第21話 九つの根源(1)


 この世界には【剣と魔法のRPG】のようなルールが適応されている。

 まあ『お約束』というヤツだ。そこから推測できることは――


 「『魔物モンスター討伐』と『迷宮ダンジョン攻略』が該当するんじゃないのか?」


 それが俺の結論だった。こういった場合『特定の道具アイテムを手に入れる』や『〇〇回逃げる』など『決まり事』があるハズだ。


「なるほど~♪」


 とエーテリア。俺の台詞セリフに納得したらしい。

 もう少しうたがっても、いい気がするのだが――


(可愛いから『良し』としよう……)


 俺も大分、彼女に毒されているようだ。エーテリアは『天空の女神』ということだが、そういった存在は次第に細分化されていく。


 『最初に光と闇があって、やがて天と地が生まれた』みたいな所だろう。

 太陽と月の神がいて、昼と夜があり、雲と風があって、雨や雷も発生する。


 人々は近しい神を信仰するモノだ。彼女の存在は時間がつと共に風化し、流れをむ形で『別の女神へと信仰が移った』と考えられる。


 世界のことわりに対して、細部まで詳しくなくても仕方のない事だ。

 会社で例えるのなら『OB』――いや『会長』のような存在だろうか?


 経営にはあまり口をはさまない主義のようだ。

 そもそも『社長』だからといって、会社の全てを把握しているワケではない。


 組織が大きくなれば、尚更なおさらである。経営者ほど会社の数字だけを追い、やがて利益のみを追求するようになってしまう。


 企業の目的としては間違っていないが、会社で働く人間のことを全く考えていない場合は困りモノだ。社員が辞めても平気な顔をしている管理職は多い。


 更に株価が低迷しているのに、高額な報酬を受け取る社外取締役などの天下り役員。まあ、天下り役員に関しては物言う株主アクティビストに任せるとして、


「予定通り『調和の根源』を覚醒させてくれ」


 と俺はお願いする。戦闘向きではないため『世界を救う』という目的からは対極に位置するのかもしれない。


 だが、今の俺には一番合っているだろう。

 『人間族リーン』の持つ【根源】は九つ――


 『武技の根源』と『正義の根源』。

 『秩序の根源』と『混沌の根源』。


 『力の根源』と『知恵の根源』。

 『創造の根源』と『破壊の根源』。


 そして『調和の根源』だ。

 人間族リーンは【根源】を覚醒させることで『職能クラス』の取得が可能となる。


 『職能クラス』にはRPGゲームでお馴染みの【ウォリアー】や【メイジ】を設定することが可能だ。


 全ての【根源】を覚醒させる者はまれで、通常は『成人の儀』を行うことで一つの【根源】のみを覚醒させるらしい。


 それは神をまつる神殿などで行われる。つまり『神への信仰』が引き金トリガーとなって『職能クラスの一つが覚醒する』というルールなのだろう。


 まず初めにエーテリアを愛――いや、信仰することで条件を満たし『【根源】の一つが覚醒する』予定だった。


 だが、条件がそろっていたため『武技の根源』と『正義の根源』の覚醒が可能らしい。よって、三つの【根源】――『職能クラス』――を選択できるようだ。


 ここで気を付けなければならないのは――最初に選択した【根源】が『主職能メインクラス』になる――という事だ。


 複数の『職能クラス』を選択することは可能だが『主職能メインクラス』だけは変更が出来ない。

 ここは慎重に選ぶ必要がある。


(普通ならな……)


 生憎あいにくなにを選択するかはすでに決めていた。

 『調和の根源』で取得できる『職能クラス』は【バランサー】。


 戦闘向きではないが仲間を集めたり、したがえたりするのには向いている『職能クラス』だ。また『主職能メインクラス』には『型』スタイルを設定することができる。


 これにより、更に専門的な『技能スキル』の習得が可能となる。【バランサー】で設定可能な『型』スタイルは『ロード』『テイマー』『トラベラー』の三つ。


 『ロード』は指揮官として『テイマー』は魔物モンスターなどの使役に長けている。

 『トラベラー』は移動する『技能スキル』に長けていた。


 そのため、集団で移動を行う際、居てくれると便利な存在だ。隊商をひきいる場合や、調査隊のリーダーのような任務が向いているのかもしれない。


 俺が選ぶのは、そんな『トラベラー』だ。

 理由はいくつかある。


 一つは『技能スキル』の解体が可能であること。一定のあたいまでレベルを上げると習得した『技能スキル』をSPスキルポイントへ戻して、再習得が可能となる。


 つまりは状況に応じて『自分を調整カスタマイズする』ことが可能だ。行動範囲を広げ、機動力を底上げすることは効率を考える上でも都合がいい。


(そもそも、俺に戦闘能力を期待しているとは思えないしな……)


 また【バランサー(トラベラー)】は序盤で役立つ『技能スキル』が多い。例えば、歩くことで『経験値』や『お金』『道具アイテム』が手に入るという『技能スキル』もあった。


 この旅では、どんな危険があるのかも分からない。

 最短時間で目的地まで移動し、歩くだけで強くなれる。


 戦闘も極力回避できそうなので、現状においては大変ありがたい『職能クラス』だ。


(終盤は役に立たない可能性もあるが……)


 現状では、生き残ることの方が最優先だろう。

 俺は最初の予定通り『調和の根源』を覚醒してもらった。

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