第8話 ブラック異世界(1)


 どうにも彼女の話がよく分からない。

 そう思い、もう少し詳しく聞いてみることにした。


 複数の神によって管理されている異世界。

 彼女もまた、そんな神の一柱だという。


 また、エーテリアたちの管理する世界は滅びへと向かっていた。

 本来ならば、死と再生を繰り返し、そのようを変えて行く世界。


 世界の変化、存在意義、生物の死に対しても、神々は『美しい』と感じるらしい。

 当然、戦争や疫病えきびょう飢餓きがさえも、その美しさにふくまれる。


 ただ、エーテリアは人々と共にある女神であり、人類の衰退すいたいに心を痛めていた。

 本来ならば、干渉すべき事態ではない。


 しかし、このままだと『世界は完全な終わり』をむかえてしまう。

 それは『無にす』と同意義である。


 神々の視点からすると、死や滅びは決められた循環サイクルだ。

 世界の終わりを受け入れている神もいれば、新しい世界へと旅立つ神もいた。


 当然、最後まで世界を見守ろうとする神もいる。

 しかし、彼らに共通しているのは傍観ぼうかんであった。


 神々の間では、世界がある程度まで成長したのなら『手を貸すべきではない』という暗黙のルールがあるらしい。


 勿論もちろん傍観ぼうかんつらくワケではなく、奇跡や神託を与え、英雄を『神の世界』にむかえ入れることもあるという。


 その事から、決して『世界の滅び』に対し、神が『あらがってはいけない』という決まりはないようだ。ただ、神が直接、世界へ介入するのもはばかられる。


 自分たちが管理している世界は『失敗だった』と宣伝しているようなモノらしい。

 子供のケンカに親が出るようなモノだろうか?


 よって、エーテリアは他の方法を考えた。

 別の世界の人間へと『助けを求めた』というワケだ。


 最初は異世界への召喚を試みたようだが、妨害にってしまったらしい。そこで異例な措置ではあるが、彼女自身が『希望を求め』この世界へとやってきた。


 どうやら異世界の神々の間では『社畜を召喚することで、いくつモノ世界が救われた』といううわさささやかれてあるようだ。


 会社に飼いらされているヒトの姿をした家畜。

 社畜さえ召喚しておけば、後は勝手に世界を救ってくれる。


 社長やその親族を神格化し、人格を完全否定されながらも、サービス残業を平然とする存在。


 異常な環境で働くことが当たり前になっている彼らだからこそ、異世界でも勝手に働いてくれる。


 いそがしさこそが社畜の美徳びとくである。

 神々の間では、そんな風潮があるらしい。


 ある程度は予想していたが――


ひどい勘違いだ……)


 エーテリアは本気のようなので、俺は特に否定はしなかった。

 ただ――頑張ったな――と彼女をねぎらい、話の続きを聞く。


 結果、神々の社畜に対する認識として、次のような解釈がげられている事が分かった――


 目的を与えず『放置』しても、勝手に仕事を探し、こなしてくれる存在。

 社畜は取引先や別会社の情報を極端に遮断しゃだんされた環境で働いている。


 突然、異世界へ連れ去られた所で、なんの疑問も持ちはしない。

 人生の理不尽りふじんこそ、彼らにとってのご褒美ほうびである。


 報酬は前払いで『チート能力』。彼らはそれだけで、喜んで働いてくれた。

 社畜は自分を卑下ひげするために出社しているような存在である。


 ネットワークが発達し、スマホなどの新しい技術を得ても、人々の労働時間は変わらない。それどころか、常に会社に縛られている。


 つまりは能力さえ与えておけば、チート社畜として頑張ってくれるという事だ。

 そんな彼らが過酷な異世界で生きて行けるのかは『運』次第である。


(まさにブラック異世界だな……)


 異世界転生・転移者にOJTなど、あるハズがない。

 自身の『知識とスキルを使って活躍する』という発想が求められているようだ。


 また、誰しもが上手じょうずに立ち回れるワケではない。

 確かに転生・転移者たちは最初の頃こそ、異世界の平和に貢献こうけんしていた。


 だが、次第に世界の均衡バランスくずす存在へと変貌へんぼうしてしまう。

 流石さすがに、その様子は神々の目にも余ったようだ。


 そういった世界は永遠の女神『エタルゥ』が【永遠】エターナルへと閉じ込めてしまうらしい。


 彼らは神々が気紛きまぐれを起こすか、人々の記憶から消え去るまで、永遠の時を彷徨さまようのだ。


 自分たちの管理する世界が【永遠】エターナルに閉じ込められてしまってはかなわない。

 いつしか神々の間で『日本人の社畜を召喚してはならない』と揶揄やゆする言葉が流行はやってしまった。


 しかし、神々も過去の成功体験から抜け出すことは出来ないようだ。

 未だに社畜を異世界へと召喚しているらしい。

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