第48話 人間族との邂逅(4)


 俺が馬車へと戻ると、


「ニャッ♪」


 そう言って、ミヒルがき付いてきた。

 背中ではなく正面からだ。俺は抱き締める形で受け止める。


 甘えん坊になってしまったのか? とも思ったのだが、違うようだ。

 馬車の中をのぞくと、折り重なるように子供たちが眠っていた。


「これじゃ、場所がないな」


 そんな俺の言葉に、


「ニャッ!」


 とミヒル。俺が、しっと口許くちもとに人差し指を立てると、ミヒルは両手で口を押えた。

 もう一度、馬車の中を確認したが、誰も起きる気配はない。


 お腹も満たされ、安心したのだろう。

 今までの旅の疲れがドッと出たようだ。


 俺はエーテリアへ視線を向けると、おたがいに微笑ほほえむ。たった一人の少女を救っただけだったが、結果として、多くの笑顔を守れたようだ。


 御者台へと座った俺に続いて、ミヒルもちょこんと横に座る。

 そんな彼女ののどをコチョコチョとすると、気持ち良さそうな表情を浮かべた。


 さて、もう少しゆっくりしたい所だが――


「風が強いから、気を付けろよ」


 と忠告すると、俺はミヒルに外套フードをしっかりとかぶせる。


「ダイジョブ、ニャッ!」


 とミヒル。言った後、慌てて口を押えた。

 荷台の子供たちの様子を確認したが、ぐっすりと眠っているようだ。


 ミヒルはホッと一安心すると、なにやら嬉しそうに足をプラプラさせている。

 地走鳥ロックバードが怖いのかと思っていたが、いつの間にかれたようだ。


 子供はすぐに大人の真似まねをしたがる。

 一度、御者台に乗ってみたかったのかもしれない。


 遠くに見えていた砂煙は小さくなっていた。

 この分なら、こちらから近づかなければ危険はなさそうだ。


 俺が馬車を動かすと「シュッパツ、ニャ~」と小声でミヒルが言う。

 どうやら、余裕を取り戻したらしい。


 砂漠なので目印になるようなモノはない。

 魔法で地図を出し、位置を確認しながら進む。


 合流地点はオアシスとなっていた。

 砂漠の街へは直線状にではなく、オアシスなどを経由して進んでいたようだ。


 当然、ゴブリンたちが待ち伏せしていたに違いない。

 だが、サンドワームが捕食していたのだろう。


 そういった意味では安全に旅を進めることが出来ていたようだ。

 しかし、俺の予想通りなら――


(ゴブリンを食べつくした後は、街をおそうハズだ……)


 サンドワームが今よりも巨大化しているのは、容易に想像がつく。

 あの巨大な魔物モンスター襲撃しゅうげきされたら、今の『人間族リーン』では一溜ひとたまりもない。


「ニャニャッ!」


 とミヒル。目を見開き、立ち上がる。

 どうやら、なにか見付けたらしい。


 危険を察知した時の動きだ。「危ないぞ」と言いつつ、俺はミヒルが落ちないように、彼女をつかんでから馬車をめる。


 大きな岩が複数ある場所だ。確かに、物陰に隠れるには適している。

 引き返すべきかと考えていると、馬車を見付けた。


 同時に岩陰から一匹の大きなサソリも出現する。


(いや、大きすぎる……)


 馬車よりは小さいが尻尾の毒針を合わせると、かなりの大きさだ。

 地走鳥ロックバードの姿がないことから、馬車は動かせないのだろう。


 魔物モンスターの知識としては『オオサソリ』というのが存在する。

 人間の子供くらいの大きさで、人が乗れそうなくらい大きな個体もいるようだ。


 しかし、目の前に現れたのは人間の大人より、一回り大きなサイズのサソリ型の魔物モンスターだった。なにやら岩のようにゴツゴツした外見をしている。


 取りえず『堅い』といのは理解した。

 俺はミヒルに、誰かを起こすように伝えると馬車から降りる。


 また可能なら、この場から逃げるように指示を出す。

 そして、サソリ型の魔物モンスターへ向かって突っ込む。


(確か、ハサミにつかまると毒針を刺してくるんだったな……)


 勿論もちろんつかまるつもりは毛頭ない。

 近づくと『ジャイアントスコーピオン』と表示された。


 岩肌のような外見は、ただの擬態ぎたいのようだ。

 ラウンドシールドを構え、全速力でシールドバッシュを叩き込む。


 要は体当たりだ。意外に相手は軽かったらしい。

 いや、俺のレベルが上がっている所為せいだろうか?


 空中を舞い、引っ繰り返って砂地の方へと落ちる。怒って反撃してくるのかと思い、石を投擲とうてきする準備をしていたのだが、慌てた様子で逃げて行った。


 ハッキリいって、拍子ひょうしけだ。

 どう見ても、外見から殺意が高めの魔物モンスターだと思ったのだが、違ったらしい。


 経験値のためにも追撃ついげきしたい所だが、後ろにはまだミヒルたちの乗った馬車がある。あまり離れるワケにもいかない。


 それに今ので、盾の耐久度がかなり減ってしまった。ゴブリン程度を相手にするのなら問題ないが、巨大な魔物モンスター相手には使用をひかえよう。


 カムディとミヒルだろうか?


 「すげ―な!」「ゴイニャー! ゴイニャー!」


 とさわいでいる。また、岩陰からぞろぞろと人が現れた。

 隠れていたらしい。放置された馬車の持ち主だろうか?


 肌の色から、イスカたちと同郷のようだ。

 恐らく『はぐれた』という一団の仲間らしい。


 彼らもまた、仲間と合流するためにオアシスヘ向かっていたのだろう。

 日陰のある岩場で休憩していた所をサソリにおそわれた。


(そんなところか……)


 彼らがいるという事は、目的地は間違っていなかったらしい。

 なにやら感謝されているようだし、俺としても一安心だ。

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