第7話 女神と暮らした日々(2)


 エーテリアは最初、半透明といった感じだったが、今ではそれも制御コントロールできるようになり、普通の人間と変わらなくなっていた。


 しかし、油断するとけてしまうようだ。


「気合です! 気合!」


 とエーテリア。大人びた容姿には不釣り合いな、子供っぽい言動を取ることもあるが、れてくると、それも微笑ほほえましく思える。


 いまだに半透明になるため、あまり人前には出さない方がいいだろう。

 色々と面倒なことになるのは想像がつく。


 好都合なことに俺は一人暮らしの身だ。誰にも文句は言われない。

 もうしばらくは彼女を家に置いて、様子を見ることした。


 彼女も出て行く気はないようだ。『気に入られた』というよりは、彼女の目的は人探しであり、その人物が『俺である可能性が高い』という事らしい。


 さっぱり分からないが――


(問題は近所の人たちに、どう説明するかだな……)


 畑で拾った幽霊です――と正直に話すワケにも行かない。

 下手をすると俺の方が病院送りである。


 田舎という事で、家族構成から過去の恥ずかしい出来事まで、すべてバレている。

 そのため、親戚という言い訳も通用しないだろう。


 こういう時「彼女です」と言い張れる図太さが欲しい。

 俺は勤めていた会社の上司を思い浮かべる。


 取引相手への『お土産』としょうし、自分の分とせて会社の金で購入していた上司がいた。相手の欲しい物ではなく、自分の欲しい物をつねに二つ以上購入する。


 一つは取引相手に渡す用なのだが、もう一つは自分が家へ持ち帰る用だ。

 俺はある日、その現場を目撃する。


 取引相手は一人暮らしで「出張で来ている」と言っていた。

 しかし、上司は強引にアイスの詰め合わせを渡す。


 そこはせめて菓子折りだろう。

 たぶん相手は帰りの新幹線で、ビールでも飲む予定だったのかもしれない。


 アイスの詰め合わせをもらっても困るだけだ。

 大方、上司の方は女の子にでも渡して、機嫌を取るのが目的だったのだろう。


 自分の金で買えばいいモノを、そこまでする必要があるのだろうか?

 俺は自分の一般常識が分からなくなる。


 その上司は自分の行為こういが『恥ずかしい』とは思わないようだ。

 何故なぜか、俺が取引相手に謝ってしまった。


 社畜とは常に「すみません」などを連呼し、その場をなあなあで済ませようとする生き物だ。仕方のない事である。


 別の日には鮮魚を渡していた現場も目撃する。

 釣りや料理が趣味でもない限り、もらった相手も困惑するだろう。


「お味噌汁、しょっぱかったですか?」


 とエーテリア。不安そうに俺を見詰める。

 どうやら、難しい表情をしていたらしい。


 彼女の目的とやらを遂行すいこうするためにも、ある程度、行動範囲を広げられるようにした方が良さそうだ。


「いや、出汁だしが効いていて美味おいしい」


 俺がそう答えると「良かった♪」と彼女は笑顔になった。

 このままだと、俺が彼女のことを好きになってしましそうだ。


 早い内に成仏してもらった方がいいだろう。

 俺は「今後の方針なんだが」と前置きをした後、


「恋人同士のフリをしないか?」


 と提案を持ち掛ける。俺が想定できるメリットとデメリットを説明すると、


「分かりました☆」


 とエーテリア。「面白そうですね♪」と意外にも楽しそうに反応する。

 もう少し考え込むのかと思ったのだが、


「ユイトさんが世界を救える社畜か、見極めるいい機会チャンスです」


 そう言って、彼女は――フンスッ!――と意気込んだ。

 了承してくれたのは有難いのだが――


(やはり、俺に女性を理解するのは難しいようだ……)

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