第6話(1)勝負強さ
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「……」
リュートが馬車の窓から外の風景を見つめる。馬車は山道に入る。
「……しかし、あれですね」
向かい合って座るイオナが口を開く。リュートが視線を向ける。
「なんだ、あれって……」
「あのエルフの双子さんを引き抜いた大金、よく用意することが出来ましたね?」
「ちょっと銀行強盗をね……」
「えっ⁉」
「冗談だ」
「び、びっくりした……」
「そんなわけがないだろう……」
「いや……」
「なんだ、俺ならやりかねないってか?」
リュートがわざとらしく両手を広げる。
「え、えっと……」
「い、いや、そこで口ごもるなよ!」
「あ、はい……」
「まったく、どんなイメージを抱いているんだ……失礼だな……」
「す、すみません……」
「別に謝らなくても良いけどさ」
リュートが窓の外に視線を戻し、窓枠に頬杖をつく。
「それで、あの大金は……?」
「元々、勇者から相場よりは多めに準備資金を頂いている……」
「相場よりは多めに?」
「かなりな」
リュートがふっと笑う。
「な、何故ですか?」
「金が多くあるに越したことはないだろう?」
「そ、それはそうですが……」
「どうせあのまま持たせていても、ロクなことに使わないだろうと思ってね。こちらで有効に活用させていただこうと考えたのさ」
「有効に活用……」
「ああ、大金を元手に、賭場にレッツゴー!ってわけさ」
「そ、それって本当に有効ですか⁉」
イオナが戸惑う。
「……どういう意味だい?」
「だって、ギャンブルでしょ?」
「手っ取り早くお金を増やすにはそれしかなかったからね」
「リュートさん、ギャンブルは……」
「……なんだよ」
「クソ弱いんじゃありませんでした?」
「あんまりな言い草だな!」
リュートが声を上げる。
「い、いや、これは私が言った言葉ではなくてですね……」
「誰が言ったんだ?」
「ウ、ウチの叔父さんです……」
「ああ、確かに君の叔父には結構負けているね……」
リュートが納得したようにうんうんと頷く。
「それは素直に認めるんですね」
「まあ、いずれ借りは返すつもりだがね」
「しかし、あまり得意だというわけでもないギャンブルで大金を得るとは……」
「ここぞというところで勝つ! これが真の強者だよ」
「はあ……」
「集中力が高まると、良い結果が出やすいんだよ」
リュートは自らの側頭部を人指し指でトントンと叩く。
「へえ……」
「なんだい、そのリアクションは?」
「いや、その……」
イオナがまた口ごもる。
「構わないさ。言ってごらんよ」
「え……」
「さあ、どうぞ」
リュートが促す。イオナが口を開く。
「……要するにまぐれですよね?」
「かあっ~!」
「!」
リュートが大声を上げる。イオナが驚く。
「君はまったく分かっていないね」
「そうですか?」
「そうだよ、まぐれってなんだ?」
「え、運です」
「では、その運の良し悪しを決めるのは?」
「え……?」
「分からないのか?」
「い、いや、それもまた運になってくるんじゃないですか?」
「違うね」
「違いますか」
「ああもう、全然違う!」
リュートはこれでもかと首を左右に強く振る。
「そ、そんなに……で、では、なんなのですか?」
イオナが問いかける。
「……勝負強さだ」
リュートはイオナの前に拳を突き出し、それを力強く握ってみせる。
「勝負強さ……」
「そうだ。それによって、良い運をこちらに引き寄せることが出来る」
「ほ、本当ですか?」
「現に大金を持って、君らの前に現れただろう?」
「た、確かに……」
「そういうここぞというところの勝負強さ……」
「まさか……」
「うん?」
「それもスカウトマンには必要だと?」
「そうだね」
「で、では私は……」
「………」
リュートがイオナを黙って見つめる。
「ど、どうでしょう?」
「うん、ダメだね」
「ダメだねって……」
「勝負弱い」
「な、なにをもってそう判断されたんですか?」
「雰囲気」
「雰囲気で決めないでくださいよ! ⁉」
馬車が大きく揺れる。御者が慌てたように声をかけてくる。
「モ、モンスタ―の襲撃です!」
「ええっ⁉」
イオナが驚く。
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