第5話(4)八人目と九人目

「ぐっ……」


「あらためて申し上げます。お引き取りを……」


「うぃ~」


 双子のエルフがゴブリンの方に向き直る。


「ちいっ!」


「ふざけんなよ!」


「そうだ、数ではこっちが有利だ!」


「やっちまえ!」


 ゴブリンたちがエルフたちに襲いかかる。


「仕方がありません……ね!」


「どはっ⁉」


 エルフが水晶玉を投げつけ、ゴブリンが数匹まとめて倒れる。


「な、なんてパワー!」


 イオナが驚く。


「くっ……」


「玉を投げやがった! 手ぶらのあいつを狙え!」


 残ったゴブリンたちが体勢を立て直して、エルフに迫る。


「ひっく……」


 酒に酔ったエルフが前に進み出る。


「む⁉」


「……えぃ」


「がはっ!」


「……せぃ」


「ぐはっ!」


「……てぃ」


「ごはっ!」


 酒に酔ったエルフがパンチ、キック、チョップを繰り出す。それを食らったゴブリンたちが次々と吹っ飛ばされる。


「うぃ~ひっく……」


「な、なんてスピード!」


 イオナが感嘆とする。


「パワーにスピードが長けたエルフの双子か……なかなか興味深いな……」


「リュートさん?」


「ちょっと用事を思いついた……」


「ええっ⁉ ちょっと待ってください!」


 リュートがその場から離れようとしたため、イオナが止める。


「なんだ?」


「なんだ?ってこっちの台詞ですよ! ここはどう考えてもあの双子さんをスカウトする流れでしょう⁉」


「そうかね……」


 リュートが首を傾げる。


「いやいや、興味深いな……とかなんとか言ってカッコつけてたじゃないですか⁉」


「カッコつけてはいない」


「まあ、それはどうでも良いですけど! ほら! 早くスカウトしないと! 逸材ですよ、どこからどう見ても!」


「どこからどう見ても?」


「ええ、実力! ルックス! スタイル! 三拍子揃っています!」


「どんな三拍子だ……」


「と、とにかく!」


「だから、用事を思いついたと言っただろう……」


「それですよ! 『思い出した』ならまだしも、『思いついた』ってなんですか⁉」


「思いついたものはしょうがないだろう……」


 リュートがその場から歩き出す。


「ちょ、ちょっと! 私がスカウトしちゃいますよ⁉」


「ああ、出来るものならな。健闘を祈る……」


 リュートが振りかえらないまま、手を振る。


「そ、そんな……」


「そうだ、出来ればちょっとだけでも間を持たせておいてくれ」


 リュートが顔だけ振り向いて告げる。


「はい?」


 イオナが首を傾げる。


「頼んだよ」


「あ、ちょっと! しょうがないなあ……あの!」


「はい?」


「うん?」


 双子のエルフがイオナに顔を向ける。


「単刀直入に申し上げます! 勇者さまのパーティーメンバーに加わりませんか⁉」


「ええ?」


「う~ん?」


「お二人ならきっと活躍間違いなしですよ! さあ、詳しいお話は喫茶店ででも!」


「ちょっと待ちたまえ……」


「はい⁉」


 イオナが振り向くと、金色の整った髪型をした勇者が立っていた。


「我がパーティーのメンバーに何か御用かな?」


「わ、我がパーティー?」


「ああ、我々の仲間だ。引き抜きなんて下品な真似はやめてもらおうか」


「げ、下品って……」


「まったく困るのだよ……君みたいなエセスカウトにまとわりつかれるのは……」


「エ、エセスカウト⁉」


 イオナがムッとする。


「気に障ったのなら申し訳ないね……ただ、僕は事実を言ったまでだから……」


「じ、事実⁉」


「だってそうだろう? その者の所属をきちんと確かめずに勧誘するなんて……」


「む……」


「君のような素人はお呼びではないのだよ。我々はれっきとしたプロなのだからね……」


「ぐっ……」


 イオナが唇を噛む。


「さあさあ、さっさと消えてくれたまえ」


「……素人は素人なりにやり方があります!」


「なに?」


「お願いします! こちらのお二人を引き抜かせてください!」


 イオナが勢いよく頭を下げる。勇者が困惑する。


「なっ⁉」


「お願いします!」


「い、いや、お願いされても困るよ……」


「そこをなんとか!」


「なんとかって……」


「間を持たせてくれたようだな……」


「! リュートさん!」


 リュートがドサッと袋を勇者の足元に投げつける。袋から金貨の音がした。


「どうせ酒癖が悪いとかで、アンタに借金でもあるんだろう? そこの賭場で金を作ってきた。この街を三分の一買える金だ。これで十分だろう。双子は引き抜かせてもらうよ」


「な、何を……」


「「お世話になります!」」


 エルフの双子がリュートに頭を下げる。勇者が驚く。


「レプ⁉ ルパ⁉」


「……交渉成立だな」


 リュートが笑みを浮かべる。

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