画家の少女2
「セリーナさーーーん!起きてくださーい。」
静かな部屋に響き渡る少女のルナリスの声だ。なるほどということはもう昼の時間なのか。
「あぁ、ルナリスさん、ということはもう昼の時間ってことか。んっ、んー。よく寝た…気がする。」
自室のソファに寝転がしていた体を起こし軽く伸びをする。目を覚ますには伸びという行為は非常に大事なことだ。脳が活性化するような気がするからである。といっても目を覚ますことはできても視界は真っ暗でなにも見えないのだけど。
「そうですよ昼です!お姉さまが作られた完璧なお料理を食べる時間です!さぁ行きましょう!」
ふいに右手をギュッと握られ引っ張られる。触れたルナリスの体温、心拍数等から彼女の今の機嫌を読み取る。なるほど、どうやら今は機嫌がいいらしい。おおかたレイと会い会話をしたのだろう。彼女が喜ぶことといったら基本はそれにしかない。私とルナリスはこのカペナウムの中で2人しかいない司祭だ。施設内には祈祷を行う部屋があるが我々の中での主神はレイだ。だがレイ本人はこのことを知らない。彼女は私達司祭が他の世間一般的な神を信仰していると思っているのだから。
「ルナリスさんレイに会ったんですね。ルナリスさんの服についた匂いから察するに一緒に料理をしたんですか?」
「っ!そうなんですセリーナさん!お姉さまがお料理の場に私を呼んでくださって!それでそれで…」
人間の五感というものは味覚、聴覚、嗅覚、視覚、触覚だ。そのうちの視覚を私は失っている。だからこそそれ以外の4つで視覚を補おうと私のソレは進化した。特に嗅覚は色々と嗅ぎ分けることが出来るから特化してくれて本当に助かった。
「よかったですね、ルナリスさん。」
「…私、お姉さまにあの時助けていただけてよかったです。こうならない未来の先ではきっと絶望しかなかったから。」
もし目が見えていたのならルナリスの頭を撫でていたことだろう。ルナリスの過去というのは一言では表せない程壮大な話なのだから。
だからこそ、というべきか否か。その壮大な過去を持つルナリスは自分自身を救ってくれたレイを神のように信仰している。ルナリスが彼女を信仰する限りルナリスの尊敬が私に向く日はきっと来ない。どういうことなのかというとナゲットにソースをたっぷりとつけるというのがわかりやすいだろう。ナゲットに1回ソースをつけてしまえばそれを完全に取り除くのは無理。ルナリスはレイというソースにどっぷり使ってしまっている。抜け出すことは容易ではない。けれどもそれでいい。彼女の傍にいられて成長を感じることが出来るのならばルナリスがどんな沼にハマろうと私は構わない。尊敬されなくてもいいのだ、ルナリスが私を捨てさえしなければ。
「ルナリスさん。私もね、レイに会えて拾ってもらえてよかったと思っているんですよ。だって、あの日死ぬはずだった私を拾って居場所をくれて貴方と出会わせてくれた。彼女には感謝しかないですよ。」
「…ふふっ。今さらセリーナさんもお姉さまの良さに気がついたってことですか?まったく〜遅いですよ!だって私の
神様は無限の優しさを愛をくださるのだと昔誰かが言っていた。味方には尋常ではない程の優しさをくれるレイはいつかきっと優しさを与えすぎたせいで壊れるだろう。優しさが人を壊す、そういう日がいつか訪れる。けれどそうならないように私は祈ろう。彼女が壊れればルナリスがシュンが他の皆が、壊れる。そうしてカペナウムは崩壊するのだから。
「おーい、セリーナさん?ご飯行きますよー?いいですかー?」
「あ、うん。行きましょうか。そういえばルナリスさん、今日のお昼ご飯のメニューはなんですか?」
「えっとですね…」
一日でも長き平穏を。
「なるほど、それは楽しみですね。って…なんか忘れてる気が…うん?ルナリスさん、レイが昼ごはんを作ったんですか?えっと、シュンは、その場にいましたか?」
「シュンさんですか?んーと、確かシュンさんは居なかったですね。…お姉さまとヘリオさんとフロルさん、あとグライドさんがいました!」
その3人は料理ド下手なメンツではないか。砂糖と塩の見分けがつかなかったりするし、唯一マトモなのはヘリオだけど、食べれればいいの精神でいるしな、
「…急に味が…心配になってきた…なぁ、」
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