第6話 女神と暮らした日々(1)


 俺が畑で拾った半透明の女性。

 外傷は見当たらなかったため、取りえず、家へと運ぶことにした。


 呼吸はしているようなので、気を失っているだけのようだ。

 部屋で寝かせ、意識が戻るのを待つことにする。


 その間、情報収集を始めたのだが、この近隣に住む『誰かの知り合い』というワケではないようだ。


 天然とおぼしき桃色の金髪ローズブロンドに、ヒラヒラのシルクのような純白の衣装。

 あどけなさが残る美人で、人間離れしたような外見。


 それはまるで人形のようであり、絵画から抜け出てきたような美しさだった。

 本来なら欲情するのが、男性としての正しい反応なのかもしれない。


 だが『気味が悪い』という感覚の方が強かった。

 この時点で俺は『異常なことが起こっている』と感じていたのだろう。


 早い所『お引き取り願いたい』と思っていたのは確かだ。目立つ外見のため『すぐに素性は分かるだろう』と思ったのだが、目撃情報すらない。


 他人の動向に興味津々といった田舎の住民の反応としては、流石さすがにおかしかった。

 やはり、彼女は幽霊なのだろうか?


(彼女を認識できるのも、社畜だった頃の後遺症かもしれない……)


 俺の頭はおかしいままのようだ――と少し悩んでしまう。

 同時にその事が、折角せっかく気が付いた違和感を無視する原因になってしまった。


 夕方には彼女が起きたので、事情を聴いてみる。

 しかし、その時はまだ言葉が通じていないようだった。


 『記憶喪失』というワケではないようだが、言葉も覚束おぼつかない様子だ。

 ただ疲弊ひへいしていたのは分かったので、寺からもらってきた果物を与える。


 『お腹がいっぱいになった』というより、安心したのだろう。

 彼女は再び眠りにく。


暢気のんきなモノだな……)


 俺はあきれつつも、彼女が無事なことを喜ぶ。

 食欲があるようなので、この様子なら回復も早いだろう。


 そんな俺の予想通り、翌朝にはスッカリ元気になったようだ。

 用意した朝食も綺麗に食べてくれた。こういうのは気分がいい。


 相変わらず、言葉が通じないため、この状態で放り出すワケにもいかない。

 しばらく観察することにした。


 取りえず、気付いた点がある。

 食事はとるのだが、風呂やトイレは不要――ということだ。


 なにやら魔法のようなモノを使い、浄化しているらしい。胸の前で祈るように手を組み、彼女が目をつぶるとキラキラと光の粒子があふれ出る。


 これを魔法と呼ばずして、なんと呼ぶのだろうか?

 生き物と彼女が身につけているモノに対しては有効なようだ。


 また、太陽の光や大地からエネルギーを得ている様子だったので――


(幽霊ではなく、精霊の類なのかもしれないな……)


 などと暢気のんきに考えてしまっていた。まあ、俺も元社畜だ。

 その事もあって、幽霊の件に対しては、そこまでおどろかなかったのだろう。


 会社でも『いつ家に帰っているのか分からない』そんな社員も居たので、得体の知れない人物には免疫めんえきが付いていたのかもしれない。


 コミュニケーションを図ると、どうやら彼女には目的があるようだった。

 困っている事は分かったので、しばらくの間、一緒に暮らすことにする。


 ブラック企業の社員にとって、ゾンビは付き物だ。

 幽霊などはむしろ、仲間の部類に入る。


 それに料理や畑仕事を手伝ってくれるので、一緒にいると便利だった。


(俺もそろそろ、新しい仕事を探すか……)


 一週間ほどつと、そんな余裕も出てくる。

 人間、れとは恐ろしいモノである。また、彼女も、


「ユイトさん、ご飯が出来ましたよ♪」


 とすでに簡単な日本語なら、話せるようになっていた。

 肝心の名前についてだが『エーテリア』というらしい。


 異世界で『天空の女神』と呼ばれているようだ。

 残念ながら、今の俺にその真偽しんぎを確かめるすべはない。


 最初は異国の言葉を話していたが、すっかり日本語を話せるようになっていた。

 正直、異様な早さと言える。


 料理も一人で作れるようになった事から、不器用というワケではないのだろう。

 本来は病院へ連れて行ったり、警察へ届けたりするのだろうが――


(たぶん人間じゃないよな……)

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