第5話 女神を拾った日(2)


 動物の仕業なら、穴の周囲に土が盛られているハズだ。

 また、この地域にモグラはいない。


 一応、スマホで撮影し、住職へ報告を済ませる。返信のメッセージを確認するとテーブルの上に『メロン』と『サクランボ』があるから、持って帰っていいそうだ。


 穴については、特に触れられていない。

 どうやら、俺の取越とりこし苦労だったようだ。


 俺は道具を片付け、無人の家屋へと上がる。

 不用心に思えるのだが、田舎は鍵を掛けると、逆に怒られてしまう。


 裏口から入った俺は迷うことなく、台所にあった果物を手に取る。こういった北国のテーブルの上には、お約束のように野菜や果物が置いてあるモノだ。


 でた『枝豆』や『トウキビ』、ふかした『サツマイモ』が基本だろうか?

 これに『ジャガイモ』や『カボチャ』が加わる。


 残念な事に、この辺りは寒さがきびしいため、栗の木は自生していない。

 『甘納豆』を入れた赤飯があるのは、栗ゴハンの代わりだろうか?


 正直、俺は好きではなかった。

 赤飯は普通に『小豆』や『ささげ豆』でお願いしたい。


 黒豆のおこわ『黒飯こくはん』の方が好みだ。北海道や東北地方で、葬式や法要の際に出される料理なのだが、他の地域ではめずらしいらしい。


 郷土料理のようなモノだろうか?

 この地域だと『芋餅いももち』も該当しそうだ。


 家庭で手軽に作れるため、冷蔵庫に常備されていることが多い。

 昔、散々食べさせられたので、俺としてはきてしまっている。


 まあ、母親が亡くなったため、もう食べることは無いだろう。


(線香くさい気もするが……)


 俺はテーブルの上にある果物を袋に詰めた。

 今はまだ、経済的にも余裕はある。


 だが――食費など――節約するに越したことはない。

 予定通り午前中に作業が終わったので、寺からの帰りに自分の畑へとった。


 ただ『畑』といっても、趣味で始めた程度のモノだ。

 広くはないし、自分が食べるためのモノしか植えてはいない。


 元々は先祖が開拓した土地らしいが、農業をやっていた祖父は俺が戻ってくるタイミングで他界した。


 今度、従兄いとこが脱サラをして土地を引き継ぎ、農業を始めるらしい。

 あと数年後の話である。


 それまでリハビリがてら『この土地が荒れないように俺が管理している』というワケだ。


 自然に囲まれていると、活力がいてくる――そんな気がした。

 開拓民の血が流れているからなのだろうか?


 会社につとめた際、精神をんでしまっていたが、最近は持ちなおしつつある。

 なにかと面倒な事も多いが、土をいじることは人間にとって――


(大切なことなのかもしれないな……)


 畑は『日当たりの一番いい場所』を使わせてもらっている。作物を植えている畑の規模が小さい理由は『俺が素人しろうとで一人きりだから』というもあった。


 だが、害獣除けのさくが必須なので、広げるのは面倒だ。

 この地域にイノシシはいない。


 そのため、頑丈にする必要はないが、クマやシカも十分に厄介である。

 しかし、一番の敵はカラスだろう。


 空から狙ってくるので、防鳥ネットが必要になってくる。

 一人だと、かなり面倒な作業だった。


 『お嫁さん』とまでは言わないが、気軽に手伝いを頼める知り合いが欲しい。

 この辺は年寄ばかりなので、頼むにしても気を遣ってしまう。


 そんな俺の畑に――誰だろう?――人が倒れていた。

 女性のようだが、不思議なことに身体がけている。


 『透き通るような肌』という言葉は聞くが、この場合、衣服まで半透明だ。


(まるで幽霊のようだな……)

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