第9話 ブラック異世界(2)


 どうやら、社畜が活躍するさまを鑑賞するのは、神々の間で娯楽となっているようだ。神が直接、連れてくることもあれば、現地人に召喚させることもある。


 自分たちの創造した世界――その人気の有無が神々の優劣、いては力の優劣パワーバランスに関係するそうだ。


(動画で収益を得る配信者だろうか?)


 そう考えると、世界が滅ぶ様子もまた、神々の娯楽となり得る。

 神々がなにもしない理由としては十分だろう。


 彼らには劇的な滅びでさえ、他者より優位に立つための機会チャンスなのだ。

 その一方で『なんとかしなくては』と足掻あがいているのがエーテリアらしい。


 一緒に暮らした俺としても、彼女に情が移ってしまっている。


(手を貸してあげたいのは山々だが……)


 どうにも、彼女のもとで働く気にはなれない。

 まずは意識改革が必要なようだ。


 異世界転生・転移者としては、その後の経験やスキル、ネットワークを広げることが課題となるだろう。


 それを乗り越えなければ、数多あまた存在する転生・転移者の間で差が開いていく事は明らかだ。


 異世界転生・転移後のキャリアアップはどうなっているのか?

 異世界へ行く事で、仕事の専門性や幅はどうなるのか?


 神々から信頼が高まることで、新しい仕事をもらう機会チャンスが増えるのか?

 など、明確に提示して欲しいモノである。


(いや、違った!)


 いくら異世界でキャリアアップをしても、日本の企業では役に立たないだろう。

 未だに学歴社会である日本の企業では、異世界転生・転移しても正社員にはなれなるハズがない。


 就職よりも起業を目指すべきである。

 そもそも異世界ではレベルアップ出来ても、キャリアアップは出来ない。


(一旦、落ち着こう……)


 エーテリアの話を分析すると『転生・転移者が自ら育つことをいかにサポート出来るのか』が異世界を救うための重要なポイントになる。


 【永遠】エターナルへと閉じ込められてしまった転生・転移者は未来の自分の姿かもしれない。


 ラクで居心地はいいが成長できず、収入も上がらない「ゆるブラック企業」に勤めるようなモノだ。


 ワークライフバランスが取りやすく、長く働ける点においては魅力的だが、やはり『やりがい』は大切である。


 頑張っても評価されず「コイツ空気読めないよな」という雰囲気はつらい。


(転職――いや、転移はもう少し慎重に決めよう……)


 どうにも、エーテリアは『元社畜である俺を異世界へ送り込めば、世界が救われる』と考えているようだ。


 また、予感もあるらしい。

 そこに悪意が一切感じられないのは『神という存在の性質ゆえ』だろうか?


 選択の余地がある分――問答無用で連れて行かれたり、不慮ふりょの事故に巻き込まれたり、死んだから転生させてもいいよね――という展開よりはマシかもしれない。


 また、エーテリアの――自分が管理する世界を救いたい――という気持ちも理解はできる。


(俺も土地が荒れないように管理を行っているからな……)


 一応「無職の引きこもりを連れて行けばいいだろう? 喜んで転移するハズだ」と告げてはみたのだが、彼女の世界はハードモードのようだ。


 今回は社会経験がないときびしいらしい。

 経験のない人間に『いきなり管理職は任せられない』という事なのだろう。


 その理由として【白闇ノクス】と呼ばれる存在がげられる。

 過去に消えた神々の残滓ざんし――亡霊とも言うべき存在だろうか?


 WEB小説で例えるのなら、コメント欄やレビューを荒らし、ユーザーの筆を折ろうとする存在だ。小説の削除は勿論もちろん、ユーザーを退会へと追い込む。


 エーテリアは【白闇ノクス】と呼ばれる存在の妨害を受けながらも、この地へ辿たどり着いたようだ。


 それが何故なぜ、俺の畑なんだ?――という疑問は当然あるのだが、それに対する彼女の回答は「運命の出会いです!」というモノだった。


 いい歳こいたオッサンであるため、こちらが恥ずかしくなる。


(素直に喜べる若さが欲しい……)


 『歳を取る』という事は『色々なことが面倒になる』という事らしい。

 勿論もちろん、美人から頼まれ事をされるのは、悪い気はしない。


 だが、どうにも間違っている気がする。

 同時に、そんな彼女のことが心配になってしまった自分もいた。


 『大人になる』という事は『複雑になる』という事のようだ。

 素直になるのが難しい――というよりも、経験から色々と推察できてしまう。


 これは益々ますますって、放って置くワケにはいかない。

 取りえず『俺が異世界へ行く』という件は置いておこう。


 エーテリアとしても、俺の社畜としての能力を見極めておきたいそうだ。


(そんな能力に期待されても困るのだが……)


 取りえず、俺は彼女に田舎を案内することにした。

 もしかすると、彼女の気が変わるかもしれない。

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