第20話 九つの種族(2)


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  【の時代】

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 ここで新たに二つの種族が生まれる。その一つは『獣人族アニマ』だ。

 動物の特徴を持つ彼らは大地を駆り、魔物と戦った。


 強き種族である『天人族アダマ』と『竜人族ドラン』が減ったため【白闇ノクス】の動きも活性化したらしい。


 そして、もう一つの種族――それが『半神族エルダ』だ。長い年月を経たことによって『妖精族ルーナ』や『精霊族ソリス』の中から神格を得た者たちが生まれる。


 エルフやドワーフを連想するといいだろう。

 魔法の才や怪力を持つという。


 しかし、それでも【白闇ノクス】の侵攻は止められなかった。

 個々の種族がバラバラに戦い、団結するための力が足りなかったのだ。



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  【の時代】

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 そして現代、最も新しい種族『人間族リーン』が誕生する。

 彼らは魔法を得意としなかったが『火』をあつかった。


 それまで『火』は明かりや焚火たきび、調理に使う程度。

 魔法による攻撃の手段として用いられてきた。


 しかし、彼らは鉄を打つ。同時に新たな文明を作り出す。

 今までは『神の奇跡』や『魔法』に頼っていた人類。


 そんな彼らが初めて、自らの知恵と力で時代を切り開いた。

 九番目の種族である『人間族リーン』には強靭きょうじんな肉体も翼もない。


 それどころか『魔人族デモン』よりも惨忍ざんにん狡猾こうかつ

 『鱗人族メロウ』よりも排他はいた的で臆病おくびょうな面を持つ。


 かと思えば『妖精族ルーナ』と共に冒険をし、『獣人族アニマ』と共に狩りをする。

 『半神族エルダ』から魔法を学び【白闇ノクス】と戦うための武具を作った。


 神々が求めた不完全が、そこにはあったのだ。

 『人間族リーン』はバラバラだった種族をまとめ上げるまでに成長する。


 そんな『人間族リーン』の強さの源。

 それは神々が与えたという九つ【根源】に由来する。


 彼らはもっともと弱い種族だ。だが、なににでもなることが出来た。

 『様々な可能性を秘めていた』ともいえる。


 しかし、いつからか『人間族リーン』から【根源】が消えてしまう。

 人類は再び、滅びの時をむかえようとしていた。



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 というのが、異世界の歴史における大体の概要だ。

 エーテリアも全てを把握しているワケではない。


 俺も食事の際や就寝前、畑仕事の休憩時などに聞いただけである。まあ、この話から分かる事は『失われた【根源】を取り戻さなければいけない』という事だ。


 『人間族リーン』は俺たち地球人に最も近い種族らしい。

 よって、失われたとされる【根源】も『俺なら持っている』という理屈だ。


 当然、持っているからといって使えるモノではない。

 異世界に来て、初めて意味をす能力のようだ。


 要は『異能の力を目覚めさせる』とエーテリアは言っているのだろう。

 俺としても、戦うことが出来ないのなら、その時点でほぼ詰みとなる。


 コホンッ!――とエーテリア。普段はまったくしない咳払せきばらいをわざとらしくした後、


「まずは神への信仰心が必要なのですが……」


 これは問題ないでしょう!――とエーテリア。頬に両手を当て、


「だって、ユイトは私を愛してくれているのですから♡」


 そう言って、頬を赤く染めた。どうにも、俺と関係を持てたことが嬉しいらしい。

 事あるごとにアピールしてくる。


 ずかしいのでめろ!――と言いたい所だが、


(放って置けば、その内、気も済むだろう……)


 神においては『家族ファミリア』または『眷属けんぞく』となるようだ。

 エーテリアたちにとっては重要なことらしい。


 当面の俺たちの目的は『失われた【根源】を取り戻す』『エーテリアの眷属集め』そして『俺自身の強化』といった所になる。黙っている俺に対し、


「もうっ! なに、分かり切っていることを言わせるんですかぁ~」


 恥ずかしい――とエーテリア。恥ずかしいのは見ているこちらなのだが、


(もうっ! いつまで全裸で放置しておく気ですかぁ~)


 という返しはめておこう。話が長くなりそうだ。


「さて、最初に覚醒できる【根源】は一つのみ」


 上機嫌のエーテリア。真面目な雰囲気に戻ったのもつかの間、


「どの【根源】を覚醒させるかですが……」


 あら?――と言って、今度は片手のみを頬へ当てると、首をかしげる。

 なに不味まずいことでもあったのだろうか?


 俺は心配になるよりも――いちいち仕草が可愛いな――と思ってしまう。

 そんな感情を悟られないように、俺は無表情ポーカーフェイスを保つ。


 そんな俺に対し、のぞき込むような姿勢を取るエーテリア。


(顔が近い……)


 子供になっている所為せいだろうか?

 ジッとしているのは落ち着かない。早く終わらせるため、彼女に対し、


「どうした?」


 と質問をする。エーテリアは背筋を伸ばし、姿勢を正すと、


「いえ、『武技の根源』と『正義の根源』が覚醒しています……」


 どうしましょうか?――逆に質問されてしまった。俺は、


「恐らくは条件がそろったんだろう……」


 と推測を述べる。

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