第23話 始まりの街(1)


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  始まりの街『リディエス』

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 俺は『街の中央広場』とおぼしき場所に転移する。

 エーテリアの予想では、人通りの多い『にぎやかな場所』だったのだろう。


 だが、転移した途端とたん、俺は魔物モンスターおそわれてしまった。

 景色を楽しんでいるひまも『異世界へ来た!』と感動する暇もないらしい。


 瞬時に感じたけものしゅう田舎いなからしでの経験と感知系の『技能スキル』〈センサー:魔物〉を習得していなければ危なかっただろう。


 【ウォリアー】の『職能クラス』で習得が可能な〈オートガード〉の『技能スキル』も役に立ったようだ。自動で回避行動を手助けしてくれる。


 俺はすぐさま反応し、頭部をねらった牙による攻撃をけた。だが――


(ちょっと待て、下がり過ぎだ!)


 一瞬で50mは移動しただろうか?

 移動力を上げる『技能スキル』〈ハイウォーク〉を最大レベルまで習得した結果らしい。


 気が付くと広場から離れ、街の大通りへと移動していた。

 肝心かんじん魔物モンスターなにが起きたのか、理解していないようだ。


 突如として『俺が消えた』という認識なのかもしれない。


「エーテリア、無事か⁉」


 声を上げた俺に対して――大丈夫です――と頭の中に声がひびいた。

 不思議な感覚だが、どうやら問題ないらしい。


 俺はその言葉を信じて、状況判断につとめる。

 魔物モンスターの数は三匹。狼型なので『グレーウルフ』だろうか?


 いや、オレンジ色の毛並み。砂漠にむ『デザートウルフ』のようだ。保護色になっているため、砂漠で遭遇そうぐうすると厄介やっかいだが、街の中ではかえって目立つ。


 せていて、毛並みの色艶いろつやは良くない。

 しかし、その大きな口なら、人間の子供など一口だろう。


 ハイエナの場合、あごの力が450Kgになる個体も存在するという。

 そこまではないにしても、今の状態の俺がまれれば、一溜ひとたまりもない。


 武器が欲しい所だが、そうそう都合よく落ちてはいなかった。

 悲鳴の一つも上がっていない事から、周囲に人はいないらしい。


 嗅覚きゅうかくするどいようで、相手はすぐに俺の位置が分かったようだ。

 真っ直ぐに、こちらへと走り、向かってきた。


 本来なら一目散に逃げ出して、何処どこかへ隠れるべきなのだろうが――


ためしてみるか……)


 先程は無意識だったため、本気で移動してしまった。

 今回は微調整をして――


 次の瞬間、俺はデザートウルフの側面へ回り込む形で移動していた。

 同時に脇腹わきばらりをお見舞いする。


 相手が軽すぎる――まるで風船をっているような――みょうな感覚。

 キャインッ!――と悲鳴を上げ、デザートウルフは地面を転がる。


 そして、広場の中央にある――水の出ていない――噴水ふんすいへとぶつかった。

 グシャッ!――と鈍い音がしたのは、頭を打ったからだろうか?


 そのまま、泡を吹いて絶命した。経験値が手に入る。

 普通の人間なら戸惑う場面シーンだろうか? でも、俺は同情しない。


 こいつ等は人をおそって食べる魔物モンスターだ。

 決して『可愛そう』などと思ってはいけない。


 むしろ、家畜かちくおそう農家の敵である。

 また、害虫や感染症を運ぶ可能性も高い。


(なら、容赦ようしゃする必要はないよな……)


 俺は素早く、魔物モンスターたちの反対側へ回り込むと、同様にり上げる。

 ワオーン!――と今度はデザートウルフが上空にった。


 10mは浮いただろうか? 落下の衝撃で動けなくなったようだ。


(なるほどな……)


 少しだけ分かった事がある。まず、俺の攻撃力パワー敏捷性スピードが上がったワケでない。

 どうやら移動力が上手うまい具合に、攻撃へ上乗うわのせされているらしい。


 りによるダメージではなく、相手は噴水や地面にぶつかった時のダメージだけを受けているようだ。


(これはもう少し、練習する必要がありそうだな……)


 移動力を攻撃に変換――そう言えば、そんな『技能スキル』があったことを思い出す。

 デザートウルフがきょかれている間に、俺は移動して距離を取る。


 SPスキルポイントを消費。『技能スキル』を新たに習得。

 一方で残り一匹になったデザートウルフ。


 なにを考えているのか、俺がり上げ、動けなくなっているデザートウルフの肉をらっているようだった。戦闘中に余裕だな――


(しかも、仲間の肉を食べるとは……)


 そんな風に思っていると、口の周りに血をしたたらせたデザートウルフが、俺の方へと向き直った。どうやら、凶暴化パワーアップしたらしい。


 確か、ミノタウロスの時もそうだった。

 俺はゴブリンを喰らっていたことを思い出す。


(なるほど、正確には魔物モンスターの中にある『魔結晶』を取り込んでいるのか……)


 魔物モンスターよどんだ魔力から生み出される。

 その多くは体内に魔力の結晶である魔結晶を持っているらしい。


 冒険者などは『魔結晶』を売り、生計を立てる事もあるそうだ。

 まあ、今は手に入れた所で、売る場所がない。


 デザートウルフが俺に突っ込んできたので、俺も全力で移動する。


「遅い!」


 アドレナリンが出ていたのだろう。つい声に出してしまった。一度、横方向へ移動してから、迫ってきていたデザートウルフの側面へ再度、直進する。


 そして、習得したばかりの『技能スキル』〈アクセルターン〉を使用した。

 武器の攻撃力に、移動した距離を威力として乗せる技だ。


 本来は斧などの武器を使う際に、発動させる技なのだろう。

 バイクのテクニックでも、同名のモノがあったハズだ。


 もしかすると、色々と応用が利く『技能スキル』なのかもしれない。

 デザートウルフのどうを狙ったのだが、真っ二つになってしまった。


 返り血を浴びてしまう。どうやら俺は『殺人キック』を体得したらしい。

 次からは、使い所に注意した方が良さそうだ。


 しかし、油断は出来ない。魔物モンスターの気配は、まだ街のいたる場所にある。


(多くないか?)


 このまま此処ここに居ても、集団に囲まれるだけだろう。

 まったく、ろくなことにならない――と思いつつ、


「一旦、戻るぞ!」


 俺は声を上げ、エーテリアへと指示を出した。

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