいった事件があった。顧問に何度なんども投げられ、め技をかけられたことが原因のようだ。


 その日はクリスマスイブだったという話なので、俺の記憶にも残っている。

 勿論もちろん、学校は重大な事故にもかかわらず、警察に通報はしなかった。


 副校長が「救急車が来たことを話すな」と生徒たちに指示していたというのだから恐ろしい。


(いや、日本の学校では普通のことか……)


 結局は嫌疑不十分で顧問は不起訴になったようだ。柔道場で柔道着を着て柔道技を使えば、線引きは難しいので立件は出来ないらしい。


 会社でスーツを着て仕事をすれば『過労死しても仕方がない』みたいなモノだろうか?


 監督している大人がいて、怪我ではなく意識不明の重体になった生徒が出ているのに『責任がない』とはおかしな話である。


 周りには信用できる大人がいない――


(子供の自殺がなくならないワケだ……)


 子供の頃から気付いてはいたが、やはり日本は異常だ。学校の体育に比べれば、三〇メートルを超えるサンドワームと戦うことは安全なのかもしれない。


 いや、地中に身体が隠れているので五〇メートルといった所だろうか?

 俺が瀕死ひんしに追い込んだゴブリンたちも食べている。


 なので、あの時よりさらに巨大化しているようだ。

 俺はカイトシールドを取り出し、再び砂の上を滑走かっそうする。


 そして、サンドワームに追いかけられている三人組に追いつくと、


「よお、大丈夫か?」


 真ん中の小柄な人物の横に並び、気さくに声を掛けてみた。

 生憎あいにく、名刺はないので、これで勘弁して欲しい。


 いや、今は子供の姿なので、この方が自然だろうか?

 俺を見て、相手は一瞬、固まる。


 護衛と思しき二人も槍を構えたが、すで地走鳥ロックバードは疲れていたのだろう。

 加速が出来ないようだ。


 また、後方からはサンドワームがせまっている。

 警戒を解くことは出来ないのだろう。


「魔結晶を持っているのなら渡せ」


 サンドワームの狙いは魔結晶だ――と俺が告げる。

 すると、相手は警戒して胸元を押さえた。


 そこに魔結晶があるようだ。ペンダントなのだろうか?

 三人とも頭からすっぽりと外套フードを被っているため姿が分からない。


「このままだと、部下の二人も危ないぞ」


 預かってやる――といって、俺は手を伸ばす。

 『部下の命』という事で、考えがらいだようだ。


 地走鳥ロックバード速度スピードも明らかに落ちているため、サンドワームに追いつかれるは時間の問題だった。


 相手は少女のようで、外套フードを降ろすと首からペンダントを外した。

 銀色に輝くソレには、綺麗にみがかれた赤色に輝く石がめらている。


 魔結晶なのだろうが、俺の知っている石とは異なる。

 恐らくは宝石のように魔結晶を加工する技術があるのだろう。


 装飾品でありながら、魔法具マジックアイテムとしての価値もありそうだ。

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