第46話 人間族との邂逅(2)


 ブラック企業に勤めていた所為せいか、どうにも社会の理不尽に対して、思考が加速してしまう。加速思考症候群かもしれない。


 情報に追われ、休むことなく思考が加速し、脳がストレスを感じている状態のことをいう。情報が多く、常に考えなければいけない現代人のやまいである。


 集中力が続かなくなったり、物事の過程を楽しめなくなり、なにをしても退屈に感じるようになるらしいので、違うと思いたい。


 理解が遅い人や行動力がない人、ゆっくりな人など、ペースの遅い人物と一緒にいるとイライラしてしまうようだ。


(ここまで離れれば大丈夫だろうか?)


 俺は馬車をあやつりながら後方を確認する。

 日本では『ミミズは土をたがやす』と聞くが、サンドワームは違うらしい。


 随分ずいぶんと距離をとったハズなのだが、いまだに砂煙が舞っている。

 恐らく、サンドワームが砂をき続けているのだろう。


 日本では『ミミズは土壌を食べてふんをすることで、植物が栄養を取り込みやすい土に変える』と聞く。


 だが、サンドワームは食べた土を砂に変えて、き出しているようだ。

 砂漠が広がっている原因は気候の変化だけではなく――


(サンドワームが原因かもしれない……)


 ミミズが地中を移動することで穴が出来て、土壌が耕される。

 その穴に空気が入ることで、植物の根が伸びる空間スペースが出来るからだ。


 ミミズが通って出来た穴によって『植物の成長に好適な環境が出来上がる』というワケだ。しかし、サンドワームの場合は『砂漠を広げている』ようにしか見えない。


(ワームというだけあって、システムに悪害を与えるマルウェアに近い……)


 米国に欧州からミミズが侵入したことで、環境が変化した例もある。

 氷河にもれていたことで、ミミズが生息していなかった森林。


 そこでは腐葉土の分解が進まず、ゆっくりと成長する植物が多く植生していた。

 しかし、ミミズが侵入したことにより、腐葉土が早く分解されるようになる。


 結果、今まで植生していた植物が育たなくなってしまった。

 たかがミミズと思ってはいけない。


 外来種が生態系へ与える衝撃インパクトは、人間が思っているよりも遥かに大きいようだ。

 ましてや、相手は規格外の大きさのサンドワーム。


 被害はミミズの比ではない。

 これ以上の砂漠化を食いめるためにも――


(サンドワームは倒さないといけない相手らしい……)


 ミヒルの頭をで、落ち着かせると、イスカへとあずける。

 いつまでも、この場にとどまり、サンドワームの暴挙を見ていても仕方がない。


 俺はイスカに『子供たちと別れた場所』を確認する。

 考えずに走ったが、ここから近いようだ。


 いや、そう感じるのは、俺が操ることで馬車の機動力が上がったせいだろう。

 子供の足なら、まだ、そう遠くへは行っていないハズだ。


 一度、別れた地点まで戻り、そこから合流地点へ移動しよう。

 り道になってしまうが、エーテリアには不満がないようだ。


 フヨフヨと浮かんだ状態で、俺を見て笑顔を浮かべている。

 どうやら、俺が『あのサンドワームを倒す』と思っているらしい。


 勘弁して欲しいモノである。流石さすがに今回はが悪いだろう。


(せめて、砂漠以外で戦う事が出来れば……)


 子供たちとは思ったよりも早く合流できた。

 やはり、子供の足で砂地を歩くのは難しかったようだ。


 イスカとの再会を抱き合って喜んでいる。

 簡単な自己紹介を終え、全員を馬車に乗せると、すぐに移動した。


 また、ゴブリンが出ると厄介だ。奴らは目下のところ、サンドワームのえさである。

 つまり、奴らが居ると、サンドワームが襲撃してくる可能性が高い。


 幸か不幸か、出会うことはなかった。子供たちにとっては良かったのだろうが、サンドワームが食べしてしまったことを意味する。


 他にも魔物モンスター棲息せいそくしているのだろうが、次に狙われるのは、簡単に捕食にできる『人間族リーン』の可能性が高い。


 これも日本の現状に似ている。

 もっともらしい理由をつけ、次から次へと増税される。


 まあ、日本の優秀な大学を出ている連中が税金を考えているので、学のない庶民が対抗できるハズもない。増税に次ぐ増税――


(弱者は捕食され続けるのだろう……)


 今の若者は、調べ物はSNSや動画が中心。

 映画に小説、ゲームも動画配信で十分という世代だ。


 漫画はスマホで見るため、小さいコマや台詞セリフは飛ばす。

 小学生は算数の問題がリンゴとミカンなら解ける。


 だが、他の果物になると途端に分からなくなるらしい。

 給食も、どんどん劣化しているそうだ。


 子供がいないので真偽しんぎのほどは分からないが、なんとも頼もしい話である。


(いや、今は俺も子供だったな……)


 次は合流した子供たちを連れて、大人たちを探さなければならない。

 このまま、砂漠の街を目指すという選択肢もある。


 だが、サンドワームを放って置くワケにもいかなかった。

 南の方の都市で起きている出来事も気になる。


 今回は『子供たちを助けた』という恩を売ってから『情報を聞き出す』という方向でいく予定だ。

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