第5話(3)同じ顔のエルフ

「はあ、外れだったかあ……」


 街を歩くイオナががっくりと肩を落とす。


「そもそもとしてだな……」


「え?」


 イオナがリュートに視線を向ける。


「当たり外れで考える方がおかしいんだよ」


「いや、こういうのは当たり外れでしょう?」


「まあ、そういう要素がまったく無いこともないんだが……スカウティングというもので大事になってくるのは……」


「なってくるのは?」


「そのパーティーメンバ―というパズルにピタリとハマるピースかどうかだ」


「ピース……」


「ああ」


「例えば?」


 リュートがずっこけそうになる。


「……今例えたんだが」


「も、もうちょっと具体的にお願いします!」


 イオナが両手を合わせる。


「はあ……良いかい? パーティーメンバーに勇者やら剣士やら前衛ばかりを揃えたってしょうがないだろう?」


「そ、そうですね……」


「かといって、魔法使いやら賢者やら後衛ばかり集めてもしょうがない」


「た、確かに……」


「バランスというものもある」


「バランス?」


「ああ、人数だけいたずらに揃えても機動力が落ちる」


「ふむ……」


「逆に少人数でも、いざという時、決定打に欠ける恐れがある」


「ああ……」


「バランスというのは他の意味もある」


「他の意味?」


 イオナが首を傾げる。


「なんだと思う?」


「な、なんでしょう?」


「実力差だ」


「実力差……」


「レベル差と言い換えても良いかもな」


「レベル差……」


「大体の平均を揃えないと、必ずパーティーの誰かに負担がかかり過ぎてしまう」


「な、なるほど……」


「だからと言って低いレベルのメンバーで頭数を揃えてしまうと、どうしてもこじんまりとしたパーティーになってしまう」


「そ、そうか……」


「分かったかい?」


「え、ええ……」


 イオナが頷く。


「他にも考慮する要素はあるが、とりあえずそれを頭に入れておけば良いさ」


「あ、あの⁉」


「なんだい?」


「も、もうしばらくご同行してもよろしいのでしょうか?」


「ああ、構わんよ」


「ほ、本当ですか?」


「何を疑うことがある?」


「い、いえ、お役に立てなかったので……」


「ハナから成功することは期待していないさ」


「は、はあ……」


「どうせ失敗するだろうと思っていた」


「わ、分かっていて行動させたんですか?」


「そうだ」


「ひ、酷い⁉」


「ただ……」


「ただ?」


「君のガッツはよく分かった……」


「ガッツ?」


「ああ、そうだ」


「こ、根性論ですか?」


「結局大事になってくるのはそういうとこだよ」


「はあ……」


「それに……」


「それに?」


「……いいや、なんでもない」


 リュートが首を振る。


「なんですか、気になるじゃないですか」


「まあ、その内分かる……」


「その内って……」


「きゃあああ!」


「⁉」


 イオナとリュートが視線を向けると、ゴブリンの集団が街に侵入してきた。


「グヘヘッ……人間ども、金と女をよこしな!」


「酒と肉もだ!」


「歯向かうやつは殺っちまうぞ!」


「マ、マズい……はっ⁉」


「……」


 金髪碧眼のエルフがゴブリンたちの前にふらりと現れる。


「あん? なんだあ?」


「今なら神様も許してくださいます。どうぞお引き取りください」


「てめえ、指図すんな、エルフがよ!」


「あなたたちを傷つけたくありません……」


「ああん? 何を言ってやがる!」


「傷つくのはおめえだよ、エルフの姉ちゃん!」


 ゴブリンがエルフに襲いかかる。イオナが叫ぶ。


「あ、危ない、占い師のお姉さん!」


「ふん!」


「がはっ⁉」


 エルフの女が水晶玉でゴブリンを殴りつけた。


「商売道具をこういう形で使いたくなかったのですが……」


「使ってなかったような⁉」


 イオナが思わず叫ぶ。


「くそっ!」


「ああ、ゴブリンが別方向から!」


「うい~っ!」


「ぐはっ⁉」


 もう一人のエルフが強烈かつ素早いキックをお見舞いし、ゴブリンを吹っ飛ばす。


「お酒臭い……貴女、また昼間からお酒を……」


「へへっ、酒は百薬の長って言うでしょ、姉さん……」


「かえって寿命を縮めそうだけど……」


「お、同じ顔のエルフ……双子⁉」


 イオナが驚く。

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