第7話(2)イオナの挑戦

「なんだい、そんなに驚くことか?」


「い、いや、良いんですか?」


 イオナが問う。


「なにか気になるのか?」


 リュートが問い返す。


「さ、最後の一人なんですよね? そ、それを私に任せて良いんですか?」


 イオナが自らを指差す。


「良いさ、別に……」


「ええ……」


「なんだったら……一人と言わず、二人、三人とスカウトしても構わんぜ?」


「ほ、本当ですか?」


「ああ、出来るものならな」


「う、う~ん……」


 イオナが腕を組んで首を傾げる。


「やりたくないのなら無理強いはしないが……」


「い、いや、やりたくないわけではないです!」


「それじゃあ、何を悩んでいる?」


 リュートが問う。


「……無いです」


「え?」


 リュートが耳をすます。


「じ、自信が無いです!」


「い、いきなり大声を出すなよ……」


「す、すみません……」


「そうか、それならしょうがないな」


「ああ、ちょ、ちょっと待ってください! やります! やらせてください!」


「……それじゃあお手並み拝見といこうか」


 リュートが笑みを浮かべる。


「えっと……」


 しばらく歩いてイオナが酒場に入る。それに続くリュートが尋ねる。


「何故この酒場に?」


「ここがこの街で一番流行っている酒場だということなので……」


「へえ、よく知っているな」


「この街に向かうということなので、ある程度の下調べはしてあります」


「ある程度ね……」


「なにか?」


 イオナが振り返る。


「いいや、なんでもないさ。それで? ここでどうするつもりだ?」


「ここには名うての猛者が集まるそうです」


「……ああ、そのようだな」


 リュートが周囲を見ながらカウンターの席に座る。イオナが隣に座り、店主に注文する。


「とりあえず麦酒を二人分……」


「まさか、片っ端から声をかけようってわけじゃないよな?」


「はい?」


「数撃ちゃ当たるとはよく言ったものだが……あまり効率の良いやり方とは言えないな」


「も、もちろん、ちゃんと考えてありますよ」


「ほう……」


「現在のパーティーメンバーのバランスを考えてスカウトしようと思っています」


 イオナが紙を懐から取り出して、メンバーをあらためて確認する。リュートが頬杖をつく。


「バランスね……」


「やはり経験が浅いかと……」


「確かに比較的若いメンバー構成ではあるな。エルフやドワーフなど長命種もいるが……」


「ええ、よって、経験豊富な傭兵をスカウトします」


 イオナが視線を壁際に向ける。白髪交じりの剣士が静かに酒を飲んでいる。


「ああ、あの男か……」


「ご存知ですか?」


「確かにそこそこ名の知られた男だな……君にスカウト出来るか?」


「……任せてといてください!」


 景気づけに麦酒を一気に飲み干したイオナが剣士の下に向かう。


「……なんだ?」


「失礼、貴方をスカウトしたいのですが……」


「……断る」


「お金ならこれくらい出せます」


 イオナが金額の記された紙を提示する。


「……金の問題じゃない」


「今まで以上の名声を得られる可能性が高いです。美女も沢山寄ってくるかも……」


「今さら女に言い寄られてもな……面倒なだけだ」


「え、えっと……」


「食事は?」


「は、はい?」


「俺は常人の五倍は食うぞ。舌も肥えているからな。一流シェフの料理を毎食提供しろ」


「そ、それはちょっと難しいかもしれません……」


「ならお断りだ。消えろ」


「し、失礼……」


 イオナがすごすごとリュートの下に戻ってくる。リュートが笑みを浮かべる。


「おしまいか?」


「まだです! 麦酒、もう一杯!」


 イオナが麦酒を飲み干す。リュートが尋ねる。


「お次は?」


「……支援職が足りません。あの方を!」


 イオナが二階席で飲む、男を数人侍らす露出過多な女性に視線を向ける。リュートが頷く。


「踊り子か……パーティーにバフ効果をもたらせるな……」


「では、行ってきます! ……失礼!」


「なあに?」


「貴女をスカウトしたいのですが……金額はこれくらい出せます」


「お金はわりとどうでもいいわ~」


「な、ならば、名声を得ることによって、良い男性がもっと寄ってきます!」


「夜型なの」


「は?」


「昼間は基本お眠なのよ~睡眠時間、毎日二十時間保障出来る?」


「そ、それはちょっと……」


「じゃあ、このお話は無し~」


「し、失礼しました……」


 イオナがすごすごと戻ってくる。リュートが再び尋ねる。


「終わりかい? 麦酒頼んでおいたぞ」


「いただきます! まだです! 重騎士をスカウトしたいと思います!」


 イオナが店の奥の方に座る、重々しい鎧を身に着けた男性に視線を向ける。


「なるほど、タンク役か……」


「それでは行ってきます! 失礼! 貴方をスカウトしたいのですが! 金額はこれくらい出せます! 食事も豪勢! パーティーには若くてかわいい女の子が勢ぞろい!」


「……男はいないの~?」


「え? えっと、小太りの勇者さまが一人……」


「小太り? タイプじゃないわ~。他を当たってちょうだい~」


「し、失礼いたしました……」


 イオナが戻ってくる。リュートが笑いをこらえながら声をかける。


「三大欲求に訴えたのは悪くなかったと思うぜ、ことごとく外れたがな……」


「うわ~ん‼」


 イオナがカウンターに突っ伏す。

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