第31話 序盤の雑魚(5)


 周囲から魔物モンスターの気配はなくなった。

 俺は探索を開始する――とはいっても、


(順番に倉庫を回るだけだが……)


 その結果、運良く残されていた目的のモノを見付ける。

 塩だ。白くはないので、質は良くない。


 ただ、生きる上では必需品だ。

 大きな袋に入った物が大量に残っている。


 持っていかなかった――ということは、


(この地域の人たちは海塩よりも岩塩の方を好むのだろうか?)


 山積みにされた袋の隣側は、ぽっかりと空いた空間スペースになっている。

 わずかに白い塩のつぶが落ちていた。


 どうやら、質のいい物だけを持っていったようだ。

 俺は〈アイテムボックス〉を使用して、収納する。


(効果があるといいが……)


 別にナメクジのように『溶かそう』というワケではない。

 ただ、相手は生き物だ。大量の塩をぶち込めば、生き物はどうなるのか?


 想像にかたくない。人間なら60Kgの場合、約180gで致死量となる。

 1Kgに対して、約3gの計算だ。


 醤油なら1リットルといった所だろうか?

 自殺に醤油を使うこともあるようだ。


 海が近いという事で物流の拠点となる交易都市には『まだ倉庫に保管されているのでは?』と考えていたが、想定通りだった。


 砂漠が近いため、乾燥した空気が流れ込む。

 海水から塩を作りやすい環境なのだろう。思っていたよりも大量に残っている。


 問題は俺の〈アイテムボックス〉には『それほど多くの塩は入らない』という点だ。個人の魔力量に関係するらしい。


 念のため、運搬用に置いてあった手押し車を拝借はいしゃくする。〈アイテムボックス〉へ入りきらなかった分を乗せて、神殿まで移動することにした。


 どうやら、農業できたえた運搬用の一輪車さばきを見せる時が来たようだ。

 準備を終えた俺は、


「飛ばすぞ!」


 しっかりつかまっていろよ!――とミヒルへ告げる


「ワカ、タ、ニャ♪」


 とミヒル。嬉々ききとして俺の背中にしがみ付く。

 振り落としたりしないか心配だったが、


「ニャ、ニャ~~~ッ♪」


 どうやら、楽しんでいるようだ。

 彼女にとっては楽しい乗り物アトラクションらしい。


 爪を立て、両手でしっかりとつかまっている。

 倉庫での戦闘をて、レベルが上がったのだろう。


 成長しているのかもしれない。少し重くなっている気がした。

 スライムとの戦いが終わったら――


(また服を探すか……)


 街中まちなかの道は整備されている。当然、人がいなければ障害物もない。

 多少ガタガタするが、倉庫群から神殿までは、あっという間だった。


 途中、デザートウルフを何匹なんびきいてしまったが――


(まあ、良しとしよう……)


 経験値も手に入った。

 むしろ、今度からき殺した方が早いかもしれない。


(いや、街中のようにたいらな道ばかりとも限らないか……)


 一応、神殿の入口に塩をいてみる。

 案の定、透明な姿になっていたスライム。


 その身体の一部が入口をふさいでいた。

 塩を掛けてしばらく待つと、ドロリと溶けたような動きで地面へと落ちる。


 どうやら効くらしい。体内への塩の吸収をけるため『体を切り離した』という所だろうか? 浸透圧によって、水分が体外へと出た形跡もある。


「スゴ、イ、ニャ♪」


 とはミヒルで、俺の肩につかまるような姿勢でのぞき込む。

 怖いモノ見たさ――というヤツだろうか? 好奇心はあるようだ。


 取りえず、上の方に向かって塩をくと、スライムの気配が遠ざかった。

 逃げたというよりも、消失した感じがする。


 知能が高いワケではないので、生理的な機能のようだ。

 塩分を必要以上に取り込まないための防衛反応らしい。


 地面に落ちて、広がった粘液は少しかたくなっているようだ。

 靴でむと歩く事が可能になっていた。


 これは〈ワイドウォーク〉の効果だろう。

 水を掛ければ、また復活しそうだ。塩で完全に倒すのは無理かもしれない。


 一時的に機能を麻痺させ、弱体化させる方向で考えよう。

 ある程度、弱らせてからコアを見付け、叩いた方がいいだろう。


 ミヒルへ待っているように伝えたのだが、


「イヤ、ニャ、イク、ニャ……オイテ、イカナイ、デ」


 こんな感じで、着いて行くと言って聞かない。

 まだ、一人が怖いのだろう。


 しばらくは、寝食を一緒にするほかなさそうだ。

 俺は死んでも復活できるらしいが、ミヒルは違う。


 気休めだが、スライムに溶かされないように外套フードかぶせる。

 まるで『てるてる坊主』だ。


(次があるなら、耳の形も考慮した方がいいかもな……)


 耳がふさがってしまい、聞き取りにくそうになっている。

 その一方で『自分は溶かされる心配がない』と考えているのだろうか?


 エーテリアは口元を押さえ、微笑ほほえんでいる。

 他人事ひとごとだと思っているらしい。


(まあいい……)


 俺は内心で溜息をくと、外套フードかぶった。

 髪の毛を溶かされるのは勘弁かんべんだ。


(取りえず、あれを試してみるか……)

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