第30話 序盤の雑魚(4)


 さて、本来なら一晩待って『女神の神殿』へ戻ることが可能な状態で戦いをいどむべきなのだろうが――


(ミヒルがいる……)


 彼女を『女神の神殿』へ連れて行くことは出来ない。

 現在の出口となっている街の広場。


 そこで待っているように指示したとしても、ミヒルは家族を失ったばかりで、精神的にも不安定だ。


 住宅街にいる魔物モンスターはすべて狩ったつもりだが『取りこぼしがない』とは限らない。

 子供はなにをするのか分からないし、言いつけを守れるのかも疑問だ。


 一人にして置くのは不安がある。

 俺はスライムとの決着に彼女を連れて行くことにした。


(状況によっては、スライムを倒すのはあきらめよう……)


 まだ日がしずむには、十分な時間があった。移動速度が上がっているため、思ったよりも早く、街を回ることが出来たのは大きい。


 ちょっとした陸上選手並みだ。常にトップスピードというワケではないが、時速にすると30Km以上は出ている。


 壁や屋根の上も走れるので、障害物は皆無といっていい。その速度スピードり飛ばされるのだから、魔物モンスターとしてもまったモノではないだろう。


(さて、次の目的地だが……)


 区画整理され、他の建物よりも大きく、頑丈がんじょうそうな造りの建物が並んでいるのは目に付いていた。港も近く、大きな街だ。


 商人たちが物資を保管しておくための倉庫街だろう。

 俺たちはスライム退治に必要なモノを手に入れるため、その場所を目指す。


 始めて行く区画エリアなので、魔物モンスターひそんでいる可能性は高い。

 今のところ、空を飛ぶ魔物モンスターには遭遇そうぐうしていなかった。


 俺はミヒルを背負うと壁を駆け上り、屋根伝いに移動する。

 同時に武器はショートスピアに持ち替えた。


 門番の事務所兼待機所だったのだろう。

 何本なんぼんか残されていたモノを手に入れたので、性能の差を確認しておきたい。


 また戦闘にもれてきたため『副職能サブクラス』を【ウォリアー】から【ナイト】へ変更する。多少レベルは下がってしまうが、経験値を少しでも多く取得しておきたい。


 倉庫街まで来ると魔物モンスターの気配を感じた。

 警戒しながら進むと案の定、魔物モンスターの集団を発見する。


 デザートゴブリンはデザートウルフを使役しているようだ。

 どうやら乗り物代わりらしい。


(ゴブリンライダーといった所か……)


 警戒している――いや、おびえているようだ。魔物モンスターたちの様子から、隠れていただけで『この場所にはめぼしいモノはない』と判断する。


 武器や食糧が残されていたのなら、あんなにせ細ってはいないハズだ。

 現状、ゴブリンたちがスライムの食糧と言っても過言ではない。


 街から出られないようにしたが、放って置けば餓死がししそうだ。

 いや、そうなる前に――


(まずは共喰ともぐいか……)


 その場合、強い個体だけが生き残りそうだ。

 恐らく、仕組んだ犯人の狙いでもあるのだろう。


 態々わざわざ、大きな街を選んだのは、巨大な牢獄を作りたかったのかもしれない。

 本来なら真っ先に壊しておくべき門。


 それが無事なのも『閉じ込める事が目的だ』とすれば納得もいく。ミヒルは嫌な事を思い出したのか、身体をふるわせ――ギュッ!――と俺の服をつかむ手に力を込める。


 今後のことを考えるのなら――


(ここは荒治療と行くか……)


 俺はミヒルにしっかりとつかまっているよう指示を出すと、魔物モンスターの集団を真上から襲撃した。


 残念なことにエイミングは得意ではない。

 折角のショートスピアだったが、棒術のような使い方になってしまった。


 棍棒の方が良かったのかもしれないが、最初はこんなモノだろう。瀕死の状態のゴブリンに対し、ミヒルへとどめを刺すか確認したのだが、首を横に振られた。


 まだ恐怖がまさっているのだろう。まあ、今回は戦闘にらすためだ。

 『かたきちたい』とか『にくい』という感情は育っていないらしい。


 一緒に戦えるようになるのは、もう少し先のようだ。

 俺は槍の練習を兼ねて、瀕死ひんしのゴブリンやウフルを突き刺す。


(やはり狙った箇所かしょくのはむずかしいか……)


 動けない相手に対し、これでは主力の武器として使えない。

 もう少し、練習が必要なようだ。


 また、頭蓋骨ずがいこつなど、骨のある部分はすべってつらぬけない。

 槍に重量や攻撃力が足りないのが原因だろう。


 だが、それ以上に俺が下手へたなようだ。

 余計な箇所に力が入っているのかもしれない。


 次からは力を抜いて、目やのど、腹を狙うのが良さそうだ。


「ニゲ、タ、ニャ!」


 とミヒル。俺の髪をつかむ。どうやら、生き残りがいて逃げ出したらしい。

 ゴブリンが走って逃げていく姿をミヒルが指差す。


 俺の移動速度スピードをもってすれば、追いつくのは簡単だが――


「よく教えてくれた」


 俺はそう告げると、槍を投擲とうてきする。

 槍投げの正しい姿勢フォームは知らないが、野球と一緒だろう。


 軽く助走をつけ、やや大振りに外野からの送球。

 バビュンッ!――中継されていたのならレーザービームと呼ばれそうな勢いだ。


 移動力が飛距離に影響を与えたらしい。

 そのまま真っ直ぐに飛び、逃げるゴブリンの腹に大きな穴をけた。


 ゴブリンは絶命したようで、その場に倒れ込む。

 練習のつもりで投げたのだが、自分でもおどろきの威力だ。


「ス、ゴイ、ニャ♪ ゴイ、ニャ♪」


 ミヒルが興奮する。俺としては『当たったのは偶然』で『投げたショートスピアは回収』しなければならない。


(外していたら格好がつかなかったな……)


 どうやら、投擲とうてきの方も練習した方が良さそうだ。

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