第37話 地下水路(1)


 神殿を一通り見て回ったが、目ぼしい物は見付からなかった。

 『魔導書』の一つでもあれば――


(魔法を習得するのも手か?)


 そんなことを思っていたのだが、今はめておこう。もしかすると『人間族リーン』の【根源】が失われてしまったことにより、魔法も衰退した可能性がある。


 それに今は魔法職の『職能クラス』を取得できる状態ではない。

 能力は特化型にした方が良さそうだ。


 現状は〈ハイウォーク〉の『技能スキル』が『周囲にも影響力を与える』という副産物を生み出してくれている。


 異能とも呼ぶべき、この能力を強化すべきだ。それに『職能クラス』や『技能スキル』による補正がないのであれば、魔法にはそれほど魅力がない。


 今ある『職能クラス』は旅人である【バランサー】。

 武人の【ウォリアー】に騎士の【ナイト】。


 どう考えても、魔法を覚える状況タイミングではないだろう。

 必須ひっすともいえる回復魔法だが、エーテリアが使える。


 そのため、えて俺が魔法を習得する意味を感じなかった。

 折角、異世界に来たので、少し残念ではある。


 『魔導書』の代わりというワケではないが、かろうじて無事だったのは『聖書』と『錬金術書』の二冊だ。


 しかし、これらも【クラージ】か【アルケミスト】の『職能クラス』がなければ、あまり意味がない。


 溶かされていなかったのは、きちんと収納されていたのもあるだろうが――


(魔力でも宿っていたのだろうか?)


 読める状態で残っていた。聖職者が使用する魔法と錬金術師が使用する錬金術。

 それぞれに補正の効果がある。しかし――


(どちらも、今の俺には不要か……)


 その内、役に立つこともあるだろう。

 大人しく探索を切り上げ、本命の広間を調べることにした。


 鍵は先程、書物と一緒に入手している。

 複雑ではないが頑丈がんじょうで、無骨ぶこつな感じのする作りだ。


 恐らく、水路の入口の鍵だろう。

 スライムの出現により『持って逃げることが出来なかった』のか?


 もしくは『もう使わないと判断して、置いていった』のか?

 それは分からない。


 だが、今は有難ありがた拝借はいしゃくするとしよう。

 確か、街中にも川が流れていた。


 だがアレは人工的に水路を作り、外から引っ張ってきたモノだ。

 生活用水であり、地下の水脈とは関係ないのだろう。


 たぶん街の人口が増えたため、都市を増築した際、造ったモノだと思われる。

 北東には山があったので、海へ向かって川が流れていたハズだ。


 その水を引いたのだろう。まだ街が小規模だった頃は、神殿の近くに井戸があって『活用されていた』と考えられる。


 今は南西に砂漠が広がっているが、昔は緑豊かな土地だったのかもしれない。

 それが気候の変化により、降雨地域が移動した。


 砂漠となったため、人々は次第に北上する。

 そして、この街に辿たどり着き、人口が増えた。


 港ではなく、海から離れたこの街が大きくなった経緯としては、そんな所だろうか? 別に歴史に興味があるワケではない。俺としては――


(ミヒルがいる以上、砂漠を越えるには水を確保しないとな……)


 そんな理由から水源を探しにきただけだ。

 街の外周に植えられていた『結果草バリアリーフ』とも関係があるに違いない。


 れた理由はスライムが原因だと思っていたが、改めて調べ直した方が良さそうだ。


 もし、街に人が戻ってきた時のために、少しでも暮らしやすい環境を整えておく。

 それも必要な事である。


 中央の広間へ着くと――瘴気しょうきと言えばいいのだろうか?――なんとも言えない、不快なにおいがした。


 「生臭なまぐさい」と言ってしまえば、それまでだが、無性に気持ちがザワつく。


「クチャイ、イヤイヤ、ニャ」


 と鼻をつまむミヒル。

 一旦、広間から出て、マスク代わりに顔へ布を巻いてやった。


 俺も同様に布を巻き、マスク代わりにする。

 大して効果はないと思うが『しないよりはマシ』だろう。


 一応、エーテリアに浄化を頼んでみた。

 だが、瘴気の発生源は広間にはないようだ。


 一瞬、腐敗臭のようなモノは消えたが、すぐに何処どこかからかただよってくる。

 スライムは倒したので、原因は地下だろう。


 予想通り水路があり、浄化をする必要があるらしい。

 昨日まではスライムがいたため、ふたの役目をしていたようだ。


 においの原因は台座からで間違いない。

 一応、ミヒルには残るように伝えたのだが、首を横に振ると俺にしがみ付く。


 くさいのは嫌だが、一人はもっと嫌なようだ。

 仕方なく台座を調べると、すぐに鍵穴を見付ける。


 手に入れた鍵も合っているようで、地下への階段を発見した。

 暗視能力はもっているが、明かりは必要だろう。


 ランタンの準備をしようとした矢先、エーテリアが壁に埋め込まれた金属板プレートを指差す。くぼみがあるので、俺は指示された通り、魔結晶を置いた。


 ゴブリンを倒した時のモノだが、三つで6hといった所のようだ。


(少し多めに置いたが、戻って来た時に回収しよう……)


 次にエーテリアは、その金属板プレートへ手をかざした。

 すると――まるで電気がくように――地下へと続く通路に明かりがともる。


 〈火〉ではないようだ。水晶のような石が、ぼんやりとだが光っている。

 恐らく、魔力を流すことで作動する装置らしい。


 原動力エネルギーは魔結晶のようだ。

 正直、興味はあるが、今はにおいをどうにかする方が先決である。


 俺はエーテリアとミヒル。

 それぞれに目配せをすると、地下へと潜ることにした。

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