第53話 砂漠の追走(2)


 砂地を走るには――足を取られるため――〈ワイドウォーク〉の技能スキルが不可欠だ。

 ただ、これには時間制限がある。


 ずっと使い続けることは出来ない。

 そこでサンドボードを使用することにした。


 砂地をすべることで移動速度スピードを落とすことなく〈ワイドウォーク〉も温存できる。

 また俺自身も、この熱砂の上を走り続けることはむずかしかった。


 足に疲労がまるは勿論もちろんだが『激しい呼吸をする』ということは、それだけ『空気を肺に取り込む』ことを意味する。


 口許くちもとマスクおおっていないと砂塵さじんを吸い込むことになり、熱で肺がやられそうになってしまう。かといって、マスクをしていると呼吸がしにくい。


 サンドボードを使用することは休息の意味もあった。サボテンも太陽の照りつける昼間は空気が乾燥しているため、呼吸をしないようにしていると聞く。


 夜中に大量の呼吸をする事で水分を体内にたくわえているようだ。

 枝もトゲへと変わった。人間である俺も工夫すべきだろう。


 加速した後、なるべく砂丘さきゅうの高い位置へと移動し、そこからカイトシールドを改造したサンドボードを使用する。勿論もちろん、盾としての機能はそのままだ。


 俺が出現させた道具アイテムには〈ハイウォーク〉の技能スキルの影響が出るため、進行方向へと飛び出す。そこで手綱たづなを取り付けた。


 手綱さえつかんでおけば、くすことはないし、乗っている時に振り落とされる可能性も減る。後は一気に砂丘さきゅうすべり降りるだけだ。


 かなりの速度スピードが出る。エーテリアはついてきているだろうか?

 不意に心配になったが――


(それは考えるだけ、無駄のような気がする……)


 斜面の終わりに近づくと〈スカイウォーク〉を発動させ、飛翔ジャンプした。

 空中をることが出来るため、進行方向の調整も可能だ。


 何度なんどか空中をることで、推進力を維持したまま、上昇することにも成功する。

 次の砂丘へと飛び移り、再び滑降かっこうした。


 基本は、このパターンを繰り返すだけだ。

 こういう時、防塵眼鏡ゴーグルがあるのは助かる。


 風に舞う砂が顔に当たるので、微妙びみょうに痛かったのだが、防塵眼鏡ゴーグルがある事で目を開けていられた。俺は速度スピードを落とすことなく進む。


 問題は止まる時だが――


(それはサンドワームにぶつかればいいか……)


 移動力を攻撃力へ変換する技能スキル〈アクセルターン〉を使用して、ダメージを与えることも考えたが、中途半端にダメージを与えた場合、地中へ逃げられる可能性が高い。


 ジャイアントスコーピオンの時も逃げられてしまったので、ここは慎重に行くべきだろう。


 当初の予定通り、地中へ逃げることの難しい『死の谷デスバレー』で決着をつけるべきだ。

 砂煙が急にくなる。


 どうやら、サンドワームへ追い付いたようだ。

 予想より早かったが、嬉しい誤算だ。


 少なくとも現状のり方なら、サンドワームの移動速度より早いようだ。

 この巨体から逃げ切れるかが、今回の作戦の重要に要因ファクターだった。


(前方にいるゴブリンをまだ追い掛けているのか……)


 確かにゴブリンライダーは早いが、乗っているのはデザートウルフである。

 草食動物なら持久力はあるだろうが、ウルフがこんなに長い間、全力疾走できるハズがない。


 一度、確かめた方が良さそうだ。


(その前に……)


 サンドワームが巻き起こす砂と揺れで、サンドボードの速度スピードが落ちてしまった。

 俺は〈スカイウォーク〉へ切り替えると〈アイテムホルダー〉へカイトシールドを収納する。


 推進力を維持したままサンドワームの上へと移動した。

 なまじ体が大きい分、側面や背後からの接近に対しては無警戒らしい。


 サンドワームをおそう存在は皆無なため、強者の余裕だろう。右手にサーベルを持ち、広範囲を斬りつける〈ブランディッシュ〉の技能スキルを使用する。


 シュン、シュシュンッ!――サンドワームの外皮を斬り裂く。

 切れ味は悪くはない。だが、相手が巨大であるためか、効果は今一つのようだ。


 何度なんどか斬りつけることで出血死には出来るだろうが、長期戦になる。

 都合よく、地中から顔を出したままで、いてくれるだろうか?


 答えはNOノーだ。スライムでさえ、塩を警戒する程度の知能はある。

 やはり、中途半端な攻撃は、相手が逃げる確率を上げるだけだろう。


 俺はそのまま前方へと加速した。

 ゴブリンたちなら『先に始末しよう』と考えていたのだが、どうにも違うようだ。


 狩りくしたので、別の獲物に切り替えたのかもしれない。

 俺は着地すると前方の一団へと追い付いた。


 どうやら三人組で、それぞれ地走鳥ロックバードに乗って逃げている。

 大男二人が両サイドにいて、真ん中を走る小柄な人物を守っているらしい。


 サンドワームの習性には詳しくないが、魔物モンスターの習性を考えるに――


(真ん中の奴が魔結晶を持っているのか……)


 そうでなければ、サンドワームがここまで執拗しつように追いかけたりはしないだろう。

 最初は『俺と同じことを考えている人間もいるのか』と感心したが、すぐに違うことに気が付く。


 三人居るのなら、一人ずつ交代で魔結晶を運べばいい。

 そうすれば一人が追いかけられている間、他の二人は休むことが出来る。


 サッカーやバスケでも三人制の試合があることから、ゲームを展開する上でも三人という数が重要であることが分かる。


 知らずに追いかけられているのであれば、それはただの被害者だろう。


(まずは状況を確認するか……)


 俺は身体からだを前に倒し、更に加速した。

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