第6話(4)十人目

「うん? どうかしたのか?」


 ドワーフが問う。


「す、少し高すぎませんか?」


 勇者が答える。


「それくらいはもらわんとな」


「相場と比べてみてもちょっと……」


「相場と言われても知らんな。うちはずっとこれでやっている」


「う、う~ん……」


 勇者が紙をテーブルに置き、腕を組みながら首を捻る。


「まさか……払えないのか?」


「は、払えないこともないのですが……」


「ならば良いだろう」


「し、しかし……」


「ちょっと見せて……何よ、この金額⁉ ぼったくりじゃない!」


 紙を見た魔法使いが声を上げる。


「ぼ、ぼったくりとはなんだ⁉」


 ドワーフがムッとする。


「そのままの意味よ!」


「失礼な小娘だな!」


「こむ……⁉ レ、レディに向かってなんて言い草⁉」


「レディ? 見当たらんな?」


 ドワーフがきょろきょろとする。


「目線が低過ぎるからでしょ」


「な、なんだと⁉」


「あら、ごめんなさい、本当のことを言ってしまったわ」


「……」


「………」


 ドワーフと魔法使いが睨み合う。勇者が口を開く。


「あ~分かりました。払います」


「ちょ、ちょっと待ちなさい! 私が認めないわよ!」


「そうは言ってもだね……仕事ぶりは文句ないわけだし……それは分かるだろう?」


「それはそうかもしれないけど……だからと言って常識外れの金額だわ!」


「お前らの常識を押し付けるな! 田舎者が!」


「はあっ⁉ それはこっちの台詞よ!」


「払わないと言うのならこちらにも考えがあるぞ。この里には力が有り余っている連中が多いからな……」


「何よ、脅しのつもり?」


「つもりで済むならそれで良いのだが……」


「あ~ちょっと、ちょっと!」


 勇者が再び割って入る。ドワーフが視線を向ける。


「払うんだな?」


「そ、そうですね……」


「ちょっと待って、この人に払ってもらえばいいじゃないの!」


 魔法使いが武器を眺めているリュートをビシっと指差す。


「えっ⁉」


 イオナが驚く。リュートは一瞬きょとんとするが、すぐに笑顔になって答える。


「ああ、良いですよ」


「ええっ⁉」


 リュートの答えにイオナがさらに驚く。


「い、いや、それは悪いですよ……」


「お気になさらず」


「ほら、こう言ってくれているんだし、お言葉に甘えましょうよ」


 魔法使いが腕を組んで、うんうんと頷く。


「えっと……」


 リュートがテーブルに置かれた紙を手に取って、金額を確認する。勇者が苦笑する。


「け、結構な金額でしょう?」


「まあ、助けてもらったお礼代わりだと思えば……その前にちょっと店主とお話がしたいですね。店主、お店の奥へ参りましょう」


「え?」


「お願いします」


「あ、ああ……」


「イオナ君もちょっと来てくれ」


「は、はい……」


 リュートはドワーフとイオナを連れて店の奥へ入る。ドワーフが尋ねる。


「な、なんだ?」


「……値下げしろ」


「は、はあっ⁉」


 リュートの言葉にドワーフが面食らう。


「もう一度言う……値下げしろ」


「そ、そんなこと出来るか!」


「俺の眼は誤魔化せんぞ」


「な、何……?」


「わずかだが仕上げぶりが変化しているな……」


「!」


「誰か別のものにやらせているのだろう……」


「そ、そんなわけが……」


 ドワーフの目が泳ぐ。その動きをリュートは見逃さない。


「イオナ君、そこのドアを開けてくれ」


「あ、は、はい!」


「‼」


 イオナがドアを開けると、椅子に座って作業をしている、そばかすが特徴的なドワーフの娘がいた。ドワーフの中ではわりとすらっとした体型をしている。


「失礼、作業中だったか。ふむ……見事な仕事ぶりだな」


 娘の作業している様子を見て、リュートが頷く。イオナが問う。


「こ、こちらは……?」


「このおっさんの娘さ。顔は母親似だが、腕前は父親似……いや、既に超えているかもな」


「ふ、ふん……」


「娘に作業させていたとはな……」


「い、いずれはこいつが店を継ぐことになる。早いか遅いかの違いだ!」


「アンタのことを信頼して、この店に訪れた者はどう思うだろうな……」


「むっ!」


「このことが里内、もしくは外に知れ渡ったら……」


「わ、分かった! 値下げに応じよう!」


 ドワーフが首を素早く上下させる。


「……じゃあ、これくらいで頼む」


 リュートが金額を訂正した紙を見せる。ドワーフの顔色が変わる。


「⁉ さ、三分の一じゃないか! いくらなんでも……!」


「浮いた値段の分のさらに三倍の額を支払う……それで娘さんを雇いたい」


「は、はあっ⁉」


「小柄だが、筋骨隆々…鍛冶屋としてだけではなく戦士としても貢献してくれそうだ」


「……………」


 娘は父親とリュートのやり取りをじっと見つめている。リュートが尋ねる。


「娘さん、冒険の旅に出てみないか? きっといい経験になると思うぜ?」


「……里の外には一度出てみたいと思っていました。よろしくお願いします」


 娘がすくっと立ち上がって、リュートに頭を下げる。


「ク、クイナ⁉」


「……決まりだな」


 リュートが笑みを浮かべる。

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