第41話 砂漠を行く者(1)


 当然ながら、砂漠には太陽の光をさえぎるモノはなにもない。

 昼夜の温度差が『40℃以上になる』という話を聞いた記憶がある。


 太陽光の熱をさえぎるものが『ない』という事は、地表から逃げていく熱をさえぎるモノも『ない』というだ。


 よって、日中は太陽の光が地面を熱し、夜は地面の熱が奪われて気温が下がる。

 また、説明するまでもないが、砂漠は乾燥していた。


 地表の空気にも、水分はほとんふくまれていない。

 お風呂を想像すると分かるだろうか?


 水は空気に比べると熱しにくく、冷めにくい性質を持っている。

 つまり水分があれば『寒暖の差は小さくなる』ということだ。


 恐らく、亜熱帯高圧帯にでも位置しているのだろう。

 海からの湿しめった空気や北からの寒気を内陸部へ入ってこられなくしている。


 今は『地球温暖化』と言われているが、俺の時代は『酸性雨』や『オゾン層の破壊』が砂漠化とセットで教科書にっていた。


(石油が枯渇こかつするという話もなつかしいな……)


 昨日、リディエスの街を出て、砂漠地帯へ入る前に外で一泊した。エーテリアに結界を張ってもらったため、魔物モンスターに襲われることはないので安心だ。


 まだ、太陽が地平線から昇り始める前に出発したのだが――単純に距離だけを考えるのなら――今日を含めて三日ほど掛かるだろう。


 そんな砂漠を走る、俺の肩につかまり、


「ニャ~ッ! ハヤイ、ニャ♪ ハヤイ、ニャ♪」


 と楽しそうな声を上げるミヒル。

 こいのぼりのように、はためいている。


 子供はなんでも、すぐに遊びへと変えてしまう。

 俺は昔を思い出す――


(いや、今は俺も子供の姿か……)


 そんな俺たちが目指しているのは、砂漠の中にあるという都市『アレナリース』。

 かつては、この砂漠一帯を治めていた国の名前だったようだ。


 しかし、今はどうなっているのか分からない。

 本来ならリディエスの『冒険者ギルド』で入手できた情報なのだろう。


(まあ、冒険者といっても『人間族リーン』は【根源】を失っているのか……)


 一般人が武装した程度の能力しかない。

 戦力としては、あまり期待しない方が良さそうだ。


 急いだ方がいいと考え、俺は速度を上げる。『技能スキル』〈ハイウォーク〉の効果で陸上選手の世界記録を越える速さとなっていた。


 まさに漫画の世界である。ただ、現実は甘くない。

 砂地のため、足が砂に取られてしまう。


 あらゆる場所を歩くことが可能になる『技能スキル』〈ワイドウォーク〉を使用することで、普通の地面と同じように走っている状態だ。


 ただし〈ワイドウォーク〉には時間制限がある。

 適度に休みながら移動する必要があった。


 それでも時速30Km以上は出ているハズだ。

 レベルが上がり、ステータスの数値も向上している。


 本気を出せば時速40Kmはいけそうだ。

 まあ、体力の配分を考える必要があるので『早ければいい』という話でもない。


 しかし、普通に砂漠を進むことを考えると『かなりのハイペースで進んでいる』と考えていいだろう。魔法の地図を確認しながら、最短ルートで進む。


 途中、魔物モンスターおそわれる可能性を考えると無理も出来ない。

 〈ワイドウォーク〉の持続効果が切れる前にスピードを落とし、立ち止まる。


 強い日差しをさえぎるために、外套フードですっぽりと全身をおおっているのだが、それでも暑さとかわきにより、体力がうばわれてゆく。


 道具アイテムを異空間へ収納しておける魔法〈アイテムボックス〉を使用し、水の入っている革袋を取り出すと、コップへそそいでから一口飲む。


「声を出すと、余計にのどかわくぞ……」


 それと一度にたくさん飲むなよ――そう言って、俺はミヒルに水の入ったコップを渡す。こまめに水分補給をしながら、塩をめる。


 子供の体力で、どの程度持つのかは分からない。

 最初は様子を見ながら、進むことにした。


 俺の予想では、砂漠でも異変が起こっているハズだ。

 街にいたデザートゴブリンたちも、砂漠から逃げてきた弱い個体なのだろう。


 最短ルートで進みたい所だが――


(状況に応じて安全なルートを確保する必要があるな……)


 俺がそんなことを考えていると、水を飲み終えたミヒルの耳がピコピコと動いた。

 前回の『てるてる坊主』を反省し、外套フードに三角の耳を収納できる空間スペース――猫耳――を作った。


 ちゃんと聞こえるように細かな穴を開けている。


「ニャ?」


 とミヒル。なにかに気が付いたようだ。

 俺が彼女の視線の先を追うと、なにやら砂煙が見えた。


(嵐だろうか?)


 砂漠なので、竜巻や砂嵐を警戒しなくてはいけない。


「人が魔物モンスターに襲われているようですね」


 とエーテリア。相変わらず半透明で、暑さとは無縁のようだ。

 いつの間に着替えたのか、アラビアン(?)な踊り子のような姿をしている。


 へそ丸出しで、今にも踊り出しそうだ。

 似合う――と言ってしまったので、しばらくは、その格好なのだろう。


 俺はミヒルからコップを回収しつつ、目をらす。

 どうやら、馬車で魔物モンスターから逃げているようだ。


(いや、馬ではないのか?)


 なにやら二羽の――いや、巨大な二頭の鳥が荷台を引いている。

 追い掛けているのはデザートウルフに乗ったゴブリンたちだ。


 ぞくにいうゴブリンライダーだろう。数は三匹。

 街でも見たが、あれが本来の野生の姿なのだろう。


 俺はミヒルをわきに抱えると急いで馬車へと向かった。

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