第42話 砂漠を行く者(2)


 新しく覚えた『技能スキル』〈スカイウォーク〉を使用する。

 文字通り、空を歩けるようになる『技能スキル』だ。


 戦闘向きの『技能スキル』を覚えるよりも、こういう方が俺には向いている。

 なにもない場所を階段のように駆け上った。


 ミヒルは素早く俺の背中に登る。彼女の定位置のようだ。

 正直、最初の頃と比べて成長しているので、そろそろ降りて欲しい所ではある。


 ただ、移動中は俺のスピードについてくるのは難しい。

 現状では仕方がない状況だ。


 俺はゴブリンたちに対して、いつものように上からの奇襲きしゅうを行う。

 ただ、このまま空中を走っているだけでは間に合わない。


 まずはショートスピアを投擲とうてきし、ゴブリンをつらぬいた。

 突然の攻撃に対し、周囲を警戒しながら、戸惑とまどうゴブリンたち。


 いきなり仲間の身体が爆ぜたように――上半身と下半身で――分離したのだから無理もない。この隙に俺は距離を詰める。


 そして、上空まで移動すると、着地と同時にショートソードでもう一匹の頭をち割った。これで二匹目。


 恐らく、ゴブリンたちにとっての狩りなのだろう――


(獲物を交代で追い立て、目的の場所へと追い込む……)


 そんな所だろうか? ゴブリンたちにとっては楽しい狩りの途中だが、俺の乱入により、突如として『狩られる側』に回ってしまった。


 頭では理解していたのかもしれないが、対処が追い付いていないようだ。

 この時点で『奇襲は成功した』といってもいい。


 俺はいつものように素早く移動し、ゴブリンが倒され、制御を失っている状態のデザートウルフ――その脇腹――にりを入れる。


 キャインッ!――と一鳴きするデザートウルフを、もう一匹のデザートウルフへとぶつけた。残ったゴブリンライダーだが――


(やはり、逃げ出すのか……)


 仲間がやられた事で、回れ右をしたらしい。

 しかし――俺にとっては――いつもの事である。


 形勢が不利になると逃げ出す習性なのは変わらないようだ。

 俺は地面に刺さっていたショートスピアを抜くと、再び投擲とうてきした。


 また、俺が蹴飛けとばしたデザートウルフたちは折り重なるように倒れており、動けずにいる。互いにぶつかった衝撃から、回復できていないようだ。


 ミヒルへ降りるように指示する。再びショートソードへ持ち替えると、加速をつけ『技能スキル』〈アクセルターン〉を使用。


 まとめて、デザートウルフの二匹を斬り裂く。一方で、投げたショートスピアが貫通かんつうしたのはデザートウルフの方だったようだ。


 騎獣きじゅうを失い、砂地へと落下した衝撃でダメージを受けたのか、デザートゴブリンは腕を押さえながら、ヨタヨタと逃げる。


(本来の用途とは違うが……)


 俺は武器を園芸用品のかまに持ち替えるとゴブリン目掛けて投擲とうてきした。

 ヒュンヒュンと風を切る音を発しながら、回転してゴブリンに直撃する。


 背中にでも刺されば御の字だと思っていたのだが、次の瞬間、ゴブリンの首がポテッと落ちた。相手に過剰なダメージを与えるオーバーキルとなってしまったようだ。


 我ながら、自分の能力のすごさに引いてしまう。

 まあ、相手は人を襲ってらう魔物モンスターだ。生かしておく道理もない。


 それよりも、敵はまだいるハズだ。

 街で戦ったゴブリンたちは群れで行動していた。


 騎獣きじゅうに乗っていたとはいえ、三匹ということはないだろう。

 ミヒルに警戒するように指示を出すと、俺は投げた武器を回収しに走った。


(毎度、これをやるのは、ちょっとカッコ悪いな……)


 ショートスピアと鎌を拾って戻ってくると、ミヒルが俺の足に抱き着いてくる。

 蹴飛けとばすと危ないのだが、不安だったのだろう。


 俺は外套フードの上からミヒルの頭をでた。

 一方で馬車は停まって、待っていたようだ。


 いや、様子がおかしい。いつもは俺のそばにいるエーテリアが御者台の方にいる。

 御者になにかあったのだろうか?


 周囲を警戒するが、仲間のゴブリンによる追撃の気配はない。


(――となると、何処どこかで待ち伏せしているのか?)


 ミヒルは暢気のんきに俺の背中へじ登ると、頬擦ほおずりをした。

 正直、汗をいたので、今は勘弁して欲しい。


 俺はゆっくりと馬車に近づく。幌馬車で傷はないようだ。

 荷物は少なく、空間スペースが空いていることから、人が乗っていたのだろう。


「おーい、大丈夫か?」


 と声を掛けてみたが反応はない。

 荷台に人はいないようだ。


 馬車の前方へ向かうと、二頭の巨大な鳥が大人しくしていた。

 危険が去ったことが分かっているのだろうか?


(まあ、無事なようで良かった……)


 上手く行けば、この馬車に乗せてもらえる。

 俺が打算的なことを考えつつ、エーテリアの方を向くと、


「どうやら、気絶しているだけのようです」


 と教えてくれた。光を反射する白くゆったりとした服で全身をおおっている。

 身体からだめ付けない服の方が、汗や熱を逃がす働きがあるのだろう。


 小柄だったので老人かと思ったのだが、女性のようだ。

 栄養状態は良くないのだろう。まだ、子供――


(いや、今は同年代か……)


 綺麗きれい褐色かっしょくの肌をしていたがくちびるはカサカサだ。

 疲労と魔物モンスターに襲われた精神的緊張ストレスで限界を迎えたのだろう。


 エーテリアに回復を頼んでもいいのだが、り過ぎるきらいがある。

 ミヒルの時は生死の境目さかいめだったが、今回は違う。


 また、疑問を持たれた際、ミヒルと違って説明が面倒そうだ。

 取りえず、回復薬ポーションがあるので使ってみよう。


 いざという時のために、効果を知っておきたい。

 俺は女性の顔を上に向けると、口にゆっくりと回復薬ポーションを流した。


(この場合、水分補給にもなるのだろうか?)


 砂漠は肌が乾燥する。カルシウムやマグネシウム、ナトリウムなど、ミネラルやビタミンが含まれているのなら、美容にも良さそうだ。

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