第一章 女神を拾った日

第4話 女神を拾った日(1)


 俺――卯月うづき唯人ゆいと――は二月をって会社を退職した。

 これからの事を考えると不安はあるが『清々しい気分だ』というのが本音である。


 しばらくは実家のある北国で暮らす予定だったのだが、母親も長年の無理がたたったようで、祖父の後を追うようにってしまう。


 俺が戻って来たことで張り詰めていたモノが切れ、安堵あんどしたのかもしれない。

 最後の一カ月を一緒に過ごせただけでも『良かった』と考えることにした。


 心残りは旅行に連れて行ってあげられなかった事だろうか?

 特別大きく感情が動くこともなく、俺は淡々と日々を過ごす。


 五月には雪も解けたので、畑を作ることにした。

 昔、祖父と一緒につちいじりをした記憶を辿たどる。


 当時は嫌だと思っていたことも、大人になった今なら、計画を立てて実行することが出来た。孤独ではなく、自分と向き合うための時間だ。


 それは早朝の畑仕事にもれてきた頃の出来事だった。

 草刈くさかりをして欲しいと、お寺の方から頼まれてしまう。


 夏になって、草が伸びきる前にる必要があるらしい。本来は持ち回りなのだが、年寄りが多い所為せいか、こういった雑用は俺に声が掛かる。


 『雨後のタケノコ』という言葉があるように、この時期は雨が降った後、すぐに草が伸びてしまう。油断をしていると大変なことになる。


 具体的には虫が発生し、姿を隠せるためか、野生動物も近づいてきた。

 トゲのある植物や感染症を媒介する害虫に寄生虫病。なかなかに厄介やっかいだ。


 シカやキツネなどの野生動物を見て喜ぶのは、観光客くらいだろう。

 地元の人間は危険なことを知っているため、野生動物には近づこうとしない。


 北国では五月下旬から六月上旬に条件がそろうのか、夏に向けて植物の成長が早い。

 定期的に草をる必要があった。


 風向きを確認してから、充電式の草刈り機を使用する。

 エンジン式と比べてパワーはおとるが、軽くて静かなため使いやすい。


 稼働時間がネックだったが、バッテリーを二つ用意すれば解決だ。

 田んぼの周りの草を刈るワケではないので、これで十分である。


(一人だと、あれは永遠に終わらない気がする……)


 バッテリーは他の電動工具にも付け替えが可能なため、汎用性もあった。

 注意するのは、適度に休憩きゅうけいはさむ事だろう。


 俺が『休むため』というよりも、機械への負荷をけるのが目的だ。

 この手の回転するタイプの機械は熱が発生する。


 故障の原因になるため、適度に休ませながら使う必要があった。

 作業自体は片付けも含め『一時間半』といった所だろうか?


 午前中の『涼しい内に終わらせよう』と思っていると、


なんだ? これは……)


 ぽっかりと空いた穴を地面に見付ける。

 片足くらいなら、まってしまいそうだ。


 子供が落ちると危ない――とも思ったのだが、その心配はないだろう。

 この辺りに子供は少ない。


 昔と違って、態々わざわざこんな場所で遊ぶ子供はいなかった。


(しかし、困ったな……)


 報告しようにも住職は不在だ。

 スクーターに乗っている姿を何度なんどか見掛けたことがある。


 今日も何処どこかの家に出掛け、お経を上げに行っているのだろう。

 檀家だんかの話しを聞くのも仕事のようだ。


 しばらくは帰って来ないと思った方がいい。

 誰かの悪戯いたずらとも思えないし、野生動物の仕業だろうか?


(でも、その場合、掘った土は何処どこへ……)

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