第7話(1)さすがにそろそろ

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「しかし……思いきりましたね」


 ある街を歩くイオナが、並んで歩くリュートに話しかける。


「何がだ?」


 リュートが首を傾げる。


「まさかドワーフの娘をスカウトするとは……」


「ああ……」


「完全に予定外の事ですよね」


「完全にというわけでもない」


「え~嘘だ~」


「嘘ではない」


「どこか頭の片隅にはあったってことですか?」


「まあな」


「本当に~?」


「本当だ」


「にわかには信じがたいですね……」


「まあ、確かに当初は違う者をパーティーメンバーにスカウトしようとは思っていたさ。プライオリティはその者に置いていた」


「そうでしょ~?」


「あそこでああいう展開になったので、そういえばこの近くにドワーフの里があったな……ということを思い出したんだ」


「もしかして……オークの襲撃も織り込み済みですか?」


「まさか」


「勇者のパーティーが通りがかるというのも偶然ですか?」


「偶然に決まっているだろう」


「え~」


「大体、それなら最初から勇者パーティーをドワーフの里に連れて行った方がマシだろう。なんでわざわざリスクを負わなきゃならん」


「あ、そうか……」


 イオナが頷く。


「そうだ」


「それじゃあ、本当に偶然だったんですね……」


「ああ、運が良かったな……」


「あの勇者さまたちが居なかったら……」


「良くてオークの奴隷だろう……もしくはあの世かな」


 リュートが空を指差す。


「おおう……ぎりぎりだったということですね……」


 イオナが体を小さく震わせる。


「そうだな」


「なんと幸運な……」


「まあ、それもあるが……」


「それもあるが?」


「俺の勝負強さが発揮された形でもあるな」


 リュートが胸を張る。


「……そこで胸を張ります?」


 イオナが若干呆れたような視線を向ける。


「なんでもかんでも幸運だ、不運だ、で片付けてしまうよりは良いと思うがね」


「ふむ……」


「結果、いい人材も転がり込んできた……」


「あの娘さんを最初から狙っていたんですか?」


「さすがにそこまでではない。ただ、ドワーフをパーティーメンバーに加えるのも面白そうだという考えはあるにはあったよ」


「ほう……」


「武器の手入れもある程度、パーティー内でまかなえるというのは大きいな……」


 リュートが顎をさすりながら呟く。


「しかしですね……」


「なんだい?」


「ちょっとメンバーが多すぎませんか?」


「そうか?」


「そうですよ、もう十人目ですよ」


「そんなになるか」


「そんなになるかって……無計画にスカウトしていたんですか?」


「ある程度出たとこ勝負だな」


「ええ……」


 リュートの言葉にイオナが戸惑う。


「もちろん想定していた部分もある。しかし、想定よりはちょっと増えたな……」


「い、良いんですか?」


「……君、今回のクライアントのことを知っているか?」


 リュートが尋ねる。


「え? お会いしたことはありませんが……小太りの……」


「違う。彼の容姿はどうでもいい。いや、それも今回大事な要素ではあるのだが……まあ、それは関係ないとしてだ」


「容姿は関係ない……」


「彼のランクだ」


「ランク?」


「Zランクだぞ」


「ゼ、Zランク⁉」


 イオナが驚く。


「そうだ、聞いたことあるか?」


「無いです。っていうか、そこまでランクってあったんですね……」


「どうやらあったようだな」


「……Zランクってどれくらいの強さなんですかね?」


「俺や君でも余裕で勝てるんじゃないか?」


「えっ⁉」


「それどころか、女子供……ちょっと元気の良いお年寄りでも勝てるだろうな」


「ええっ……」


 イオナが困惑する。


「……というわけで、メンバーは多過ぎてちょうど良いくらいなんだよ」


「はあ……ですが、雇うお金は?」


「その点については心配ない。爺さんの遺産がたんまりあるようだからな。俺たちがちょっと良いホテルに泊まったり出来るのもそのお陰だ」


「は、はあ……」


「資金力というのもランク付けの考慮に入れても良いのにな。先立つものが無ければ、冒険だって出来ないだろうに。まあ、俺がどうこう言うことでもないが……」


「それはともかくとして……多過ぎると機動力というものに欠けるのでは?」


「ふむ……それはその通りかもしれんな」


 イオナの言葉にリュートが頷く。


「やはり、スカウトし過ぎでは……」


「まあ、あと一人くらいかな……そろそろ約束の期限でもあるしな」


「あと一人……」


「ああ、出来る限り強力な者を戦力として迎え入れたい」


「強力な……その為に、この少し……いや、かなり治安の悪い地域に来たんですね?」


 イオナが恐る恐る周囲を見回しながら尋ねる。


「そういうことだ」


「腕利きの傭兵とかですか?」


「それも良いが……イオナ君、君に任せよう」


「ええっ⁉」


 リュートの突然の指示にイオナがびっくりする。

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