第2話(4)三人目

「お疲れのところ、失礼するよ……」


「!」


 控室にリュートが入ると、注目が集まる。


「お、おい、あれは……」


「ああ、伝説のスカウトマン、リュートだ……」


「本物か?」


「マジかよ、初めて見た……」


「誰をスカウトに来たんだ?」


 控室がざわつく。


「すごい、有名人ですね……」


「ミイラ取りがミイラになってしまってはしょうがない……」


 イオナが感心する横でリュートが苦笑する。


「お目当ての方は?」


「うん? いないな、控室に戻ったはずだが……」


 リュートが控室に入り、周囲を見回しながら歩く。


「おい、リュートさんよ」


「うん?」


 リュートが振り返ると、そこには大柄で禿頭の男性がいた。


「今回は不覚を取ったが……俺の剣は役に立つはずだぜ?」


「『豪剣』のガルベス……残念ながら君に用はない」


「なっ!」


「あまりにも力任せ過ぎる……技の後に隙が出来やすいのを改善した方が良い」


「むう……」


 ガルベスが黙る。


「なるほど、俺がお目当てってことだな?」


 小柄な男性がリュートに話しかける。


「『激剣』のスアレス……君にも用はない」


「んなっ!」


「剣速は大したものだが、一撃がどうも軽い……一撃必殺の心構えが欲しいな」


「ぬう……」


 スアレスも黙る。


「はは~ん、っていうことはアタシにお誘いだね?」


 長身の女性がリュートに話しかける。


「『魔剣』のマルシア……飲みの席なら喜んでお誘いしたけど、君でもない」


「なに?」


「剣技はなるほど見事だったが、それに溺れてしまっている。もっと精進が必要だ」


「うぬ……」


 マルシアも黙る。


「ふっ、僕の才能は隠し切れないようだね……」


 中肉中背の男性がリュートに話しかける。


「『秘剣』のゴンザレス、手の内を隠し過ぎだ……主役気取りはいらない」


「なにっ⁉」


 ゴンザレスが愕然とする。


「自分の……」


「『猛剣』、言うほど猛っていなかったぞ」


「ぬっ⁉」


「私の……」


「『天剣』、ぴょんぴょん跳ねていただけだったな」


「うっ⁉」


「ワイの……」


「『獣剣』、あれは荒々しいのではなくて、ただ粗いだけだ」


「むっ⁉」


 話しかけてきた者たちに対し、リュートがシンプルに講評を伝える。


「……ふん」


「ん?」


 がっしりとした肉体の男性がリュートの前に立ちはだかる。


「やはり、わたくしのオーラに惹かれたか……」


「……誰だっけ?」


 リュートが首を傾げる。


「なぬっ⁉」


 男性が愕然とする。イオナが声を上げる。


「リュ、リュートさん!」


「うん?」


「『覇剣』のフェルナンデス選手ですよ!」


「ああ……」


 リュートが思い出したかのように頷く。


「ふ、ふん、どうだったかな?」


 フェルナンデスは髪を優雅にかき上げながら問う。


「……正直、一番期待外れだったな」


「なぬうっ⁉」


「リュ、リュートさん⁉ なんてことを!」


「思ったことを伝えたまでだ」


「も、もっとこう、オブラートに包んで……」


「それで鍛錬を怠り、実際の戦闘で怪我したり、命を落としたりしたら最悪だろう……自身の現状としっかり向き合うことが大事だ」


「そ、それはそうかもしれませんが……」


「まあ、あまり気にするなよ、評判倒れというのはよくある話だ……」


 リュートはフェルナンデスの肩をポンポンと叩き、通り過ぎる。


「ひょ、評判倒れ……」


「だ、だから言い過ぎでは⁉」


「ストレートに言った方が誠実だと思うがね」


「む、むう……」


 リュートが痩身の青年の前に立つ。


「優勝おめでとう。見事な戦いぶりだったよ」


「……どうもありがとうございます」


 座っていた青年は立ち上がって頭を下げる。


「聞きたいことがあるのだが、良いかな?」


「はい」


「お師匠さんは?」


「祖父ですが、俺が子供のころに亡くなったので、そこから約十年はほぼ独学です」


「ふむ……大会に出るのは初めてかい?」


「はい、なにせ田舎者ですから……試合自体もほぼ初めてです……」


「自分の優勝という結果は率直にどう思う?」


「マグレなんじゃないかと……」


「なるほど分かった……アーヴさん」


「は、はい⁉」


 リュートは青年の近くにいたぽっちゃりとした女騎士に声をかける。


「準優勝おめでとう。惜しかったね。しかし大健闘だ」


「あ、ありがとうございます……でもまだまだです。力も速さも技も……」


「そうか……君をパーティーメンバーにスカウトしたいのだがどうかな?」


「ええっ⁉」


 リュートの申し出にアーヴが驚く。イオナが慌てて尋ねる。


「こ、こちらの彼を誘う流れじゃないんですか⁉」


「己の強さをはっきりと自覚していない者は伸び代がない。その点彼女はしっかりと自己を省みることが出来ている……。どうだいアーヴさん、今の勤め先より金払いは良いぜ?」


「お、お願いします……」


「決まりだな」


 頭を下げるアーヴを見て、リュートが笑みを浮かべる。

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