第47話 人間族との邂逅(3)


「おい、そんな速度スピードを出したら、すぐに地走鳥ロックバードがバテるぞ!」


 と注意してきたのはイスカの弟だ。確か『カムディ』と名乗っていた。

 今の俺と同じくらいの背格好なので、同年代だろう。


 肌の色以外は姉のイスカにあまり似ていない気がする。

 まあ、彼女は女神の姿が見える『巫女』としての能力を持っている。


 変わった雰囲気をまとっているので『他とは違う』と感じてしまうのかもしれない。

 それよりも、地走鳥ロックバードというのか――


(『岩場にいる鳥』という事だろうか? 音楽の方ではないよな……)


 そんな疑問を口に出したとしても、カムディが答えてくれるとは思えない。

 俺は「問題ない」とだけ告げ、説明をイスカに任せた。


 大精霊様の加護がどうのと、上手いこと説明してくれるだろう。

 実の姉からの説明という事もあり、カムディは口をつぐんだ。 


 ミヒルも彼女になついていたことから、警戒心のようなモノを持たれにくいのかもしれない。


 また、エーテリアも彼女の事を気に入ったようだ。

 その所為せいでイスカから神秘的な雰囲気を感じるようになった気がする。


 いや、今は馬車の操作に集中しよう。

 カムディの言う通り、かなりの速度スピードが出ている。


(この分なら、すぐに合流できるな……)


 そう思っていたのだが、前方に砂嵐が見えたので馬車をめた。

 大気が茶色くなっている。


 サンドワームが現れた時のように砂が舞っているのだろう。まだ距離はあるが、こちらに向かって来るようなら、遠回りをしなければならない。


 しかし、子供たちは弱っている。


(あまり連れ回すのは良くないか……)


 今は様子を見ることにした。

 休憩も兼ね、砂丘さきゅうの影へと馬車を移動させる。


 そして、馬車をめると子供たちの体調を確認チェックすることにした。

 カムディは元気そうなので地走鳥ロックバードの世話を任せる。


 魔物モンスターばかり警戒していたが、脱水症状を起こしているといけない。

 子供たちへ水と回復薬ポーションを与えるようにイスカへ指示した。


(元気になれば、ミヒルとも友達になってくれるかもしれない……)


 俺の視線に対し「ウニャ?」と首をかしげるミヒル。


「ついてくるか?」


 その問いに対して「ニャニャ♪」とミヒルは俺の背中に飛びついてきた。

 何処どこ魔物モンスターひそんでいても、おかしくはない。


 俺はミヒルを連れて、周囲の見回りに出掛けた。

 正直、座ってばかりいると『疲れる』というのもある。


 仕事でも、一時間に一度は席を立つようにしていた。

 集中力を発揮するためにも、適度な運動は大切だ。


 なだらかな砂丘に登り、周囲を見渡す。

 辺り一面、砂ばかりで特に異変は感じられない。


 ミヒルの耳の動きにも変化は見られなかった。観光であったのなら、今の砂漠の景色を『砂と風が作り出した芸術アートだ』と楽しめたのだろう。


 遠くに見えた砂嵐も近づいてくる気配はない。

 安全が確認できたので、俺は馬車へ戻り、今度は料理をする。


 生憎あいにくかたいパンと野菜しかない。


「いつものスープでいいか?」


 ミヒルに確認した所「ニャッ♪」と返されたので、肯定の意思だと受け取る。

 大きめの鍋を使ってスープを作ることにした。


 砂漠なので、本来なら『バーベキュー』やラクダの『ミルク』『アラビアコーヒー』などが定番なのだろう。


 『サンドボード』や『砂ソリ』というのも聞いたことがある。

 対極に位置するイメージだが、雪と似ている部分もあるようだ。


 まき枯草かれくさは事前にひろって〈アイテムボックス〉に収納している。

 空気が乾燥しているので、火をおこすのは簡単だ。


 鍋に水を入れ、お湯をかす。

 すぐに火が通るように野菜は細かく切って鍋に入れる。


 子供なので、この方が食べやすいだろう。

 適当に味付けをしていると、においに釣られて子供たちが馬車から顔を出した。


 どうやら、元気になったらしい。


(本当は一旦、冷ます事で味を馴染なじませたいのだが……)


 お腹が空いているのだろう。俺は料理を振舞ふるまうことにした。

 取りえず、これで子供たちの懐柔かいじゅうには成功したようだ。


 『人間族リーン』との邂逅かいこうだったが――


(まずは順調な出だしといえるだろう……)


 食事も終わったので「よし、出発!」というワケにもいかない。

 子供は何故なぜか、車が動き出した途端とたん、トイレに行きたくなる生き物だ。


 スコップで穴を掘り、トイレをさせる。十人はいるので、中々の大仕事だった。

 小さいとはいえ、これだけの人数がよく馬車に乗ったモノだ。


 俺はエーテリアに浄化魔法を使ってもらうように、お願いした。

 手を洗えない以上は仕方ないだろう。汚れていた服も綺麗になるハズだ。


 イスカは大精霊様へ祈るように子供たちをうながす。

 子供たちが全員、彼女の言うとおりにひざく。


 今のエーテリアへ祈りをささげる姿はなんとも滑稽こっけいだ。


(踊り子の格好なんかするから……)


 汚れた姿だった子供たちが光に包まれた瞬間、綺麗きれいになる。

 どうせまた、すぐに汚すのだろうが、病気になる可能性はグッと減るハズだ。


 先に馬車へ乗るように指示し、俺は堀った穴をめる。

 正直、あの数のゴブリンを倒していればレベルが上がっていたかもしれない。


 そう思うと、少し悔しい。俺は魔法で地図を広げると――


(やはり、この作戦で行くか……)


 サンドワームの倒し方を考える。

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