第26話 無人の街(2)


 過去を思い出した所為せいで、少しイラッとしてしまったようだ。

 そのため、気が付いた時にはデザートゴブリンとデザートウルフの集団をあっさりと片付けてしまっていた。


 エーテリアのことだ。後で『流石さすがはユイトさんの社畜モードです♪』などと言って、喜びそうである。


(そんなモードは搭載とうさいしたくないのだが……)


 メッセージ画面も表示されていた。戦利ドロップ品は自動回収となる。

 どうやら、短剣ダガーなどを入手したらしい。


 ステータス画面では確認できるのだが――


(現物が何処どこにあるのか分からないんだよな……)


 画面を操作する事で『実在する道具アイテム』として取り出すことが可能となる。

 しかし、それが余計に気持ち悪かった。


 この仕組みが一般人と冒険者の差なのだろう。

 一般人が魔物モンスターを倒しても『実在する道具アイテム』として取り出すことは出来ない。


 現状の『人間族リーン』にとって、レベルが上がる以外の利点メリットはなさそうだ。

 【根源】の消失は俺が考えていた以上に深刻なのかもしれない。


 取りえず【バランサー】で習得した『技能スキル』〈アイテムホルダー〉を使用する。容量を考えるのなら〈アイテムボックス〉の魔法なのだろう。


 だが〈アイテムホルダー〉の場合、格納できる容量は少ないが、あらかじめ設定しておく事で、瞬時に道具アイテムの出し入れが可能となる。


 主要となる武器や、よく使う回復薬は〈アイテムホルダー〉に設定する方が便利だ。なんでもかんでも、お腹のポケットに仕舞しまっていると肝心な時、役に立たない。


 映画でのお約束なので、日本人なら誰でも知っている事だろう。

 よく使う物は分けておく。使ったら元の位置に戻す。


 主婦や社会人なら常識である。


(その方が、間違いが少なくて済む……)


 そう言えば、会社で消毒用のエタノールを日当たりのいい窓際まどぎわに置いたり、通路に椅子を放置していたりする社員がいた。


 あれは故意こいにやっていたのだろうか? 危ないので、俺が気が付いた時は元の位置に戻していたが――


(相当、んでいたようだ……)


 今更ながら『会社をめて良かった』と考える。その一方で――好都合なことに――子供をつかまえていたデザートゴブリンはすでに逃げ出していた。


 子供を人質にされると『厄介やっかいだ』と思っていたのだが、ミノタウロス戦の時といい、ゴブリンは余程、仲間を見捨てて逃げるのが好きなようだ。


 そして、お決まりのパターンのように、


「ゴゲゲ、ギャゴッ!」


 と『なにか』に捕まる。

 『なにか』と表現したのは、俺には見えなかったからだ。


 ゴブリンが空中でおぼれたように藻掻もがくと、皮膚が溶けだし、肉がき出しになり、骨となって、やがて消えた。


(気持ちの悪いモノを見てしまった……)


 最初は念動力サイコキネシス的な能力かとも思ったのだが、違うらしい。

 恐らく、スライムがいるのだろう。


 透明化して、待ちせしていたようだ。

 動きは素早くない。だが『神殿の方角にいる』という事は――


(やはり生き残りは、この子だけか……)


 この手の種類タイプ魔物モンスターは動き回るより、待ち構えている方が――捕食には――効率がいい。それが態々わざわざ、外に出てきた。


 つまりは神殿の中には、もうえさとなる存在がいないのだろう。

 すでに相当、大きくなっているようだ。


(分裂される前に、ここで倒すべきか……)


 俺も黙って、ゴブリンが溶かされるのを見ていたワケではない。

 解放された子供の無事を確認していた。


 獣人種アニマの女の子ようだが、衣服も身体からだもボロボロだ。

 右目はつぶされ、顔半分はただれている。


 身体は傷だらけで、あちこちから血が出ていた。

 呼吸も弱く、唇はカサカサで脱水症状を起こしているようだ。


 推測できる事はいくつかあるが――子供や老人、病気の人間は――神殿に隠れていた可能性が高い。


 俺は姿を消しているエーテリアに声を掛けると、子供の治療を頼んだ。

 スライムの相手をしなくてはならない。


 あの様子では嗅覚きゅうかくすぐれ、素早い動きのデザートウルフは難しくても、ゴブリンなら何匹なんびきか捕食していそうだ。


 それだけ、コアとなる『魔結晶』も大きいハズである。

 ちょっとやそっとの攻撃では倒せそうにない。


 勿論もちろん、街を捨てて逃げる選択肢もある。

 場所は大通りへと続く、開けた道だ。


 脇道にれれば、入り組んだ細い路地もあるため、身を隠すには都合がいい。

 子供一人をかかえて逃げるのは、そうむずかしくはない。だが――


(ここで倒して置かないと、後で更に強くなって、出てくるパターンだよな……)


 このままスライムを放置した場合、街がスライムだらけになるのは、容易に想像できた。街が綺麗なままの理由も、半分はスライムが原因なのだろう。


 スライムに捕食されたのであれば、死体が残ることはない。

 人々は動けない連中をおとりにして、街を抜け出した。


(そんな所だろうか?)


 そして、空っぽになった街に魔物モンスターが入り込んだ。

 いや、誰かが先導しなければ、そうはならない。


 パニックに乗じて『街の人々を操った人物がいる』と見た方がいいだろう。

 少なくとも『争った形跡がない』ということは、その可能性が高い。


 色々と証拠を探すにしても、まずは目の前のスライムを倒す必要がある。

 神殿の中に居た人間をすべてらったのなら、次の獲物は魔物モンスターだろうか?


 『技能スキル』を使用し、魔物モンスターの気配を探索してみたが、周囲にスライム以外の気配は感じられなかった。


 皮肉な事に巨大スライムの出現が、街に入り込んだ魔物モンスターを追い出す結果になったようだ。


(さて、問題はどうやって倒すかだが……)

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