第6話(3)ドワーフの里へ

「大丈夫ですか?」


 勇者が爽やかな笑みを浮かべながら、馬車に近づいてくる。


「え、ええ……」


 イオナがひょっこりと顔を出して、お礼を言おうとする。


「いや~助かりました~」


 リュートがいつの間にか馬車から降りて、勇者たちに握手を求める。


「え⁉ 早っ⁉」


 イオナが困惑する。


「まったく油断しておりました。モンスターの出ない道だと思っていたので……」


「この辺りではモンスター出現など聞いたことがありませんからね。そのようにお思いになるのも無理はありません」


 リュートの言葉に勇者が頷く。


「なにかお礼をさせては頂けないでしょうか?」


「え?」


「これは少ないですが……」


 リュートはお金が沢山入ったを持ち出す。勇者が慌てて手を左右に振る。


「い、いえ、たまたま通りすがっただけですから! そんなお気になさらず!」


「護衛を雇うお金をケチった分ですから、それこそお気になさらず!」


「いえいえ!」


「いやいや!」


「本当に結構ですから!」


「そうですか?」


 リュートが袋を引っ込める。


「素直にもらっておけば良いのに……」


 小柄な魔法使いの女性が呟く。


「僕らは別にお金に困っているわけではないだろう?」


「労働への対価はしっかりと受け取るべきだわ」


「人助けをしただけだよ」


 勇者と魔法使いが軽く口論する。リュートが口を開く。


「しかし……なにかお礼をさせてもらわないと、こちらの気が済みません……」


「いや、本当にお気になさらず……」


「……見たところ、武器が大分痛んでいるようですね」


「え? あ、ああ、そうですね……」


 勇者たちが自らの武器に目をやる。


「この近くにドワーフの里があります」


「ドワーフの里?」


「ええ、腕利きの刀鍛冶、目利きの武器職人が多く揃っております」


「それは初耳ですね」


「気難しい性格の者ばかりで、一見さんお断りというような場所なのです」


「へえ……」


「よろしければ、そちらへご案内しましょう」


「あなたはその里に入れるの?」


「ええ、まあ、特別なコネがあるもので……出入り自由です」


 魔法使いの問いにリュートが答える。


「ふ~ん……」


「一流の勇者さまたちなら、武器も一流のところで修理してもらった方が良いですよ」


「どうする?」


 勇者が魔法使いに尋ねる。


「……あなたに任せるわ」


 他の二人も同調する。それを見た勇者がリュートに向き直って告げる。


「……それでは案内をお願いしようかな」


「はい。それでは馬車の方にお乗りください」


「はい」


 リュートが馬車に勇者たちを案内する。


「御者さん、谷の方へ向かってくれ」


「は、はい……」


「谷の方? 行き先が違ってくるんじゃ?」


 イオナが小声で尋ねる。


「予定変更ってやつだよ」


 リュートも小声で答える。馬車が移動を再開する。それからしばらくして……。


「……道がでこぼこしているわね」


「もう少しご辛抱を……」


 魔法使いに対し、リュートが笑みを浮かべる。


「なるほど、こっちの方には来たことがない。あまり知られていないというのも頷ける」


 勇者が腕組みしながら、うんうんと頷く。それからさらにしばらくして……。


「……さあ、到着しました」


 リュートが指し示した先に、小柄なドワーフたちが多く生活する里があった。


「結構大きな里ですね……」


「一応、宿屋もあるのです。一番大きな建物がそれですね。御者さん、その向かいにある建物に向かって下さい」


「かしこまりました」


 馬車がリュートの言った建物の近くに止まる。


「さて、お降り下さい」


 リュートの指示に従い、皆が馬車を降りる。


「ここは……」


「この里一番の鍛冶屋です。武器をしっかりと鍛え直してくれますよ」


「はっ、一番気難しいんじゃないの?」


 魔法使いが笑う。


「お察しの通りです」


「え……? 面倒なのはごめんよ?」


 リュートの言葉に魔法使いが戸惑う。


「ご心配はいりません。私は古くからの知り合いなものですから」


「それならばこの店にお願いしましょう」


「はい。それでは参りましょう。失礼しますよ……」


「……いらっしゃい、って、なんだお前か……」


 店の真ん中で椅子に座っていた髭もじゃのドワーフがリュートを見て、顔をしかめる。


「なんだとはご挨拶ですね」


「お前が来ると大抵ろくなことがないからな……」


「今日は大丈夫ですよ」


「なんだ、その口調? 気持ちが悪いな……」


「ちゃんとお客さんたちを連れてきました」


 リュートが勇者たちを指し示す。


「ほう……」


「皆さん、武器を出して、このテーブルに置いて下さい」


 勇者たちがリュートの指示に従い、武器を店のテーブルに置く。


「ふむ……」


 ドワーフが勇者たちの武器をまじまじと見る。


「大分痛んできているようなので……直してくれませんか?」


「……分かったよ。ちょっと待ってな」


 ドワーフが武器を持って、店の奥に下がる。


「……」


「……待たせたな、修理出来たぞ」


 ドワーフが戻ってきて武器をテーブルに置く。勇者たちが目を見張る。


「おおっ! まるで新品のような仕上がりだ! 見事な仕事ぶりですね」


「そんじゃあ、お代だが……これが請求書だ」


 ドワーフが紙を勇者に手渡す。


「はい……ええっ⁉ こ、高額過ぎる……!」


 勇者が紙に書かれた金額を見て面食らう。

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