第2話(2)メリットデメリット
「リュートさん!」
ある街を歩くリュートを呼び止める声がある。リュートが振り返ってみると、そこにはイオナが立っていた。
「はあ……」
リュートが思いっきりため息をつく。
「ろ、露骨なため息つかないで下さい!」
「そりゃあつきたくもなるだろう……」
「何故ですか?」
「こちらが何故だよ?」
「え?」
イオナが首を傾げる。
「アシスタント期間は終了だろう?」
「勝手に決めないで下さいよ、今現在、リュートさんが請け負っている依頼が終わるまではお側で勉強させてもらいますよ」
「それこそ勝手に決めるなよ……」
リュートが頭を掻く。
「大体ですね」
「ん?」
「私の連絡先は教えておいたじゃないですか」
「ああ、紙をもらったっけ?」
「まさか……捨てたんじゃないでしょうね?」
イオナが目を細める。
「いや、ちゃんとあるよ」
リュートがポケットからクシャクシャになった紙を取り出す。
「ク、クシャクシャ……」
「捨ててないだろ?」
「……見てないですね」
「まあね」
「はあ~」
イオナが肩を落とす。
「自分だって露骨なため息ついているじゃないか」
「そりゃあそうですよ……何故ですか?」
「なにがだい?」
「なんで連絡してくれないのかってことですよ」
「ああ……」
リュートが顎をさする。
「これでは困りますよ」
「何が困るというんだい?」
リュートが首を傾げる。
「アシスタントなのに、現場にいなかったら、アシスタントの仕様がないじゃないですか⁉」
「それは君、アレだよ、アレ」
「アレ?」
イオナが首を捻る。
「俺にはアシスタントは必要がないということだ」
「なっ……」
「簡単なことだろう?」
「馬車を呼んだりとか、色々させたくせに!」
「それは雑用というものだ」
「ざ、雑用……」
「子供でも出来ることしか頼んでいない……違うかい?」
「う、ううむ……そ、そう言われると……」
イオナが腕を組む。
「話は終わりだ」
リュートが前を向いて歩き出す。
「ま、待って下さい!」
「待たない」
「約束を違えるおつもりですか⁉」
リュートに並びかけたイオナが問う。
「ちっ、覚えていたか……」
リュートが舌打ちする。
「忘れるはずがないでしょう!」
「しかしだね……」
再び立ち止まったリュートが頭を抑える。
「なにか?」
「君をアシスタントにして俺になにかメリットがあるかい?」
「メ、メリット……?」
「そう、得することだ」
「い、いきなりそう言われても……」
イオナが再び腕を組んで考え込む。
「どうだい?」
「……アレです、アレ!」
「アレとは?」
「アレと言ったらアレじゃないですか!」
「無いんだな、分かった」
リュートが歩き出す。
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
「待たないよ」
「ご迷惑などはおかけしません! つまり!」
「つまり?」
「デメリットはありません!」
「……」
「………」
「それで納得するわけがないだろう」
「で、ですよね~」
イオナが苦笑する。
「こんなしょぼくれたおっさんに付きまとっていないで、気の合う友達と遊びにでも行った方が良いんじゃないか?」
「リュ、リュートさんはしょぼくれてなんかいません! 素敵なナイスミドルです!」
「ふむ、その辺の見る目はあるんだな……」
リュートが立ち止まって、イオナをじっと見つめる。
「は、はい……」
「うん、もう君は立派にやっていける。教えることは何もない」
「え……」
「それじゃあ、失礼」
「ちょ、ちょっと⁉ 誤魔化さないで下さいよ!」
「ふう……」
リュートはため息をつきながら額をポリポリと掻く。
「同行を認めて下さい!」
「そういえば……」
「え?」
「なんで俺がこの街に来ると分かったんだ?」
「い、いや、魔法使いを確保したとなれば、お次はあの役割かなと……」
イオナが建物の壁に張ってあるポスターを指差す。リュートが頷く。
「……ふむ、それなりに考えてはいるようだな……」
「あ、あの……?」
「同行を許そう、馬車を呼んできてくれ」
「は、はい!」
イオナがその場から走り出す。ポスターには『剣術大会』と書いてある。
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