第32話 序盤の雑魚(6)


 塩の袋だけを〈アイテムボックス〉から取り出す。中身は保管されたままだ。

 液体は難しいようだが、多少の融通ゆうずうくらしい。


(『ミカン』とか、手を使わずにけると便利なんだが……)


 待機時間クールタイムの表示もそうだったが、どうやら俺の世界の単位が使えるようだ。

 一応、一日は同じ24hで表示されている。だが、真に受けない方がいいだろう。


 例えば一日が36hで、それを24hに変換して表示している可能性もある。

 言葉が通じる時点で色々とおかしいので、深くは考えない方が良さそうだ。


 それよりも気になるのは『技能スキル』への影響だ。移動力を上げる『技能スキル』〈ハイウォーク〉には『慣性かんせいの法則』のようなモノが働くようになっていた。


(俺の持つ概念が関係しているのだろうか?)


 異世界から『人間を召喚する』ということは『技能スキル』や『魔法』に対し、新しい概念を加える事になるようだ。


 それにより、世界の在り方も変わってしまうのかもしれない。


(余裕のある時に、色々と試してみた方が良さそうだな……)


 〈アイテムボックス〉に残っている塩を1Kgずつ〈アイテムホルダー〉へ装填そうてんする。手をかざしながら前進。〈アイテムホルダー〉の塩を取り出す。


 歩く事で『技能スキル』〈ハイウォーク〉の効果が発動。

 移動力がプラスされる。プールの距離と同じ位だろうか?


 25m程、自動的に直進するらしい。

 結果、腐食したダガーを投げた時のように勢いよく前方へ塩が発射された。


 進行方向にしか飛ばせないようだ。だが、多少角度を付けることは出来る。

 少し上の方へ向けて発射することで、塩が広がる形でばらかれた。


 弾丸のように射出できるかも、と期待をしたのだが――


(そう上手うまくはいかないらしい……)


 しかし、これなら進んでも問題なさそうだ。

 念のため『副職能サブクラス』を【ウォリアー】へ戻す。


 これでレベルは現在設定できる最大となる。

 また、ミヒルへは塩の入った小袋をくくり付けた。


 これでスライムに飲み込まれても、き出されるだろう。

 手押し車に塩を積み、それを運ぶことで、スライムは俺たちを警戒するハズだ。


 狙い通り、直接攻撃される事はなかった。

 まずは歩きながら、塩を飛ばす練習をする。


 すぐにコツをつかんだ。手を使わずに前方へ塩を飛ばせるようになる。

 通路をふさいでいたスライムの粘液ねんえきが本体から切り離され、ドロリとくずれ落ちる。


(さて、スライム迷宮の攻略だが……)


 別に闇雲やみくもに移動しているワケではない。

 内部の構造は『女神の神殿』で確認している。すでに把握済みだ。


 流石さすがに映像だけでは、透明化しているスライムには気が付けなかったが、コアがある場所も予想はついている。


 神殿の中央にある台座だ。

 恐らく、神殿にとっては『御神体』に当たるモノが置かれていたのだろう。


 持ち出したのか、盗まれたのかは分からないが、綺麗になくなっていた。

 現状、神殿内は何処どこも、スライムの粘液が張りめぐらされている状態だ。


 塩にも限りがあるため、最短ルートで神殿の中央へ行きたい所だが――


(物量で押されても厄介やっかいだな……)


 最初にコアを攻撃すると『窮鼠きゅうそ猫をむ』ではないが、スライムが大量の粘液で反撃している可能性がある。


 俺一人なら問題ないが、今はミヒルもいるため、慎重に行動したい。

 まずは塩を使って、スライムの体を分断させて行くのがいいだろう。


 一度に大量の部位を分断させると、生命の危機を感じて、スライムが暴れ出しそうだ。各部屋の出入り口を回って、塩を掛けて体を分断させる。


 最初は少しずつだ。攻撃や防御に回す粘液をけずってゆく。

 いくつか部屋を回ったが想像していた通り、何処どこもスライムの粘液ねんえきで一杯だった。


(やはり、生き残りはいないか……)


 声を掛けてはみたが、反応はない。

 各部屋には、ミヒルたちのように動けない人々が隔離されていたのだろうか?


 人を寝かせていたような形跡もあったが、そのほとんどが溶かされている。

 動けない病人などはスライムにとって、都合のいいご馳走ちそうだったのだろう。


 一通り部屋を回った。これで体積の三分の一は分断できただろうか?

 神殿の構造は把握しているので、迷うことはない。


 基本的には左右対称の造りとなっている。

 もしかすると換気口や排水溝など、何処どこかでつながっているのかもしれない。


 思わぬ反撃があると困る。

 だが、あの速度スピードでは、すぐに体を集めることは出来ないだろう。


 今、一番気を付けるのは上からの落下による攻撃だ。

 シンプルだが、もっと驚異きょういといえる。


 今度は中央の部屋を周回する形で移動を開始した。

 塩をきながら回れば、更にスライムの体積は半分になるハズだ。


 ガラス瓶を溶かす事は出来ないのか、空の回復薬ポーションいくつか発見した。

 俺は少し考えた後、スライムの粘液を回収することを思いつく。


 本体から切り離されたスライムの粘液。

 塩の影響を受けていない部位を空瓶からびんへ移し〈アイテムボックス〉に収納する。


 塩が減った分、空間スペースが開いたので丁度いい。


なにかの役に立つかもしれない……)

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