第18話 子供になってるじゃないか!(2)


 俺は周囲を見渡みわたしたが、肝心かんじんのエーテリアの姿はない。

 湖面も静かなモノで、彼女が落ちた様子は見受けられなかった。


 心配する必要はないのだろう。

 どちらかと言えば『さびしい』といった感情の方が強い。


 エーテリアとは、お互いに初めて同士だった。

 そのため、上手うまく出来た自信はないが、


「ユイトさんをたくさん感じられて幸せです♡」


 と言ってくれたので、心はつながった気がする。

 技術テクニック的なことは次、頑張ればいいだろう。


 それよりも、調子に乗って彼女の耳元で余計なことをささやいてしまった気がする。

 綺麗だの可愛いだのは勿論もちろんのこと、普段なら絶対に口にはしないような事を言ってしまった。


 裸を見られることや、経験がないことよりも、そっちの方がずかしい。

 いい歳をしたオッサンだが、自分自身のことなのに、知らない事はまだあるようだ。


(まさか、あんな台詞セリフが出てくるだなんて……)


 下手へたに感情を内側にめ込んでしまったのも、要因の一つだと考える。

 社畜時代の後遺症というより、俺本来の性格なのだろう。


 無意識にだが、あまり感情を表に出さないようにしていた。抑えていた感情が表に出る引き金トリガーとなったのは、やはり魔物モンスターとの戦闘が原因だ。


 こちらの世界では魔物モンスターが普通に存在するので注意しなければいけない。

 勿論もちろん、危険という意味もある。


 だが、どうにも戦闘を終えると生存本能が刺激されるのか、性欲をおさえるのが難しくなってしまうようだ。


 優しくしようと思っていたのに、つい荒々しくなってしまった。

 あれではけものと変らない。


 まあ、神様は神様で、性に対しては奔放ほんぽうな所があるようだ。

 異性同士は勿論もちろんのこと、同性同士でも単独でも、子供を作ることが可能らしい。


 複数で子供を作り出すこともあるようだ。更に近親相姦も当たり前。

 世界を構築できる程の存在なので、深くは考えないようにしよう。


 それよりも、エーテリアの裸を思い浮かべてしまった所為せいだろうか、下半身がムクムクと――


(ムクムクと……しない?)


 いや、分かってはいた。分かってはいたが、気が付かないフリをしていただけだ。

 俺は自分のパンツを降ろす。やはり、肝心のモノが無かった。


 いや『ある』のだが、えては『いなかった』。

 認めたくはないが、ツルツルなのである。


「まあ、可愛い♡」


 とはエーテリア。いつの間に現れたのか、かがんで、俺の股間を凝視していた。

 恐らく、姿を消して俺の様子をうかがっていたのだろう。


 あまりマジマジと見ないで欲しい。


「――て、子供になってるじゃないか!」


 やや甲高くなった俺の声がむなしく、洞窟内に反響する。

 その反応が予想通りで面白かったのだろう。


 クスクスと笑うエーテリア。楽しそうでなによりだが、俺としては男としての尊厳そんげんを失った気分だ。


 笑い事じゃない!――と言って、再び怒鳴どなろうと思ったが、よく見ると彼女の姿も子供になっている。


 これは色々と説明してもらう必要がありそうだ。


「あら?」


 とエーテリア。俺の表情を見て、色々とさっしたのだろう。


「この瞳の色も、この耳の形も、この髪も……」


 ぜーんぶ、愛してくれているんですよね♪――そんなことを言って、彼女はクルリと踊るように回る。


(言うんじゃなかった……)


 あの夜をもう一度、遣り直したい。

 それに今の姿で言われると、俺が小児性愛障害ペドフィリアみたいだ。


(いや、今は俺も子供か……)


 なら問題ないな――とはならない。エーテリアは動きを止めると、


「もう少し揶揄からかっていたい所ですが――」


 物足りない様子で俺に向き直る。やや真剣な態度で、


「ここは『天空の女神』の神殿です……」


 荒れているのは、この世界の人々が力を失っているため――と教えてくれた。

 どうやら直接、異世界へと乗り込んだワケではないようだ。


 人々が無意識に創り出している『精神世界アストラルサイド』のようなモノだろうか?

 女神が一緒なのだから『天上の世界イデア』とも考えることが出来る。


 なんでも人間は『肉体ソーマ』という『牢獄セーマ』に押し込められているらしい。

 魔法や魂が存在する世界なので、こんな場所があっても不思議ではない。


 まあ、ゲームなどでは『お馴染なじみの空間』だ。

 神殿というより、洞窟どうくつなのだが――それは黙っておいた方が良いいだろう。


(それよりも……)


 先に腰へ巻くためのタオルの一枚でも欲しい所である。エーテリアは裸の俺に対し、気が付いていないかのように振る舞い、淡々と説明を続けた。


わざとだな……)

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