第10話(3)小ボス討伐

                  ♢


「ふっふっふ……」


 小太りの勇者が、移動中の馬車内でニヤニヤする。


「勇者さま、具合でも悪いの?」


「笑っているんだよ!」


 カグラに対し、小太りの勇者が怒鳴る。


「なにも怒鳴らなくたっていいじゃん……」


 カグラが唇を尖らせる。


「い、いや、悪かったな……」


「別にいいけどさ……」


「……いやあ~あっはっはっは!」


 小太りの勇者がニコニコする。


「……お腹痛いの?」


 オッカが尋ねる。


「だから笑っているんだよ!」


「!」


 オッカがビクッとなる。


「心配してくれているんですから、そんな言い方は無いでしょう……!」


 ファインがオッカの頭を優しく撫でながら、小太りの勇者に抗議する。


「い、いや、すまんすまん……」


「……」


「いやあ~へっへっへ!」


 小太りの勇者がヘラヘラする。


「頭が悪いんですか?」


「いいや、顔が悪いね……」


 レプとルパが微笑みながら呟く。


「おい、エルフ姉妹! そこはせめて調子が悪いんですか?だろうが!」


「へえ、耳は結構良いんだね……」


「お前な……」


「……調子が悪いのですか?」


「いいや、すこぶる良い!」


 ユキの問いかけに小太りの勇者が首を左右に振る。


「ああ、そうですか……」


 ユキが頷き、皆が沈黙する。


「……いや、なんで笑っているんですかとか聞いてこないのか⁉」


 小太りの勇者が声を上げる。


「え……」


 アーヴが困惑する。


「そこは聞いてくるところだろう?」


「だ、だろう?と言われましても……」


 アーヴがさらに困惑する。


「……ぶっちゃけ全然興味ないから」


「そうですね」


 マイの言葉に武具の手入れをしながらクイナが頷く。


「おいおい!」


「……何故にお笑いになられているのですか?」


 ベルガが仕方なしに尋ねる。


「お? 聞きたいか?」


「言いたくないのならば別に良いです」


「いやいや、そこは聞いてくれよ」


「大体想像がつきますから……」


「え?」


「ここ最近は順調にクエストをこなしてきて、ご自身の名声が徐々に高まってきていることが嬉しくてしょうがないのでしょう?」


「おっ、そうだ、よく分かっているな」


 小太りの勇者がうんうんと頷く。


「それらに関してなのですが……」


「うん?」


「……いや、やめておきましょう……」


 ベルガはなにかを言いかけて途中でやめる。


「なんだよ、気になるな」


「大したことではありません。お気になさらず」


「? まあいい、それよりもだ……お前らに言いたいことがあるんだ」


「なんでしょうか?」


「誰かそろそろ俺と酒を飲んでくれても良いんじゃないのか?」


「ああ……ご覧の通り、まだ年若い子たちが多いので……」


「せめて大人組は良いだろう」


「早目に就寝し、体調を整えるのも大事なことですので……」


「いや、だからたまにはだな……」


「この地方の平穏を取り戻すまでの辛抱でございます」


「ううむ……まあいいさ、お前らと俺の采配があればそれも時間の問題だ……」


 小太りの勇者がたるんだ顎をさすりながら呟く。


「あっ!」


 御者をつとめていたシャルが馬車を停める。小太りの勇者が尋ねる。


「なんだ、どうした?」


「い、いえ、あれを……」


 シャルが前方を指差す。そこには少し大きめのスライムがいた。


「おおっ! あれだ!」


 小太りの勇者が馬車を降りる。シャルが慌てる。


「ぼ、坊ちゃま、危のうございます!」


「平気だ! まさか、こんなスライム一匹の討伐が難易度C……上から数えて4番目のクエストとはな……楽勝過ぎて笑いが止まらん……」


 小太りの勇者が笑みを浮かべながら、鞘から剣を抜く。


「援護はしなくても良いんですか~?」


 酒を口にしながらルパが尋ねる。


「要らん! お前はそれよりも酒に付き合え!」


「そいつを討伐出来たらいくらでも~」


「言ったな! よ~し、見ていろ……」


 小太りの勇者が剣を振りかぶる。スライムは動かない。


「……」


「それっ!」


「‼」


「なっ⁉」


 小太りの勇者の剣は思い切り弾かれる。小太りの勇者は剣を落とし、腕を抑えうずくまる。


「スチールスライム……並のスライムとは硬度がケタ違いのスライムだ……」


 ファインが呟く。小太りの勇者が反応する。


「そ、そういう大事なことは早く言え……!」


「ギルドの説明をちゃんと聞かないからですよ……ベルガさんも念を押していたのに……」


「鉄をも斬れる達人……」


 レプの呟きに、周りの視線がアーヴに集中する。アーヴは困惑する。


「い、いや、自分でも難しいかと……」


「これを使ってください……我が里のとっておきです」


 クイナが手入れをしていた剣を渡す。アーヴが受け取り、馬車を降りてスライムに迫る。


「……それっ!」


「⁉」


 アーヴが見事にスチールスライムを一刀両断にしてみせる。


「よ、よし、俺の狙い通りだ……!」


 四つん這いになりながら、小太りの勇者が頷く。

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