第50話 オアシスでの休息(2)


 俺が提示した、もう一つの条件は砂漠用の装備だ。

 リディエスの街で、それっぽい格好をそろえたが、やはり暑い。


 砂が当たると微妙びみょうに痛いし、目に入ると戦闘で不利になる。

 涼しくて砂に強い装備を所望した。


 まあ、これは護衛を引き受けたので報酬というよりも――仕事をする上で必要な――道具の貸出や支給品だろう。


 それがカムディの持ってきてくれた外套マント防塵眼鏡ゴーグルだ。

 また、彼らと同じ白い布の服も用意してくれた。


 通気性が良く、涼しそうだ。

 ミヒルの分は後でイスカが用意してくれるらしい。


 後は武器と防具になる。ショートスピアとラウンドシールドがもうもたない。

 サーベルとカイトシールドをゆずってもらった――というワケだ。


 サーベルは軍刀してのイメージだったが、騎兵が片手であつかえるように軽くて、長めに作られているようだ。刺突、斬撃の武器として使える。


 カムディに職人のいる馬車まで案内してもらった俺は、カイトシールドに足を固定できる場所と手綱を取り付けてもらうようにお願いした。


 他にもポールウェポンやハンマー、ラウンドシールドやタワーシールドを借りていたので返却しておく。魔物モンスターが出る以上、彼らにも武具は必要だろう。


(俺が独占するワケにもいかない……)


 職人は怪訝けげんな顔をしていたが――すぐに終わる――と了承してくれた。

 あまり追及されないのは楽でいいが、無口な性格なのだろう。


 俺は着替えをして、他の連中にも挨拶あいさつをすることにした。


「顔を覚えてもらってくる……」


 オアシスを一周したら、また顔を出す――と職人に告げる。

 その頃には終わるだろうと思ったのだが、特に返事はなかった。


 やはり無口なようだ。俺は適当な馬車を借り、着替えを済ませる。

 新しい装備にれる意味もねて、身体を動かすつもりではあった。


 散歩をするので、タイミングとしては丁度いい。

 俺はカムディをともない、挨拶あいさつをして回る。


 仕事をする上で、顔と名前をおぼえてもらうことは重要である。二十代の内は仕事を覚えるよりも、周りとの信頼関係を築くことに重点を置いた方がいいだろう。


 すると自然と仕事が集まってくる。まあ基本、入社当時は放置されるか、構われすぎるかのどちらかだ。『ストレスとの戦い』となる事が多い。


 今は有給休暇を使わないと指導されるようだが、少し前までは「そんなことで休むな!」と言われる時代だった。


 四六時中、会社の連中と顔を合わせていれば『こちらも病気になる』というモノだ。年寄り連中は、嫌なことは『飲んで忘れる』というタイプでもあった。


 酔った勢いで「オレが会社を変えてやる!」などと居酒屋ではいさましいことを言うが、結局はそれで満足して終わる。


 まったく、あの会社はどうかしていた。


(今の時代の人たちは、転職サイトも充実しているのでうらやましい……)


 オアシスの周辺ということもあって、若干風が涼しく感じる。正確に数えたワケではないが、一団の馬車の数は二十から三十といった所のようだ。


 それがオアシスの周りをグルリと囲む形で配置されている。

 流石さすがのゴブリンも、この数なら手を出してこないハズだ。


(まあ、すでにサンドワームに消化されているのだろうが……)


 カムディの話では『一団の人数は三百より多い』といった程度らしい。

 街から逃げてきた――という割には、数が少ないようだ。


 千人くらい居るのかと思っていたが「街の人間全員が神殿を目指したワケじゃない」と言われてしまった。


(なるほど……)


 金持ちや兵士の姿が見当たらないことから、上流に位置する街の人間たちは『護衛をつけて、先に街を逃げ出した』と考えることが出来る。


 残ったのは貧乏な人たちなのだろう。

 救いを求める人間ほど、宗教にのめり込む。


 砂漠の街にある神殿に『最後の希望』を託しているようなので、すがるモノが、それしかないのかもしれない。


 一応、代表をやっている老戦士にリディエスの事は伝えた。

 スライムも居なくなり、水も浄化された。


 建物もそのままなので、暮らすには不自由しない。

 だが彼らに、向かう意思はないようだ。


 【終末の予言】を食いめなければ、人類に未来はない。

 逃げた所で、魔物モンスターの脅威からは逃げられないことを知っているのだろう。


 また、宗教的な理由もあるようだった。

 恐らく、彼らにとっては砂漠にある都市――正確には神殿――が聖地となる。


 そこをむざむざ、魔物モンスターに明け渡す気はないようだ。

 この一団には『信仰心の厚い人間』と『行き場のない人間』が集まっていた。


 これは別の意味で、エーテリアのことを内緒にしておいたのは正解だったかもしれない。砂漠など、過酷な環境では一神教が信仰される傾向にある。


 より多くの人間が過酷な環境で生き延びるためには、きびしい戒律かいりつが必要なのだろう。つまり『他の神様を信じる連中とは仲良く出来ない』そんな傾向にあった。


 これに対して『日本は他の宗教に寛容だ』という説もあるのだが、戦国時代の『比叡山ひえいざん焼き討ち』や天草四郎の『島原の乱』のような例もある。


 まあ、こっちは不寛容というよりも――


(時の権力者との『対立』と言った方が正解かもしれない……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る