第10話(2)勇者パーティー大躍進

                  ♢


「うおおお⁉ デ、デカいネズミだ⁉」


 ギガントラットとの遭遇に小太りの勇者は戸惑う。


「勇者さま、少し落ち着いていただけますか……」


 ベルガが眼鏡の縁を抑えながら小太りの勇者を落ち着かせようとする。


「……」


 ギガントラットが小太りの勇者パーティーの方に視線を向ける。


「うわあ! こっちを見たぞ!」


 小太りの勇者が声を上げる。


「それも当然のこと。いたずらに騒ぐからです」


 ベルガが眼鏡をクイっと上げる。


「………」


 ギガントラットが小太りの勇者パーティーの方に歩いてくる。


「こ、こっちに迫ってくる!」


「だから落ち着いてください……!」


 ベルガがさすがに苛立った様子を見せる。


「うわあ! 逃げろ!」


 小太りの勇者が逃げ出す。その走りは遅い。


「……ファインさん、我々が逃げられる確率は?」


「あの巨体でもなかなかのスピードです。馬車を飛ばしてもあっという間に追いつかれてしまうでしょう……」


 ベルガの問いにファインが応える。


「ふむ……」


 ベルガが立ち止まる。小太りの勇者が驚く。


「お、おい、どうしたんだ⁉」


「迎え撃ちます……」


「む、無茶だ!」


「逃げる方が無茶です」


「…………」


「く、くるぞ⁉」


「見えていますよ……!」


「……!」


 ベルガが杖を掲げると、ギガントラットに雷が落ちる。雷の直撃を受けて黒焦げになったギガントラットは力なく倒れ込む。


「……ざっとこんなものです」


 ベルガは再び眼鏡をクイっと上げる。


                  ♢


「うおおおお⁉ デ、デカいヤモリだ⁉」


 小太りの勇者が驚きの声を上げる。


「……あれが今回のクエストの討伐対象であるメガニュートです。ヤモリではありません、イモリですよ……」


 ベルガが極めて冷静に訂正する。


「…………」


 メガニュートが大きな舌をニュルっと出して、小太りの勇者パーティーの方にゆっくりと近寄ってくる。


「うわああっ⁉ こっちに来るぞ⁉」


「ヤモリ呼ばわりされて怒ったんじゃないの~?」


「カグラ、そういうアンタは違いが分かるの?」


 マイがカグラに問う。


「ヤモリっぽいのがヤモリで、イモリっぽいのがイモリでしょ~」


「イモリが両生類で皮膚呼吸、ヤモリが爬虫類で肺呼吸です……」


「うわあ、さすがユキだね~」


「クラス委員長は伊達じゃないね……」


「委員長はあまり関係ないと思いますが……」


 カグラとマイにやけに感心されて、ユキは戸惑う。


「ぺ、ぺちゃくちゃと喋っている場合か!」


 小太りの勇者が怒鳴る。


「頭ごなしに怒鳴らないであげてください……お三方にお任せしますよ」


 ベルガが優しく語りかける。


「はい! それっ!」


「!」


 ユキが光明魔法で光を照らす。目くらましにあったメガニュートが立ち止まる。


「止まればこっちのもんだよ!」


「……‼」


 カグラが蒼翠魔法で地面から大量の蔦を生やし、メガニュートの四本足を絡め取る。


「もらった!」


「‼」


 マイが紅蓮魔法の応用形で、炎を宿した拳をメガニュートに叩きつける。メガニュートは炎に包まれ、丸焦げになって倒れる。


「よっしゃ! 今夜はご馳走だぜ!」


「イモリは毒があるから食べられませんよ……たくましくなられましたね……」


 ベルガがメガニュートの死体を囲んでやいのやいの騒ぐマイたちを見て目を細める。


                 ♢


「うおおおおお⁉ デ、デカいヘビだ⁉」


 小太りの勇者が大きな声を上げる。


「……あれが今回のクエストの討伐対象であるスケルトンスネークです……」


 ベルガが冷静に説明する。


「……………」


 スケルトンスネークが小太りの勇者パーティーの方ににょろにょろと迫ってくる。


「うわあっ! こ、こっちに来るぞ!」


「ええ、それは分かります」


 ユキが落ち着いて頷く。


「体が透明なのって結構カッコ良いよね~」


 カグラが呑気な声を上げる。


「ヘビなら食べられるよな?」


「……う、う~ん、ああいうモンスターの類はどうなのでしょう?」


 マイの問いにユキが首を傾げる。


「火を通せば大体イケるだろ?」


「大雑把ですね……」


 マイの言葉にユキが戸惑う。


「お三方、頼もしい限りですが、ここは下がっていてください」


 ベルガが声をかける。ユキが頷く。


「わ、分かりました……」


「結構……それではファインさん……」


「ええ……それっ!」


「……⁉」


 ファインが小瓶を開けると、そこから大きなフクロウが飛び出した。


「行け! ビッグアウル!」


「…………!」


「⁉」


 ビッグアウルがスケルトンスネークを掴み、食べ始める。


「ああ、頭の部分は残しておいてね、ギルドに討伐成功の証拠として持っていくから」


「………………」


 ビッグアウルはファインの言うことにきちんと従い、頭以外を食べる。


「ヘビの天敵、猛禽類を出すとは、なんとも的確な判断……」


 ベルガが感心する。


「う、うむ、俺の指図通りだ!」


 腰を抜かしそうになりながら、小太りの勇者が頷く。

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