第49話 オアシスでの休息(1)


 ――ザシュッ、ザシュッ、ザザーッ!


「うん、これがいいな……」


 砂丘さきゅうの上を盾に乗り、颯爽さっそうすべった俺はカイトシールドを選んだ。

 タワーシールドも悪くはない。大きくて頑丈がんじょうなため、安定している。


 盾としては大切な事だ。

 だが、重いためかサンドボードとしてあつかった場合、速度スピードが出ない。


 砂の性質によるのだろう。

 俺のサンドボードの乗り方スタイルには合わないようだ。


 雪原をすべるのなら、エッジを立てボードをかたむける事でターンが出来るのだが、砂の上でそれをやると速度スピードが落ちる。


 速度スピードを落とさずに曲がるには、飛びねた方がいいため、ボードとなる盾は軽い方がいい。


 俺には〈スカイウォーク〉の技能スキルがあるので、難しいことではなかった。

 また、体重を掛けても、雪と違って速度スピードが出ないようだ。


 砂自体が動くためだろう。ようりが利かない。

 砂丘さきゅうの一部がくずれると、砂は雪崩なだれのように連動する。


 安定した速度スピードを出すには、ある程度、砂の流れに乗る必要があった。

 そういった意味では、スノーボードよりもサーフィンに近いのかもしれない。


(まあ、サーフィンはやったことがないんだが……)


 いつものエーテリアなら「ユイトさん、カッコイイです♪」とめてくれる所なのだが、今の彼女は子供たちの様子を観察するのに夢中なようだ。


 子供たちも俺の真似まねをしてか、砂丘さきゅうでソリを始めた。

 板や袋に座れば、後は勝手に下まですべってくれるのだから、簡単な遊びだ。


 そんな楽しそうにしている子供たちとは逆に、大人たちは疲れ切っている様子だった。


 砂漠という過酷かこくな環境の中、魔物モンスターおそわれながらの旅は精神的にもキツかったのだろう。


 一方で子供たちは――ポーションを与えた所為せいか、それとも子供だからなのか――元気である。ミヒルも一緒になって遊んでいた。


 子供はすぐに仲良くなれてうらやましい。


(いや、今は俺も子供だったか……)


 あのサソリを追い払ったお陰で、一部でヒーローあつかいを受けている。最初は俺のことをあやしんでいたカムディも、今ではすっかりれしくなっていた。


なに、遊んでるんだよ」


 とカムディ。手には砂漠用の外套マント防塵眼鏡ゴーグルを持っている。

 子供たちを助けてくれた『お礼』ということで、装備一式を所望しょもうしたのだ。


 かつての俺なら遠慮えんりょしていたのだろうが、社会人として経験をんだ今は、報酬をもらうことに遠慮はしない。


 正しい報酬をもらうことで、経済が回ることを学習したからだ。また、俺が報酬をもらったことで『今後、功績を残せば報酬をもらえる』という前例が出来る。


 残念ながら、人は気持ちだけでは動かない。

 『アメとムチ』という言葉があるように報酬を与えることも必要だ。


 今回は恩を売ることに成功したので、次は地位を得なければならない。

 一匹、二匹の魔物モンスターと戦うのであれば必要なかった。


 だが、もし【終末の予言】通りに事が運ぶのなら、魔物モンスターの軍勢と戦うことになる。


 その時の立場が『アニメーター』と『監督』では雲泥うんでいの差だ。

 人を動かすにはせめて『作画監督』くらいの肩書かたがきが欲しい。


 いや、間違えた。小隊を率いる隊長くらいにはなっておきたい。

 なので、俺はこれから、その肩書を取りに行く準備をしていた。


「遊んでいたワケではない、サンドワームを倒す準備だ」


 と俺が答えると、流石さすがのカムディも『なに言ってんだコイツ』みたいな顔をする。

 心外である。小さな投資で大きな利益を得るのが投資の基本だ。


 俺がサンドボードを上手に乗りこなすことで、サンドワームを倒せるのだから、そこは応援する所だろう。


「確か、地走鳥ロックバードは騎乗も出来るんだったな?」


 俺の問いに「ああ、そうだけど」とカムディはうなずく。

 馬と同様に考えていいようだ。騎士などが乗ることもあるらしい。


 ならば、手綱たづなもあるだろう。

 取りえず、イスカには、ミヒルの面倒を見てくれるように頼む。


 また、ミヒルにも声を掛け、イスカの言う事を聞くように指示する。

 そして、カムディと一緒に職人のいる馬車へと移動した。


 岩場でサソリから助けた人たちと一緒に、俺たちはオアシスへと向かった。

 南方の街から旅をしてきた一団と、無事に合流することが出来た。


 イスカたちの言葉だけなら信用されなかったのかもしれない。だが、サソリにおそわれていた馬車の人々を助けたことで『俺の強さが真実だ』と証明されたらしい。


 この一団の長である老戦士から、お礼を言われると同時に護衛を頼まれた。

 どうやら老戦士はイスカとカムディの祖父らしい。


 父親の姿がなく、老戦士が『一団を率いている』という事は、父親はもういないのだろう。気にはなったが、えて言及げんきゅうしないことにした


 それよりも、受け負った仕事は『職能クラス』【バランサー(トラベラー)】である俺にとって、本来あるべき役割だ。


 元々、砂漠の街へは行くつもりだったので、一団と同行することに問題はない。

 俺は二つ返事でOKすると、いくつか条件を付けた。


 まずは時間だ。出発を少し待ってもらうように交渉する。

 これは馬車の修理や人々の休息が必要だったため、簡単に了承してくれた。


 俺としては『街へ向かう前にサンドワームを倒しておきたかった』というのが理由だ。ただ、真面目まじめに話をすると笑われるか、あきれられてしまうだろう。


 また、公言した場合、引き留められる可能性も十分にある。

 出立の準備が整うまで、そこはせておく事にした。


 子供の姿のため、警戒されずに一団へ受け入れてもらえたが、子供が一人でサンドワームを倒せるとは思ってもらえないだろう。


(やれやれ、子供の姿もわるしだな……)

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