第36話 街の探索(2)


 翌朝――屋根裏部屋のためか、近くに太陽をさえぎる建物がないらしく、窓の隙間かられる朝日がまぶしい。


 少し寒いが、ミヒルが布団代わりになってくれたようだ。

 子供は体温が高いので、こういう時は助かる。


「オハ、ヨー、ニャ」


 とミヒル。欠伸をして身体を伸ばした後、眠たそうに目をこする。

 昨日の今日で、疲れが残っているのだろう。


 俺が「おはよう」と言って抱き締め、頭を撫でると「ニャー♪」と嬉しそうに鳴いた。何処どこにも異常はないようだ。


 俺は座って寝ていたので、少し身体が痛い。

 軽く運動をするために、外へ出ることにした。


 まずは窓を開け、周囲の様子を確認する。魔物モンスターの姿はない。

 外の建物も、特に変わりない様子だ。エーテリアも目が覚めたのか、


「おはよーございまふ」


 と言って、フヨフヨと空中を浮かびながら、俺たちの後についてくる。

 下の階へ降りるため、扉を押さえていた棒を外し、


「おはよー」


 と返す。そんな俺に対して、エーテリアの姿が見えていないミヒルは首をかしげた。


「女神様がいるから、挨拶あいさつしておけ」


 そう言って、俺はミヒルをエーテリアの方へと向かせる。


「オハヨ、ゴザイ、マス、ニャ」


 と素直にしたがうミヒル。エーテリアは嬉しそうに、


「はい、おはようございます」


 と返した。微笑ほほえましい光景だが、女神であるエーテリアの姿は俺以外に見えない。

 そのため、はたから見ると軽くホラーだ。


(無人の家で壁に向かって挨拶あいさつする少女……)


 念のため、武器を用意し警戒するが問題なさそうだ。

 感知系の『技能スキル』にはなにも引っかからない。


 外へ出て軽く体操をした後、顔を洗って歯をみがく。

 ミヒルはそんな俺の真似まねをした。


 そういう年頃なのだろうか? それとも習性なのかは分からない。

 まあ、可愛いので『良し』としよう。次に朝食をとる。


 ミヒルもお腹がいたようだ。

 『キュウ~』と音を鳴らし、お腹をさする。


 自分から食べ物を要求しない所から、言ってもムダな環境で育てられたのだろう。

 子供のクセに、変な所で大人しい。


 同じ食材しかないため、パンとスープで簡単に済ませる。

 それでも、ミヒルにとってはご馳走ちそうのようだ。


 地球に居た時には、新鮮な野菜ばかり食べていた俺にとっては、早くも苦行である。


 いや、社畜時代は食事も作業だったので、ある意味『人間らしくなった』と喜ぶべきだろうか?


 スープに付けることで、硬いパンが柔らかくなり、食べることは可能だが――


(本当は米がいい……)


 しかし、贅沢ぜいたくは言っていられない。

 昨日まではスプーンの使い方も下手だったミヒルも、学習したようだ。


 俺も成長と創意工夫を忘れてはいけない。

 田舎での暮らしが、それを思い出させてくれた。


 こぼさずに食べられるようになったミヒルに対し、俺は「えらいぞ」とめておく。

 すると満足そうに笑顔を浮かべた。


 食事の後は口をゆすがせ、トイレも済ませる。成長したため、見た目は小学生の低学年くらいの姿なのだが、色々と補佐が必要らしい。


 病気かなにかだったのだろうか?

 トイレの使い方も分からないようだった。


(これは思った以上に手が掛かりそうだ……)


 さて、今日の予定は神殿の探索となる。

 装備を整え、神殿へ向かって出発した。


 スライムの生き残りがいるかもしれないので、ミヒルには塩を持たせておく。

 一輪車を押さなくてもいいので、今回は楽だ。


 あれはぐ走らせるのにコツがいる。

 ミヒルを背負うと、屋根伝いを素早く移動した。


 魔物モンスターの気配は感じられない。

 どうやら、ほとんど倒してしまったようだ。


 念のため、高い建物から空をふくめ、街全体を見渡したが変わった様子はない。

 相変わらず無人の静かな街だ。


 スライムを倒したことで、何者なにものかが現れるのかとも思ったが、嫌な気配は感じなかった。俺は真っ直ぐに神殿を目指す。


 神殿の外へとあふれ出していた大量の粘液は昨夜の内に消失したらしい。

 若干、スライムの形跡は残っているモノの、魔物モンスターの気配は感じられなかった。


 中央の広間へ行く前に、もう一度、神殿内を見て回る。

 エーテリアに確認してもらったが、霊となって彷徨さまよっている存在はいないようだ。


 一応、手を合わせてから部屋を探索する。

 ミヒルも俺の真似まねをして、手を合わせていた。


 昨日は粘液まみれだったので、詳しくは探索できなかった。

 期待はしていなかったが、やはりほとんどが溶かされている。


 しかし、金属は無事なようで、少しのお金といくつかの装飾品のたぐいを手に入れることが出来た。


(大事に使わせてもらう事にしよう……)


 とは思いつつも――正直、人と出会わなければ――あまり意味のないモノだ。

 この先、使う機会があることを願おう。

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