第44話 砂漠の異変(2)


 スコップを使い、塩の入っていた大きな袋に砂を詰める。

 なんでも取って置くモノだ。


 穴をるワケではないので、作業自体は一分も掛からない。

 三袋あればいいだろうか? スコップと砂を〈アイテムボックス〉へ収納する。


 次に〈アイテムボックス〉から石の入った袋を取り出し、三つほど石を手にすると〈アイテムホルダー〉へ袋をうつした。


 砂漠へ来る途中、ミヒルにも手伝ってもらい平原で集めた物だ。

 投げるのには丁度いい、にぎれるサイズをそろえた。


 砂の中に隠れて、そう時間はっていないのだろう。

 遠目には分かりにくいが、不自然に砂が盛り上がっている場所がある。


 俺はその場所へ近づき、距離と時間タイミングをずらして石をげた。

 『技能スキル』〈スローイング〉の効果により、投擲とうてき能力が強化されているのだろう。


 最初は威力や飛距離だけかと思っていたのだが、制球力コントロールも上がっているようだ。

 ボトッ、ボトッ、最後の三つ目が砂の上にボトッと落ちた瞬間――


「ゲギャッ!」「ギャギャッ!」「ゲギャッ!」


 デザートゴブリンとデザートウルフが砂の中から一斉に飛び出してくる。

 足音をして石を投げたのだが、上手く勘違いしてくれたようだ。


 これがコイツらの戦闘方法なのだろう。

 砂の中に待機して、獲物が近づくのをじっと待つ。


 先程、イスカを追い掛けていたゴブリンたちも、この場所へと彼女を誘導していたようだ。


 突然、こんな奴らが砂の中から飛び出してきたらおどろくのと同時に、対処に困るだろう。例えば、砂漠なのでオアシスが危ない。


 オアシスの周辺に隠れていて、油断した瞬間に数で来る。

 そんな状況が容易に想像できてしまった。


 肌の色や毛並みの色も砂漠だと分かりにくい。

 保護色となっているようだ。当然、整備された街では機能しない。


 また、石畳いしだたみや壁が邪魔をして、連携や待ち伏せも難しかったのだろう。

 攻撃が読みやすく『戦闘が素人の俺でも対処できた』というワケだ。


 しかし『砂漠での戦い』においては、ゴブリンたちの方が得意としている。


(敵の強さを一段――いや、二段は上だと思って対処するか……)


 連携を取られる前に、俺はラウンドシールドを構えて突っ込む。

 新しく習得した『技能スキル』〈シールドバッシュ〉で、まとめて敵をはじく。


 いや、吹っ飛ばした。宙を舞うゴブリンライダーたち。

 りでも良かったのだが、基本一匹ずつにしか使用できない。


 レベルが上がり、ステータスが向上した今なら、盾を構えて相手に突撃した方が効率的だ。副産物は砂が舞い上がったことだろうか。


 目眩めくらましになったので丁度いい。俺は〈スカイウォーク〉で上空へと逃げた。

 流石さすがに相手も戦いれている。


「ゲギャゲギャッ!」


 と指示を出しているのがゴブリンリーダーだろうか?

 俺に対し、総攻撃を仕掛けるように指示したようだ。


 依然として砂煙は収まらないが、音で大体の位置が分かるようだ。

 しかし、俺はすでに上空へと逃げ、回避に成功していた。


 弓使いや魔法使いのような遠距離型もいない。

 作業工程フローは完成した。


 俺が居たであろう場所に、ゴブリンたちは武器を突き立てる。

 ほぼ全員が集まる形になったのは都合がいい。


 当然、俺はその集団目がけて飛び込んだ。ショートソードを手に持ち、新しく習得したもう一つの『技能スキル』〈ブランディッシュ〉を使用する。


 刃を振り回す『技能スキル』だ。ショートソードの切れ味は、それほどするどくない。

 だが、ゴブリン相手には十分通用する。


 シュンッ! シュシュンッ!――と高速の斬撃が舞う。

 威力は俺の敏捷値スピードが影響するらしい。


「ギャギャッ!」「ゲギャッ!」


 と悲鳴を上げ、ゴブリンライダーを二匹始末した。

 腕や足を斬り落とされたゴブリンやウルフもいる。


 また、顔を斬られ、苦しむゴブリン。砂の上でのたうち回る。

 初めて使ったにしては上出来だろう。今まではミヒルが背中にいた。


 そのため、このような戦い方はしてこなかったが――


(イケそうだな……)


 俺はショートソードからショートスピアに持ち替えると先程、指示を出していたリーダーとおぼしきゴブリンへと突っ込む。


 そんな俺に気が付き、部下のゴブリンを盾にしつつ、自分を守るように指示を出したようだ。予想の範囲内のため、作業フローを続行。


 まずはスライムに塩をいた時と同様に、用意していた砂を一斉にく。

 今回は外なので風がある。


 そのため、上手く行くのか疑問だったが成功したようだ。

 砂煙となって、再び敵の視界をうばう。


 後は〈スカイウォーク〉で上空へと移動し、後方からショートスピアを投擲とうてきした。

 ゴブリンリーダーを倒せば、指示系統は失われ、後は総崩れだ。


 弓や魔法を使うタイプのゴブリンはいないため、そのまま上空を移動する。

 後は石の入った袋を取り出し、中身を投げつける。


 逃げられたり、砂の中に隠れられたりしても厄介なので、先にダメージを負わせておく作戦だ。


 ステータスが向上した事に加え『技能スキル』〈スローイング〉の効果だろうか?

 投球ピッチングフォームで投げているワケではない、にもかかわらず――


(時速160Kmは優に出ている気がする……)


 痛みで動きをにぶらせる程度のつもりだったが、当たり所によっては即死もまぬれない威力だ。魔物モンスターたちは痛みで悶絶もんぜつしている。


 だが、動けるゴブリンもいたようだ。俺は武器をショートソードに持ち替えると、逃げようとしていたゴブリン目掛けて降下。頭に一撃をらわす。


 着地と同時に、まだ動いているゴブリンとウルフを斬りつけながら、ゴブリンリーダーを仕留めたショートスピアを回収する。


(やはり、耐久度が限界か……)


 あと一回くらいは使えるだろう。

 俺がショートスピアを収納し、そんなことを考えていた時だった。


 ――ゴゴゴゴゴ!


 と地面が揺れる。

 感情を殺し、機械的に動いていた俺だったが、正気へと戻った。


(地震かっ⁉)


 一瞬、そう考えたのだが、俺はすぐに思い直す。

 立っているのに、感じる程の強い揺れ。


 予想していた通り、異変が起こっているらしい。


なにか大きなモノが、地中から近づいている……)

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