第22話 九つの根源(2)


 覚醒と同時に身体からだに異変が起こった。

 なにやら成長した気がする。


 不思議なことに脱ぎ捨ててあった服もサイズが変わったようだ。

 おどろくことに乾いている。


 恐らくは【根源】を覚醒させると、身体も合わせて成長するらしい。

 その際、身に着けている衣服が小さいままだと大変なことになる。


 周囲の認識や辻褄つじつまを合わせるためにも、俺に関係のあるモノが変化するようだ。

 地球でもエーテリアの姿に対し、誰も不審に思わなかった点を考慮こうりょすると――


(俺の急な成長に対して、誰もおかしいとは思わないのだろう……)


 水面みなもうつる俺の姿を確認した。

 身長から推測するに、2年ほど成長しているらしい。


 エーテリアの成長も連動しているようだが、男子と女子の成長には差がある。

 俺の持つ知識では、参考にならなかった。


 より女性らしい姿に成長していたため、目のり場に困ってしまう。俺の視線には気が付いているハズだが――フフフッ――と笑っただけで、エーテリアは、


「まずは『〈識〉の精霊』と契約してください」


 と俺にお願いする。彼女は『精霊族ソリス』とおぼしき存在を召喚した。

 ただの白いけむりのように見える。


(強く念じればいいんだったな……)


 正直、見えないモノを信じるのは難しい。だから、俺はエーテリアを信じた。

 この世界では、魔法を使用するために精霊との契約が必要となる。


 〈火〉の魔法を使うのなら『〈火〉の精霊』と――

 〈水〉の魔法を使うのなら『〈水〉の精霊』と――


 それぞれ『契約を行う必要がある』というワケだ。

 〈識〉の魔法だが、この場合〈ステータス〉の魔法を習得する事が目的となる。


 他にも〈クリエイト:地図〉や〈ライブラリー:魔物〉などの魔法が存在した。

 どれも冒険の役に立つ魔法なので、後で習得しなければならない。しかし――


「いや、服を着るのが先だ」


 だまされないぞ!――と俺は心の中でつぶやく。

 エーテリアを手で制した後、俺は乾いた服を着る。


(そう言えば、髪も乾いているな……)


 もしかすると、怪我けがをしていても回復するのかもしれない。

 俺は意識を集中して『〈識〉の精霊』と契約した。


 自分の中で、なにかとつながる感覚。

 出来る事が増えたのが分かる。


 これで自分の状態ステータスを画面上の数値で確認できるようになったハズだ。

 俺は【バランサー(トラベラー)】を選択する。


 本来は神殿など、特定の場所でしか操作できないようだが〈ステータス〉という概念を持っている俺は、条件がそろった事により『魔法』という形で習得できるらしい。


 なにもない場所にタブレットのような画面を出現させ、数値を操作する感覚だ。

 まだれていないのか意識を集中する必要がある。


 スマホのようにも使用できそうだが――


(画面が小さい分、見難みにくい……)


 また、操作する条件には目視が必要なようだ。『眠っている時に、無意識に操作してしまう』『余所見よそみをして間違って操作してしまう』という事故は減らせそうだ。


 〈ステータス〉魔法のレベルを上げれば、熟練度や得意な属性など、詳しい情報も分かるようになるのかもしれない。


 現状では、そこまでの情報は必要なさそうだ。

 それに、他人からは見えないらしい。


 一般の『人間族リーン』も精霊と契約をする事で、使用できるだろう。

 しかし、周知されていない可能性がある。


 普通は神殿や冒険者ギルドで設定をするモノらしい。

 『職能クラス』に関係なく習得できる共通コモン魔法のようだが――


(悪用されそうなので、あまり広めない方が、いいかもしれないな……)


 まあ、集団パーティーで一人使えればいい魔法でもある。

 難しいことは後で考えるとして――


(それよりも、着目するのはレベルの方だ……)


 経験値と道具アイテムが手に入っていた。

 どうやら、地球でゴブリンとミノタウロスを倒した時の報酬らしい。


 若干多い気もするが、レベルが低い時に倒したので、特典ボーナスが付いたようだ。

 社畜時代の経験から考えると、喜ぶべき所なのだろう。


 だが、これは逆に『レベルが上がってから弱い敵を倒しても、手に入る経験値が少なくなる』ことを意味する。


(ゴブリンはかく、ミノタウロスって実は強敵だったのか?)


 一度にレベルが10まで上がっていたが丁度いい。『副職能サブクラス』を設定できるようになっていたので、再びエーテリアに【根源】の覚醒をお願いする。


 『武技の根源』を覚醒し【ウォリアー】の『職能クラス』を取得――

 また『正義の根源』を覚醒し【ナイト】の『職能クラス』を取得――


(さて、どちらを設定するかだが……)


 ここは攻撃力の【ウォリアー】だろう。

 武器のあつかいを得意とする『職能クラス』だ。


(まあ、武器を調達する必要はあるが……)


 この場合【ナイト】は防御が得意となる。

 馬などがあれば、騎乗する手もあるのだが、今はむずかしそうだ。


(武器と一緒で防具もないしな……)


 俺はSPスキルポイントを半分ほど残し、基本となる『技能スキル』を習得した。後は現地に行ってから、状況に合わせて必要な『技能スキル』を習得した方がいいだろう。


 エーテリアの話では『女神の神殿』との行き来は、彼女とその眷属なら可能であるようだ。外の世界とは時間の流れも違うらしい。


 また、俺が死んだ際は最初に落ちた湖――いや、泉――に転送され、子供の姿で復活するらしい。


 確かに、他は青く澄んでいるのだが、そこだけ光輝いて見える。


「死ぬ事はないので、安心してください♪」


 とエーテリア。彼女に悪意は一切ないのだろうが――


(それって『永遠に戦わされる』ってことじゃないのか?)

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