第24話 始まりの街(2)


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  女神の神殿

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 【バランサー】で習得可能な『技能スキル』〈ワープ〉を使用して、俺たちはすぐさま洞窟どうくつ、もとい『女神の神殿』へと戻ってきた。


(初めて使ったが、上手くいって良かった……)


 〈ワープ〉は一度行ったことのある街や迷宮ダンジョンなどに転移することの出来る『技能スキル』だ。同様の効果を持つ魔法には〈テレポート〉がある。


 『女神の神殿』にはエーテリアか、その眷属けんぞくでなければ、入ることは出来ない。

 また、気が付いたこともある。


 どうやら『出る』のは自由だが、ステータス画面で確認する限り『女神の神殿』へ『入る』には24hの待機時間クールタイムが必要なようだ。


 つまりは1日に1回しか、ここへ戻ってくる事は出来ない。


(次からは、もう少し考えてから使わないと……)


「大丈夫ですか?」


 とエーテリア。お互いに怪我けがはなかったようだ。

 彼女は返り血で汚れた俺の服を浄化してくれた。


 魔物モンスターが死んだ場合、魔素エーテルとなって消えるのかと思っていたが――


(必ずしも、そうじゃないのか……)


 恐らくは『人に強く認識される』などの条件を満たしたモノが、物質となって残る仕組みなのだろう。


 だから戦利ドロップ品として、手に『入る場合』と『入らない場合』がある。


(いや、今はそれよりも……)


 俺は状況を整理することにした。

 少なくとも事態は想定より、ずっと悪いようだ。


 エーテリアも困った表情をしている。

 ただ、この場所にいる限りは、外の世界の時間が動き出すことはないらしい。


 俺は『リディエス』の街に対して、調査することにした。

 一度、行った場所なので〈クリエイト:地図〉が使用可能となる。


 簡単な周辺地図が表示できるようになっていた。

 ステータス画面とは違い、こちらは使用した本人以外も見ることが可能らしい。


(まずは地形か……)


 北東方面には山がつらなり、南東方面は森におおわれている。

 北西には海があるようで、南西方面へ進むと砂漠が広がっていた。


 地形から察するに――砂漠への出入り口――交易都市といった所だろうか?

 海が近いため、港から品物が集まる。貿易もさかんだったようだ。


 また、めずらしい品物などを求め、商人たちは砂漠を渡る。

 そのための『準備をする場所』としても重宝されていたのだろう。


 当然、山や森からも陸路を使って人々がおとずれたハズだ。

 あの大通りの広さからいって、以前は『人の往来が盛んだった』と見ていい。


 俺はエーテリアに頼み、街の詳細な映像を出してくれるようにお願いする。

 神様なのだから、地上の様子くらい、のぞき見ることは出来るだろう。


 すると彼女は黙って瞳を閉じ、唇を突き出してきた。

 どうやら、対価を要求しているらしい。


 照れもあったが、俺は彼女のほほへキスをする

 正直、今は魔物モンスターを倒した後だ。気分が高揚こうようしていた。


 それに外見は子供とはいえ、十代前半の姿でもある。

 下手に彼女へ口付けをした場合、歯止めが利かなくなる恐れがあった。


「今は、これで勘弁してくれ」


 そう言って、俺があやまると、


「仕方がありませんね♡」


 彼女は俺の左腕に自分の腕をからめ、き着いてきた。

 柔らかな胸の感触が布越しに伝わる。


「これで我慢がまんしてあげます♪」


 とエーテリア。可愛いので、俺が我慢できそうにない。

 この手の感情は、自分では制御コントロールできないようだ。


 意識をらすためにも、俺は彼女に地上の様子を見せてくれるように催促さいそくする。

 俺に抱き付いたことで、彼女の中でも不安な気持ちに整理がついたらしい。


 えいっ☆――とエーテリア。

 指を動かすと、なにもない空間に複数の映像が表示された。


 俺はその映像を確認する。

 軽く触れると動いたので、俺でも簡単な操作が出来るらしい。


(まずは周囲の状況からか……)


 街をおおう外壁は立派だが、門は開け放たれていた。

 そこには衛兵どころか、人の姿はない。


 やはり、無人のようだ。

 街の中はすっかり、魔物モンスター占拠せんきょされてしまっている。


 同時に、気になっていた事が確信へと変わった。


(外壁や街の中は綺麗なままなのか……)


 つまり、これは『戦いにはならなかった』と考えるべきだろう。

 無血むけつ開城かじょうという事になる。


 普通に考えるのなら――街の人たちがすでに逃げ出した後だ――となるのだろうが『突如として消えた』という可能性も捨てきれない。


(事情を知っている人間が見付かるといいのだが……)


 いくつか目星を付けながら、街の中をのぞく。

 そして、魔物モンスターが集まっている場所を見付けた。


 街で一番大きな神殿のようだ。


(これはアレだな……)


 人が残っていて、魔物モンスターの襲撃を受けているのだろう。

 細かく見てみると、神殿の中は魔物モンスターだらけ――


 生存者だった人たちはすでわれてしまったようだ。

 神殿内のあちこちには血痕けっこんが見て取れる。


 死体の破片や骨の様子から、子供と老人ばかりが目立つ。


(置いて行かれた連中か……)


 足手あしでまといなので、街の連中に置いて行かれたのか、役に立たない者たちを残して、人々が連れ去られてしまったのかは分からない。


 凄惨せいさんな光景だが、俺は神殿内の全てに目を通す。

 生存者はゼロ。


「待ってください」


 とエーテリア。神殿の外の映像を俺に見せる。そこにはデザートウルフのれにおそわれ、生きたまま喰われている老人と、逃げ出している子供の姿があった。


 追い掛けているのはゴブリン――いや、亜種のデザートゴブリンだろう。

 奴らは、すぐには人間を殺さない。


 暴力振るって遊び、飽きたら飼いならしているデザートウルフのえさにするのだろう。再び俺が転移して『街の広場へ戻った』としよう。


 『技能スキル』で強化された俺の足なら間に合うハズだ。強制ではないのだろうが、エーテリアの表情からも、なにを言わんとしているのかは見て取れる。


(これは、助けに行かないといけないヤツだ……)


 戦闘を極力けるために【バランサー】の『職能クラス』を選んだのだが、仕方がない。

 俺は広場からの最短ルートを考え、作業工程フローを構築する。

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