第34話 序盤の雑魚(8)


 これ以上、塩が減ると――


(スライムが俺たちをおそう可能性もあるか……)


 手押し車に塩を積み、運んでいたおかげか、ここまで辿たどり着くのにスライムから攻撃らしい攻撃を受けてはいない。


 知能が高いとは思えないので、本能で危険を察知し、塩をけているのだろう。

 このまま、スライムに残りの塩を全部ぶち込むべきだろうか?


(いや、増殖ぞうしょくや分裂をされると厄介だ……)


 一撃で仕留められる方法はないか?――と此処ここに来る途中、ずっと考えてはいた。

 結局のところ、あの方法が現状での最善ベストだろう。


「ニュ?」


 俺は運搬用の一輪車を止めると、塩の袋の上にミヒルを置いた。

 これからる事を考えた場合、塩のそばにいるのが一番安全だろう。


 少し待っているように告げる。

 〈アイテムホルダー〉にショートスピアを設定した。現在あるのは7本。


 相手が『透明化をしている』ということは『まだ気付かれてはいない』と思っているようだ。ならば、この槍を投擲とうてきして、先制攻撃をするだけ。


 一応、攻撃力と飛距離が上がる〈スローイング〉と力をめて攻撃力を上げる〈チャージ〉の『技能スキル』を習得する。


 確か『一本の矢では簡単に折れてしまうが、三本では折れにくい』みたいな教えがあった。まあ『結束が大事』という話だ。


 それにならい、ショートスピアをロープで縛り、三本束ねて持つ。

 ただのげんかつぎかもしれない。


 ワイヤーと工具があれば、もう少しマシに出来るのだが、すで作業工程フローは完成している。ミヒルには「すぐに終わらせる」と告げて、頭をでた。


 一度、広間の入口まで戻り、深呼吸をする。

 そして〈チャージ〉を使用してからの加速。


 ゴブリンを射抜いた時と同様に槍を放つ。

 レベルが上がりステータスが上昇しているので、子供の身体でも問題ない。


 あの時と同じように、物凄ものすごい勢いで矢が放たれた。

 いや、あの時以上の威力だ。


 俺は急いで広間の入口のまで下がると、再び槍を準備する。

 そして、振り返り様子を見た。


 今までなにも無かったハズの空間に大きな空洞が出現する。

 ミヒルなら、通れる位の大きさだろう。


 また、投げた槍によって、スライムのコアを貫通したらしい。

 透明化が解ける。


 ゆっくりとだが、広間がスライムの体と同じ水色に変化して行く。


「ニャ、ニャニャ⁉」


 細かい説明をしていなかったため、ミヒルがおどろいているようだが、すでに俺は動き出していた。コアの場所を確認したからだ。


 次の行動アクションを起される前に再び、槍を構える。

 今度はたばねずに連投した。


 狙いはコアの破壊ではない。

 しかし、スライムの体を見事に貫通し、コアつらぬくことには成功した。


 最初の一投で相当弱っているのだろうか? 反撃らしい反撃がない。

 しかし、それを確認するよりも早く、俺は動いていた。


 三本の槍を連続して投擲とうてきする二回目の攻撃。

 その目的はスライムの弱点である『コアまでの道を作るための攻撃』だったからだ。


 上手うまい具合に俺が通れるくらいの空洞が出来た。

 後は武器をダガーに持ち替え、その中を走り抜ける。


 〈ワイドウォーク〉の効果で、スライムの粘液につかまることなく、走り抜けることが出来た。〈アクセルターン〉でコアを斬り裂き、ダメ押しで大量の塩をばらばらく。


 後は素早く撤退てったいするだけだ。

 ミヒルを回収して〈アイテムボックス〉へ運搬用の一輪車と塩の袋を仕舞う。


 経験値を得てレベルがアップしたことで、スライムを倒したことは理解していたが、今は一刻も早く、この場を離れる必要があった。


 分断させたとはいえ、スライムの体は神殿の広間全体をおおうほどの巨体だ。

 通常は魔物モンスターを倒せば消失するのだが――


(この場合、そうはいかないだろうな……)


 案の定、スライムの体だった粘液のかたまりがドロリと溶けるように、天井から一度に落ちて来る。


 全速力で広間の入口を通り抜けると同時に、気休めだが塩を捨てる。

 多少は固まって、流れ出てくる速度が遅くなるかもしれない。


 一応、エーテリアの無事も確認する。

 相変わらず、フワフワと半透明の姿でただよい『付かず離れず』といった様子だ。


 ミヒルの方は、状況が分かっていないらしい。

 だが、脇にかかえられたまま、大人しくしている。


(〈氷〉の魔法でも覚えておけば良かったか?)


 そんな事を考えつつ、俺は神殿の出口を目指した。

 ラストスパートを掛け、神殿から飛び出す。


 すると同時に、あらゆる出入り口から、スライムの粘液が勢いよく流れ出た。

 元々、ねばり気があるためか、神殿の周辺以外には散らばらなかったようだ。


 結果、周囲をベトベトにした状態で動きがまる。


「やりましたね♪」


 とエーテリアは喜んでいたが、俺はとても、そんな気分にはなれない。

 ミヒルの方もおどろいて、声が出ない様子だ。


 スライムといえば、ゲームの序盤に出て来る敵として、日本では有名だが――


流石さすがに今回は危なかった……)

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